30話 救援訪問6
俺に力強い眼差しを向け、懇願したいと打ち明けてきたデュヴェルコード。
「ロース様、ひとつお願いがあります!」
「らしくないが、改まって何だ?」
「らしくないは余計ですが、懇願致します! このブリを、魔王城に招き入れさせてください!」
デュヴェルコードはブリアーヌの肩を掴み、強引に自身の隣へと引っ張った。
「本来であれば、憎き人族を魔王城に入れるなど、言語道断。それを理解した上でお願いです。
ブリに人族の血が流れていようと、半分はハーピィという魔族の血。魔王城に招き入れるのに、半分も条件を満たしております。この子も雑魚魔獣に襲われて、身も心もボロボロのはず。そうですよね、ブリ!」
まるで同意を求めるように、デュヴェルコードは勢いよくブリアーヌに顔を向ける。
「う、うん。そうだけど……」
「ほらっ、本人も不調を訴えています。体も汚れて傷まみれ、ヘトヘトの体力。おまけに雑魚に追い回されたのです、プライドもメンタルもズタズタになって当然。心身共にケアが必要です。
長居とは言いませんので、どうか回復するまで魔王城で保護させてください! わたくしは困っているブリを、見過ごせません!」
メンタルが傷ついたのは、屈辱が原因ではないと思うが。
隣にいる本人が恐ろしい魔獣と話していたのに、何故か自分のものさしで魔獣の強さを置き換えやがった……!
まぁ恐ろしい魔獣の正体がゴブリンだから、雑魚と言い換えたくなる気持ちは、分からなくもないが。俺も拍子抜けしたし……!
「お前の気持ちは理解した。しかしだな、ンーディオとの決戦を控えている今、私たちに他者を気遣う余裕など」
「それも存じておりますが、お願いです! ご飯もちゃんと上げますし、トイレもちゃんと躾けるので! 責任を持って面倒見るので!」
「お前はペットを飼いたいとせがむ、ワガママな子供か」
しかもお世話の問題ばかりで、俺の懸念材料がひとつも配慮されていないし……。
「良いではないですか! 以前ロース様だって、マンドレイクをペットにしたいと、あれだけ駄々を捏ねていたくせに!
耳障りな叫声を放つからと、わたくしがどれだけ注意して反対した事か!」
ムキになった様子で、俺の知らない魔王の過去を掘り起こしていくデュヴェルコード。
「分かった分かった、許可する。私も、助けを求めて必死にこの城へ辿り着いた弱き者を、見殺しになどしたくはない。
ただし、先の決戦まで時間はない。ンーディオとの戦闘に、支障をきたす事がないようにな」
「はいっ! 良かったですね、ブリ!」
まるで無邪気な子供のように、デュヴェルコードは満面の笑みを浮かべた。
「うん、ありがとうデュヴェルコードちゃん。あとね、私には関係ないかもだけど、ンーディオって誰? その人と何か勝負をするの?」
「ンーディオとは、敵さんですよ。憎き人族を従える、チンピラ勇者です。明後日、ソイツとこの魔王城で、死闘が起こります。簡単に言えば、他種族との戦争ですね。流れ弾には気をつけないといけませんよ」
デュヴェルコードの説明を受けるなり、ブリアーヌは顔をみるみる青ざめさせた。
「………………あ、明日にはここを出ようかな」
ブリアーヌは目を泳がせながら、ガチガチの動きで回れ右を始めた。
恐らく厄介事に巻き込まれると直感し、自ら身を引きたくなったのだろう。
「どうして出ていくのですか、1日で完治するほど、体調は良くないでしょ! 気遣いや遠慮なんて不要ですよ、甘えてください! 頼ってください!」
お節介を焼くデュヴェルコードを目の当たりに、固まるブリアーヌ。
これは遠慮とかではなく、ただ戦闘に巻き込まれたくないだけの防衛本能だろ。すっごい嫌そうなんだが……!
「どうしたのブリ、そんなに遠慮しないで……そうだっ! せっかくなので、レア姉にブリを紹介しますよ!
レア姉とは、わたくしの姉なのですが、とっても美しいダークエルフですよ!」
「お、お姉ちゃんがいるのね」
「はいっ! 闇魔法と魔剣を自在に操る、冷酷な最終エリアボスです! 人族がとにかく嫌いな姉なので、初見はブリの事をあまり良く思わないかも知れませんが、まぁ成り行きで何とかなるでしょう! 言葉遣いや態度を1歩でも間違えれば、闇に葬られてしまいますが、気に入ってもらえれば何の弊害もありません!」
「へ、へぇ……」
空っぽのリアクションと共に、ブリアーヌの瞳から徐々に光が失われていく。
どうやら今ので、ブリアーヌのマインドはゼロになったのだろう……。
「お前は何でマイナス要素ばかり説明するのだ、不安を煽っているだけだろ」
「後から真実が明るみになるよりはマシですよ! ささっ、ブリ。ロース様も。早くレア姉たちの所へ戻りましょう! 『テレポート』!」
デュヴェルコードは俺とブリアーヌの手を素早く掴み、そのまま両手で万歳をしながら魔法を詠唱した。
「着きましたよ、ブリ! ここは魔王城の医療エリアです!」
魔法陣に包まれた俺たち3人は、一瞬にして医療エリアへと移動を果たした。
そして到着するなり、俺は抜け殻寸前のブリアーヌに視線を向ける。
「ブリアーヌよ、魔王城へようこそ。歓迎してやる」
俺がこんな事を思うのは何だが、ブリアーヌ。逃げたくなったら、いつでも逃げていいからな……。
「わたくしも歓迎します、ブリ!」
――魔王よりも手強く恐ろしい、このロリエルフから……!




