30話 救援訪問5
デュヴェルコードとブリアーヌの感動的な絆が結ばれる中、身勝手に雰囲気をぶち壊したコジルド。
「貴様らだけで納得しよって、我のターンを奪った代償はどうする気であるか、このロリフレンズが!」
「ロリフレンズって、コジルドお前なぁ……」
俺はコジルドの愚劣っぷりに呆れ、肩を落としながらため息を吐く。
「貴重な夜を迎えた我を差し置いて、貴様らは呑気にフレンド申請か? 上っ面だけのなんちゃって友情ごっこに付き合うほど、我は暇ではない!」
コジルドは下目遣いで睨みつけながら、交互にふたりを指差していく。
「コジルドよ、空気読めないにも程があるぞ」
「ですがロース様! フレンド申請できたのは、この側近小娘だけですぞ! 我には我の言い分があります!」
コジルドは怒りの矛先をブリアーヌに向けるように、キッと睨みつけた。
「おいっ、ヒヨッコ娘。そんなに疲労困憊でグロッキーなら、ロース様や側近小娘に代わり、我が面倒を見てやろうか? アバラでも1本ずつ折ってくれよう。痛みで気力が跳ね上がるショック療法だ、忽ち元気が漲るぞ!」
「い、嫌だよ……! 私はあなたのようなイケメンより、こっちの大きなバケモノの方がいい!
イケメンのくせに、頭ポンポンもしてくれないなんて。優しいバケモノに劣るイケメン、やだぁー!」
俺とデュヴェルコードの陰に隠れ、コジルドを拒絶するブリアーヌ。
いつまでもバケモノ呼ばわりされる事より、そのマニアックなゲテモノ好き風の発言をやめて欲しいんだが……!
「ルゥード……! 貴様、誰に向かって口を聞いている!」
「おいコジルド! お前いい加減にしろ!」
いつまでも脅し続けるコジルドに、俺が痺れを切らした時。
「ロース様、お下がりください」
デュヴェルコードが、俺を呼び止めてきた。
涼しげにも聞こえる落ち着いた声色だが、表情は鬼気迫る恐ろしさを感じる。
「このパカでコジったヴァンパイアは、今この場でわたくしが処理します。乙女の友情を邪魔した、報いを……『トゥレメンダス・ウィンド・ブースト』」
デュヴェルコードはコジルドに片手を翳しながら、突風魔法を詠唱。
すると翳された手の平に魔法陣が出現し、凄まじい圧の突風がコジルドに向け吹き出された。
「ぐおっ! またこんな役まわっ……!」
――ドゴォン!
激しい衝突音と共に、城内で煙幕のような土埃が舞う。
コジルドの体は突風により、いとも容易く城内の壁まで吹っ飛ばされた。
「ふぅ、排除完了。真に排除すべき邪魔者は、コジルドさんでしたね、ロース様」
「あ、あぁ……もはやお約束になってきたな、コジルドの退場芸」
俺はコジルドの吹っ飛んだ方向を見つめ、呆れながら額に手を当てた。
あの厨二野郎、いつでも誰かのガソリンになるな。エネルギーではなく、火に油を注ぐ意味で……!
「そもそも、アイツはいったい何に怒っていたんだ?」
「さぁ……もしかして、わたくしたちを見て羨ましくなったとか? 始めは相手にされていたのに、気付けばコジルドさんは蚊帳の外。しかし一方、過去の苦悩を共有し、仲良くなっていくわたくしたち。その様子を目の当たりにして、妬いちゃったとか」
「それはあり得そうだな。要するに、コジルドに縁のない友情という繋がりが、羨ましくなったのだろう。多分」
「はぁ、まったく……ブリアーヌ。酷なお願いですが、あの痛いヴァンパイアが次に絡んできたら、表面上だけでもお友達になって上げてください。お情けでも、仕方なくでも構いませんので」
デュヴェルコードはため息を吐きながら、ブリアーヌの肩にポンポンと手を添える。
吹っ飛ばされた挙句に、酷い言われようだな。
しかしこれで、念願のフレンド申請が来るかも知れないぞ、コジルド。お情けフレンド申請が……!
「それよりブリアーヌ。つい強めに魔法をぶっ放してしまいましたが、怪我はありませんか? 巻き込まないよう注意はしましたが、寒くありませんでしたか?」
どんな心配の仕方だ……!
「うん、大丈夫だよ、デュヴェルコードちゃん」
「そうですか、良かった。それなら安心しましたよ。ブリアーッ…………ブリ!」
戸惑いながらも、突然あだ名らしき呼び方に切り替えたデュヴェルコード。
何だか冬に旬を迎える、出世魚みたいなあだ名だな……!
「ブリって、可愛いね! あだ名なんて初めてだよ。ありがとう、デュヴェルコードちゃん! それに、バケモノさんも……」
ブリアーヌは警戒した様子で、俺にゆっくりと視線を向けてきた。
「ロースだ。名乗っていなかったのは失礼したが、そのバケモノ呼ばわりは止めようか。迷って出した呼び方にしては、ストレートな侮辱だな」
「ご、ごめんなさい、ロース様!」
「それで、ブリアーヌとやら。ここへは何しに来た? 魔王城に何か用事でもあるのか?」
俺はブリアーヌの警戒心を和らげるため、同じ目線の高さになるよう腰を落とす。
「ここへは、逃げてきました。暗い森で恐ろしい野生の魔獣に襲われたので、助けを求めに……」
「恐ろしい魔獣だと?」
「はい、今でもあの恐ろしい姿が、瞼の裏に焼きついています。見るからに獰猛そうな姿に、品性のない佇まい。捕食者の風格を感じさせる、ヨダレまみれの口元。悍ましく暗い瞳、荒々しい爪、そして牙」
当時見た記憶を鮮明に思い出したように、語りながら血色が悪くなっていくブリアーヌ。
「ソイツはいったい、どんな恐ろしい魔獣だ。想像もつかないぞ」
見当がつかない中、俺はブリアーヌの口にする特徴を基に、恐ろしい魔獣を脳内でイメージしてみる。
「私は一心不乱に逃げてきました。『ゴブリン』という、恐ろしい魔獣から……!」
「………………お、恐ろしい、魔獣?」
魔獣の正体を明かされた途端、俺の脳内で描いていた魔獣のイメージが、粉々に砕け散った。
「ま、まぁ……か弱き者から見れば、ゴブリンでも恐ろしく感じる事はあるか……」
恐怖は人それぞれ、そんな言葉を心の中で噛み締めていた矢先に。
「そんな事より、ロース様! わたくしから、ひとつお願いがあります!」
両手をグッと握り締めたデュヴェルコードが、力強い眼差しで俺を見つめてきた。
「そんな事よりって、なんて乱暴な遮り方だ。酷いヤツだな……!」




