30話 救援訪問2
「着きましたよロース様、正門前です」
何者かが魔王城に接近中という放送を聞きつけ、『テレポート』で正門前に移動してきた俺とデュヴェルコード。
「着きましたよって……」
しかしこの子はあろう事か、選抜したメンバーの内、コジルドだけをその場に置き去りにして、俺たちふたりだけをテレポートさせた。
コジルドのヤツ、きっと後から激昂して登場するだろうな……!
「さぁロース様! この城に近づく身の程知らずを、チャチャっとひと目見て抹殺致しましょう!」
殺気立った様子で肩を回し、脇目も振らずに前方へと歩き始めたデュヴェルコード。
しかし俺は、そんな足早に正門を潜ろうとするデュヴェルコードの肩を掴み、進撃を阻止した。
「ちょっと待てデュヴェルコード、なんて瞬発力してんだ!」
「なぜ止めるのですか、止めないでください! 滾っちゃう、血が滾っちゃうんです!」
「滾っちゃうの前に、まずはそのパントマイム的な足踏みを止めろ。ルームランナーに乗っているみたいだぞ。
それに約束しただろ、大人しくしていろと。なるべく平和的解決に話を進めると」
俺が静止を促すなり、デュヴェルコードは足踏みを止め、勢いよくこちらへ振り向いてきた。
「ルームランナーとは存じ上げない言葉ですが、平和的解決なら簡単です! わたくしの魔法ひとつで、魔王城に平和が訪れます!」
「だから、無闇になかった事にするのはよせ。私がまず外の者と話す、お前は後ろで大人しく待機。これは命令だ」
「むぅ……かしこまりました」
「それとデュヴェルコードよ。私が話す時、背後からその露骨な殺気は出すなよ」
俺が注意するなり、デュヴェルコードの眉がピクリと反応した。
「どうしてですか! どこの馬の骨かも分からない輩に、のっけからナメられますよ!」
「どうしてって、平和的解決を望む話し手の背後に、徒ならぬ殺鬼が居てみろ。怖いだろ。平和的の説得力もなくなるし」
「ど、努力します」
デュヴェルコードは表情をそのままに、きょとんと肩を落とす。
「よろしい。無理やり笑顔を作れとは言わん、ただ相手を睨むな。睨みたくなったら、私の背後に潜んでいろ。攻撃の指示を出せば、好きに魔法を放っても構わないから」
「承知致しました。しかしその時は、なるべく早めの判断をお願いします。とびっきりの火炎魔法で、逃げ場もなくなるほど広範囲を火の海に致しますので」
「………………それはよせ、私も巻き込まれる。てかこの件、何回目だ」
俺は顔を引き攣らせながら、デュヴェルコードの前に移動した。
「では行くぞ」
「はい、ロース様」
俺はデュヴェルコードを背後に置いたまま、薄暗い広場を歩き始める。
そして正門を潜ったところで、場外を見渡しながら歩みを止めた。
「何者かは知らないが、確かにひとり近寄ってくる者がいるな。覚束ない足取りだが、走っているのか?」
俺の目に映ったのは、正門を目指しフラフラと駆けてくる、茶色いフード付きのローブを纏った人物。
体力が底をつきそうな足取りで、薄暗い平地を弱々しく進んでくる。
「小柄だな。人族か? それとも魔族か……?」
ローブで前進を隠した者の正体を考えていた矢先に、俺の背中がクイクイと引っ張られた。
「ロース様、ご決断を。あれは敵です。1発撃ってよろしいですか?」
「ダメだ、ステイ」
急かすデュヴェルコードに見向きもせず、俺はローブの人物を見つめ続ける。
だが、そんな時。
「――この無礼小娘! 我の発言中に瞬間移動しよって、貴様から屠ってやろうか!」
背後から、コジルドの怒声が響いてきた。
「我をコケにしよって、この大バカ無礼者がぁ!」
声を荒げながら、激昂したコジルドが大扉から歩み寄ってくる。
その時、ローブを纏った者がフラフラと正門まで到達し、倒れ込むように俺へと体を預けてきた。
「危ない!」
俺は思わず、両手で抱えるように小さな体を受け止めた。
「コイツ……いや、この子。体力切れか?」
フードの下に隠れていたのは、幼い少女の顔。
弱々しい呼吸で、如何にも疲労困憊した様子だった。
「コジルド! 速やかに私の元へ来い! この子を回復させろ!」
俺は敢えてデュヴェルコードを選ばずコジルドを指名し、俺の元へ急ぐよう指示を出した。




