30話 救援訪問1
『――早く正門前にお越しください! 薄汚れたフード付きのローブを羽織った何者かが、魔王城に接近中です! ロース様! これは訓練ではありません! あっ、緊急放送です、繰り返しです!』
突として魔王城に流れた、お馴染みのおかしな城内放送。
「気持ちが悪い放送だな。伝える順が、丸々逆なんだが……」
俺は医療エリアのスピーカーを見つめ、顔を引き攣らせる。
「次から次へと、何てトラブルの多い日だ」
「おっしゃる通りです。まったく、もう日が暮れたと言うのに、滞りなく事件が訪れますね」
両腕を胸の前で組み、片足で貧乏ゆすりをするデュヴェルコード。
「とにかく、何者か確認できていない以上、放置する訳にはいかない。魔王城にとって害悪をもたらす存在であれば、早急に排除しなくてはな」
「異論ありません、大賛成です! 明日は絶対にダラダラ休みと決めたばかりなのに! 速攻で排除して参ります!」
デュヴェルコードは紫色のオッドアイを鋭く光らせ、闘志を剥き出すように腕捲りをした。
「待て待て、早まるな。何を手っ取り早く、なかった事にしようとしてんだ。休暇前のトラブルを即時解決したい気持ちは分かるが、まずは確認する事が先決だろ」
「むむぅ……おっしゃる通りです」
デュヴェルコードは気に食わない様子で、ムッとした表情を浮かべる。
しかし、俺の発言への賛同とは裏腹に、なぜか袖を更に捲り上げていく。
「か、体は正直だな。賛同は口ばかりで、殺気がダダ漏れだぞ」
きっと心の内では、『排除すれば最速で済む話なのに!』とでも喚いているんだろうな……!
「フハハッ! ロース様、ご提案が。日も暮れた事です、ここは適役と思しき我が出向こう!」
マントを派手に広げながら、突然高らかに名乗りを上げてきたコジルド。
「なるほど。ヴァンパイアのお前には、ピッタリな時間帯だな」
「ジンクス……! そうですぞ。あの忌々しきお天道様が寂滅せし今、我のターンが始まったのです」
「忌々しく思っている割りに、太陽を敬って呼んでいるが……まぁ良い。コジルドよ、私と共に来い」
「なんと、ロース様もご同行されるのですか?」
こちらを見つめ、コジルドは不思議そうに首を傾げる。
当たり前だ。コイツひとりだと、不安要素しかない。きっと暴走して、事を荒立てるに決まっている。
俺がコイツの抑止力にならなくては……!
「私自ら出向く事こそ、早期解決に至る近道。直接現状を把握し、その場で迅速な判断と指示を出せるよう、私も行こうと言うのだ」
「そのようなお考えが。分かりましたぞ、共に参りましょう」
「よし、そこでだ。対話は私が試みる。お前はいつでも応戦できるよう備え、私の後ろで待機だ。なるべく平和的解決に至るよう語りかけてみるが、話の通じない敵と見做した場合は、躊躇いなく暴れて構わん」
「承知しましたぞ! ではロース様、『テレポート』で参りましょう!」
やる気に満ちた返事と共に、コジルドは俺に片手を差し出してきた。
そんな時。
「ロース様、わたくしも同伴致します! 何者かは存じ上げませんが、空気も読めない常識知らずに、文句のひとつでも言ってやりたいのです! 『トゥレメンダス・グラトニーフレイム』と!」
再び紫色のオッドアイを光らせ、両手の指をポキポキと鳴らし始めたデュヴェルコード。
ダメだ、端から暴走の予感しかしない。
問題児をふたりも引き連れて、俺ひとりで制御し切れるのか……!
「それは文句ではなく、殺意満点の魔法詠唱だろ。本当にひと言で、全てを終わらせる気か?」
「指示が出るまで大人しくしますから、ちゃんと良い子にしますから! ですから、わたくしも行きます! それに護衛がコジルドさんだけでは、心許ないですし! 側近である以上、わたくしがロース様をお守りするのが筋です! こんな筋違いの痛いヴァンパイアひとりに、ロース様を任せられません!」
デュヴェルコードはコジルドに指を差し、思わず後退りしてしまう程の勢いで、俺に近づいてきた。
「き、貴様ぁ! 愚弄にも程がある! 我が信用に欠ける力量だと、眉唾の強さだと、そう吐か……」
「――『テレポート』!」
コジルドが文句を言い終わる前に、デュヴェルコードは俺の手を取り、お構いなしに魔法を唱えた……!




