4話 猛者復活4
レアコードの蘇生をするべく、俺たちは真っ赤なカーペットを辿り、玉座の椅子付近へと移動した。
「それではロース様、蘇生を始めます。くれぐれも、姉に心を奪われぬようご注意を」
「あぁ。大袈裟だとは思うが、肝に銘じておこう。始めてくれ」
「かしこまりました。いきます……アトモスフィア・クラシ……!」
「ストップだ!! 詠唱が違う気がするのだが、一応確認するぞ。何をしようとしているのだ?」
嫌な予感がした俺は、咄嗟にデュヴェルコードの詠唱を遮った。
「えっと、その……。せっかくなので、感動的な姉妹の再会に合わせ、雰囲気とか出してみようとクラシックを……」
「いらない。魔力を節約する約束だろ?
なんのために、ここまで歩いて来たと思っている。
そもそも、先ほど雰囲気をぶち壊したのは誰だよ」
「うぅ、そうでした。では、お葬式のようなこの雰囲気のまま、蘇生を致します」
デュヴェルコードは表情を曇らせ、片手を構えた。
復活の儀をすると言うのに、なんて酷い例え方だ……!
「レア姉、戻ってきて。『リザレクション』……」
蘇生魔法を唱えた途端、デュヴェルコードの黄色い片目が、淡く光り出す。
すると、玉座の椅子を中心に魔法陣が出現。神々しい光に包まれながら、椅子に腰かけ両足をクロスした、女性らしき人影が現れ始める。
「ロース様、蘇生完了までもう間もなくです」
「そ、そうか。ちなみに、これは玉座の椅子なんだよな……?
配下の者にしては、いろいろと偉そげなんだが……!」
神々しい光の中、だんだんとシルエットは濃くなり……。
そして。
「ロース様、お待たせ致しました。わたくしの姉、レアコードです」
デュヴェルコードの紹介と共に、光と魔法陣は消失し、椅子に座ったレアコードが姿を現した。
「ここは、魔王城かしら……? あたくしは、いったい……」
「おかえりなさいレア姉。たった今、わたくしが蘇生させたのです」
「あら、デュヴェルじゃない。それにロース様まで。お目覚めになったのですね」
レアコードは軽い笑顔を見せ、クロスした足を華麗に解き、椅子から立ち上がった。
蘇生直後にも関わらず、動揺する様子もないまま、こちらに歩みを寄せ始める。
黒みがかったサラサラの赤髪に、ハリのある小麦色の肌。アメジストのように輝く、紫の瞳。
そしてデュヴェルコードの言う通り……。
「な、なんて抜群のプロポーションだ。『エロかっこ可愛い』が、成立している……!」
俺は近寄ってくるレアコードに目が釘付けとなり、思わず小声を漏らす。
デュヴェルコードの説明が、何ひとつ大袈裟でなかったと、確信を持った……!
スラリと伸びた、長い手足。
聞かずとも見た目で分かる、完璧なスリーサイズ。
寸分違わず全てのパーツが美的に配置された、気品の溢れる小顔。
ボディラインを壊さない、誘惑的ボンテージとヒールブーツ。
本当に、見る者すべてを虜にしてしまいそうだ。
さすが、3大グランドスラム……!
「んん……? どうなされたの、ロース様? ジッと見つめて。あたくしの顔を、お忘れになられたの?」
コッコッとセクシーなヒールの足音を鳴らし、レアコードは近寄りながら俺の顔を覗き込んでくる。
「レア姉。ロース様はお目覚めになって以来、記憶を失われているのです」
「そうなのね。なら、はじめましての方がよろしいかしら?
………………えっと、ねぇデュヴェル。これ……ロース様は大丈夫?」
俺の前で立ち止まり、首を傾げたレアコード。
片や、心配される俺はと言えば……。
「ロース様!! あれだけご注意をと申し上げたのに!!」
俺はレアコードの魅力に心を奪われ、荒息を吐き……固まっていた……!
「ロース様! お顔がだらし無くなっていますよ!
だから油断しないでって…………って、どこ握っているんですか! それに、どんどん大きくなって……!」
「あらあらロース様。対面早々に、お盛んですこと」
「変な言い方はよしてよレア姉!
ロース様、冷静に! 落ち着いて、その手を離して! 取り返しがつかない事になりますよ!」
デュヴェルコードの怒声に、俺はハッと我を取り戻した。
「すまない……! あまりに魅了され、つい握ってしまった。確かにこれは、覚悟のいる対面だった」
冷静になった俺は、握り締めた力を抜き…………自分の左胸から手を離した。
「礼を言うぞ、デュヴェルコードよ。あまりのドキドキに、思わず自分の左胸を握っていたようだ。
危うく、心臓を握り潰す勢いだったな……。私の剛腕なら、普通にあり得そうだ」
「本当ですよ、間一髪でした! それに、どんどん大きくなっていった鼓動が、うるさかったです」
「確かに騒がしい鼓動ではあったが……聞こえていたのか……?」
「このトンガリ耳は、伊達ではありませんからね」
「あたくしにも、聞こえておりましたわ」
ダークエルフというのは、地獄耳なのだろうか……?
「な、なんにせよ無事に蘇生はできたな……。レアコードとやら、まずは復活おめでとう。
そして復活早々にすまないが、もうじき勇者が再来すると思われる。恐らく一戦交える展開になるだろう。
そこでお前を即戦力として、考えても問題はないか?」
俺がレアコードへ、質問を飛ばした矢先に。
『――定期連絡! 定期連絡!
ただいま正門前にて、敵軍を確認した事をお知らせします。手の空いているリスナーは、速やかに正門へとお越しください。ハリアップ!』
3日ぶりに、またしても定期連絡とは思えない内容の放送が、城内に流れた……!