表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/304

29話 勇者信書2





 俺の頭頂部に刺さった矢を凝視ぎょうしするなり、ンーディオと書かれた紙を見つけたコジルド。


「コジルドよ、本当にンーディオの名が書かれているのか?」


「左様ですぞ。スキル『オートエイム』の使い手である我の目に、くるいなどありませぬ」


「今『オートエイム』は全く関係ないが、本当にンーディオの送ってきた矢と紙なら……いったい、何のつもりだ……?」


「レター……! これがぞくに言う、()()()というヤツでありましょうか」


 まるで得体の知れない物を触るように、コジルドは俺に刺さった矢をツンツンと指で突っつく。


「ヤブンではなく矢文やぶみだろ。夜更よふけじゃあるまいし。

 て言うかツンツンしてないで、早く取ってくれ。両腕を失った今の私では、自力で取れないのだから」


「それは失礼しましたぞ。ではロース様、少しかがんで頂けますかな?」


「分かった。早くしろよ」


 俺はコジルドの要求通り、両腕のない上半身を前に倒し、お辞儀のような体勢をとった。

 なんだか、俺がコジルドにびを入れているような絵が浮かぶんだが……!


「ありがとうございます、急ぎますゆえ…………よしっ、フハハッ! 綺麗きれいに取れましたぞ!」


 コジルドの報告を聞き、俺は元の体勢に戻る。


 しかし。


「コジルドよ、お前はマヌケか。何で結ばれた紙()()取ってんだ。矢ごと取れよ」


 見るとコジルドの手には、折り目の入った紙しか持たれていなかった。

 という事は、未だに矢は俺の頭頂部に刺さったままかよ。まるで串カツじゃないか、ロースだけに……!


「い、いやぁ……。我が矢を抜くより、あのクレイジードクターに抜かせた方が、得策でありますぞ。あの不気味な白衣娘でも、一応は医者の端くれ。不用意に我が抜いて、噴水ふんすい出血でもしたら……」


 何か後ろめたい事でもあるのか、目を泳がせ俺から顔をそむけたコジルド。


「何だその、初めから抜く気のなかったような反応は。まさかとは思うが、血を見るのが怖いのか? ヴァンパイアのくせに」


「フ、フハハッ……そんな、ベターなコミカルでもあるまいし。我に怖いものなどない……ですぞ」


 コジルドは不都合を誤魔化す様子で、手に持つ矢文をソッと俺に差し出してきた。

 コイツ、まさか本当にヴァンパイアのくせに、血を見るのが怖いのか?

 血を見るのが怖い医者より、シュールだな……!


「私に差し出されても困るだろ、持てないのだから。デュヴェルコードよ、代わりに受け取ってくれ」


「かしこまりました」


 デュヴェルコードは俺の指示にしたがい、コジルドから矢文を受け取る。

 そして折り目のついた矢文を、丁寧に両手で広げた。


「長文だな。どうやら本当に手紙のようだが、差出人はンーディオか?」


「そのようですね。ではロース様に代わり、わたくしがチンピラ勇者からのお便たよりを、読み上げましょう」


 俺たちがやり取りをする最中さなか、何を思ったのかコジルドが、こちらに顔を振り向かせてきた。


「ベストスピーカー……! なかなかの名案であるな、側近小娘よ。両腕を失われて手紙も持てぬロース様に代わり、貴様が読み聞かせをするのであるな。

 まったく、かゆいところに手が届く小娘であるな」


 コジルドはデュヴェルコードに指を差し、分かり難い例えと共にニヤリと笑顔を浮かべた。

 何だよそのめ言葉、逆にムズムズしてくるんだが……!


「確かに、今のロース様は何も持つ事ができませんが、両腕の有無は全く関係ありません。側近として、当然の務めをまっとうしているだけです。代読だいどくのご要望があれば、ロース様のお手をわずらわせる事なく、きっちり代読します」


「立派な忠誠心だな……。一応これからも頼むぞ、デュヴェルコード」


「お任せください! いつだってわたくしは、ロース様のかゆいところに手が届く存在ですから!」


 デュヴェルコードはきらびやかな笑みを浮かべ、手に持つ紙を握りつぶしながら、可愛らしいガッツポーズをとった。


 どちらかと言うと、痒いところを爪でえぐってくる存在なんだが。

 些細ささいな事でも、この子が関わるといつも大事おおごとに変わってしまう……!


「コホンッ。それでは、チンピラ勇者からのお便り、読み上げさせて頂きます」


 デュヴェルコードは軽くせき払いをしたのち、張り切った様子で両手をピンッと伸ばし、矢文を顔の前に広げた。


 まるで夏休みの作文でも朗読する、小学生のようなたたずまいだな……!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ