28話 少女心願7
俺への尋問会にて、背筋がゾッとする質問をしてきたレアコード。
「な、何が言いたいのだ、レアコード」
俺はレアコードと目を合わせたまま、緊張を必死に隠す。
「何がとおっしゃられても。どうでもいい催しですので、どうでもいい質問をしたまでですわ。ロース様は、本当は誰って」
どうでもいい質問の割に、目が怖いんだが。
まるで心の奥底まで探るような、鋭い慧眼だ。
「だ、誰って……」
本当に早く茶番を終わらせたいだけの、素っ気ない質問なのか。それともそれを装って、俺の正体を聞き出そうとしているのか。
俺は冷や汗をかきながら、震える視線でレアコードの目を見つめる。
少しでも目を逸らすと、見透かされそうな圧迫感だ。
魔王城の中でも、レアコードは鋭い洞察力を持っている魔族。俺の正体に不信感を抱いて質問してきても、何もおかしくない。
だって俺は、本当の魔王ではない。
昏睡状態にあった魔王の体に転生した、ただの元高校生だ。
――今まで黙っていただけで、コイツは気づいていたのか?
いったい、どう返答すれば……。
「どうしたのかしらロース様、目が泳いでいますが」
「はぇっ……」
考察中に突然声をかけられ、俺は思わず声が裏返った。
「お、お前の美顔が近すぎるあまり、見惚れて感動して泣きそうなだけだ」
「ふふっ、それは嬉しいですわ。で、早く答えてください。時間の無駄ですので」
美しい微笑みを浮かべながらも、机を指でコツコツと連打しながら、返答を急かしてくるレアコード。
「私は……私だ。ここに存在する、私そのものだ。それとも、お前の目には私が偽りに映っているのか?」
後ろめたい気持ちの中、俺は無理やり真剣な表情を作り、言葉を濁しながら答えた。
「いいえ、ロース様ですわね。正真正銘の」
「そ、そうか。ならそれが事実だ」
真実は違うがな……!
俺はレアコードの納得した様子にホッとし、肩から力が抜けた。
「そうですか、分かりましたわ。はい、あたくしの番は終わり、お開き」
「そんなサラッと……」
あんなに疑いの雰囲気を漂わせながら、レアコードは本当に興味も関心も持たぬ態度で、俺から顔を遠ざけた。
俺がどんな答えを出そうと、コイツにとっては本気でどうでも良かったのかも知れないな。さすがはドライモンスターだ……!
「おいコジルド、もう充分だろ。いい加減、この失った両腕の治療を受けさせろ」
俺は椅子から立ち上がり、コジルドにこの下らない尋問会を終わらせるよう指示した。
「そうですな、側近小娘はいいとして、ここにいる全員が質問しましたし、これにて解散と……」
「ちょっと、そこの司会進行! 何故わたくしは対象外なのですか!」
閉会しようとしたコジルドを遮り、突然デュヴェルコードが怒声を放った。
「何であるか小さき者よ、急に声を荒げて。不満でもあるのか?」
「当たり前ですよ、これが満足そうな者の声に聞こえるのですか! 陸に敵さんの足止めもできずボコられた、恥知らずヴァンパイアのくせに!
こんな時くらい、まともな働きをしてください! 次はわたくしが質問する番でしょ!」
「な、なんだと! あの足止めは、貴様のためでもあったと言うのに、この無礼者! 恩知らずな小娘に、与える出番などないわ!」
「わたくしだって、ロース様に聞きたい事ありますよ!」
「貴様はいつでも質問できるであろうに、魔王の側近なのだから! 我々はエリアボス、つまりは指定領域の守護者。守るべきエリアから離れられない我らは、招集でもかからぬ限り、滅多にロース様へ質問などできぬ役所。
貴様のように、いつでもロース様とお喋りに耽られるほど、こっちは暇人ではないのだよ! この依怙贔屓小娘が!」
デュヴェルコードの顔を覗き込み、指を差しながら立場を主張するコジルド。
その言い方だと、俺までお喋りに耽る暇人になるだろ……!
それに、守るべきエリアから離れられない割りに、よく城内をチョロチョロしていないか?
行く先、行く先で、コジルドに出会すイメージなんだが……!
「誰が暇人ですか! コジルドさんだって、しょっちゅう出歩いては、ロース様や他の魔族に茶々を入れて、皆んなからウザがられているくせに! この徘徊常習犯、歩く傍迷惑!」
「あ、歩く傍迷惑は言い過ぎであろうに……。そんなに尋問会のフィナーレを飾りたければ、勝手に飾るが良い……」
まるで胸に矢でも刺さったように、コジルドは力なく胸を手で押さえ、背中を向けた。
「ロース様、わたくしも質問しますからね! 宜しいですね!」
デュヴェルコードは熱を帯びた態度のまま、俺に勢いよく体を向けてきた。
「デュヴェルコードよ、コジルドの言う通り、お前はいつでも気軽に質問できるだろ。どうせ皆と同じく、陸な質問では……」
「ロース様っ、お答えください! 先ほどの最上級魔法について、詳しく! 一体全体、『パーフェクトヒール』とはどういう事ですか!」
「あっ……その事……」
予期せぬデュヴェルコードの質問に、俺は思わず言葉を詰まらせる。
的確かつ、この場で最も相応しい質問の内容だが、俺が最も返答に困る質問。
いつも1番まともでないこの子が、何故こういう時だけ1番まともになるんだよ……!




