4話 猛者復活3
――俺たちふたりが、玉座の間へと向かう道中で……。
「ロース様、本当の本当に心してお立ち合いください。姉は危険ですので」
デュヴェルコードは事前に、俺へと注意を促してきた。
「その危険とはなんだ? まさか敵味方に関わらず、闇雲に暴れ回るタイプなのか……?」
「いいえ。性格はキツいですが、無闇に暴れたりなどはありません。むしろ冷静な立ち回りをします」
良かった……。聞く限りでは、デュヴェルコードのように掴みどころがないタイプではなさそうだ。
あわよくば、この側近を制御してくれる、ストッパーになるかもしれない。
「冷静ねぇ。好感が持てるじゃないか。そんな者が、どんな危険を纏っているのだ?」
「はい、わたくしの姉は…………美しいのです。とにかくモテるのです……!」
「はぇっ……? それが危険!?」
俺は、少し拍子抜けした。
「危険極まりないです! 油断なされたら、心を持っていかれますよ!
城内でも、サキュバスに匹敵するモテようでしたので。姉は、『エロかっこ可愛い』と言う異名で有名でした。
まさに、女の子が憧れる要素の3大グランドスラム……!」
両手を大きく広げ、デュヴェルコードは姉の凄さを物語る。
しかし熱弁する一方で、微量の悔しさを含んだ顔色も見てとれた。
「そ、そこまで……? モテるのは分かったが、大袈裟なのでは」
「少しも話は盛っておりません。本当にキレイなので、どうか引き込まれぬようご注意を」
「あぁ、一応は頭に入れておこう。ところで、なぜお前は少し悔しそうなのだ?」
「べっ、べべべべ別に悔しくなんて! 自慢の姉ですから!
…………そりゃ歳上だけあって、姉の方が背も高いし、大人びた容姿ですが……!
わたくしの方が頭も良いし、魔法も凄いし、性格も良いし、ロース様への忠誠心も負けませんし……。
ですから悔しいなどと思った事はありません! 自慢の姉です!」
「…………対抗心むき出しだな。とても姉の自慢に聞こえなかったぞ」
「だって……。ロース様が姉に惚れて、側近を代われなどと言い出さないか、ちょっと不安で……。
フンッ! なんでもありません!」
デュヴェルコードは両手を後ろで組み、プイッとそっぽを向いた。
「またしても、ぜーんぶ話したな……。心配しなくても、魔法がほぼ使えない私にとって、お前は隣に必要な存在だ。
側近を務め続けた者としての、キャリアやプライドもあるだろうに。そう易々と、交代させたりはせんよ」
「ロース様……。以前とは少し変わられましたね。まさか、そのようなお言葉をかけてくださるとは……」
未だ俺の反対を向いたまま、デュヴェルコードはしんみりと語りかけてくる。
「そう……かな。長い眠りは、人の思考も変えてしまうのかもな。
お前の言う『私が少し変わった』とは、いい意味で捉えてお……」
「到着致しましたよ、ロース様! ここが玉座の間です!」
俺を遮り、しんみりムードをぶち壊したデュヴェルコード。
やっぱり側近交代を、検討しようかな……。
話し込んでいたうちに、俺たちは玉座の間まで辿り着いていた。
体育館よりも広々とした空間に、見上げるほど高い天井。中央には真っ赤なカーペットが敷かれ、その先に玉座の椅子が設けられている。
「ここが玉座の間か。なんて広さだ」
「はい。魔王城の中で、ここが最大のエリアです。そして……わたくしの姉が、最後に戦ったエリア……」
隣を見ると、デュヴェルコードの体は震えていた。
先ほどまで、姉への対抗心をむき出しに語ってはいたが……。やはり同胞として、そして妹として、思うところもあるのだろう。
「そうだな。お前の姉が、最後に……いや、最後まで戦ったエリアだ。
エリア中に残った戦いの痕跡が、お前に姉の尽力を伝えてくれている。厳しく、激しい死闘だったのだろうな」
「姉妹の気持ちを汲んでくださり、ありがとうございます。
姉はこの玉座の間で、勇者の右腕に討たれたと聞き及んでおります。言わば……言わばあの女は、姉の仇です……」
話すにつれ、デュヴェルコードの震えが大きくなっていく。
「お前の姉を蘇生し、私たち皆で敵を返り討ちにしよう。その震えるほどの悲しみと、悔しさを持って……!」
俺は震えるデュヴェルコードの肩に、ソッと手を添えた。
「いえ……。このエリアが広すぎて、肌寒いのです。それで震えが……!
何か、羽織る物はございませんか? ガクブルッ……!」
「……………………いろいろ台無しだな」
どうやらこの側近は、寒くて震えていただけらしい。
本当にこの子は、包み隠さずなんでもしゃべるな……! 姉が知ったら、悲しむぞ……。
「昔からここが、定例集会の会場になっておりましたが、わたくしはいつも震えておりました。
そういう時に限って、ロース様のお話長いし、内容薄いし……!」
挙句に、本人を前にして不満を漏らし始めた。
まるで、全校集会で陰口をたたかれる、校長先生の気分だ……!
「な、なんか…………すまん」
念のため、前魔王の代わりに……俺が謝った……。