28話 少女心願3
「――この2分間、俺は世界最強の魔王だ!」
女神エリシアから授かった、1回限定の最上級魔法『パーフェクトヒール』。
デュヴェルコードのために使用を決意し、この身に発動させた俺は、ドンワコードに向かい全力で駆け出した。
この魔法の効力が続く限り、俺は不死身にして、無敵の魔王だ……!
「覚悟はいいな、ドンワコード!」
俺は黄緑色の光に包まれながら、振り被った右腕に力を込める。
「雑魚が意気がってんじゃねーよ、ボケが! 『クリスタルウォール』!」
俺の勢いに押されたのか、ドンワコードはバックステップで距離を取り、俺との間に数枚の障壁を展開させた。
「無駄だ、『アトラクション』!」
結晶の壁が立ちはだかるなり、俺は左手を伸ばし引力魔法を詠唱。
先ほどドンワコードが投げ捨てたトレーニング用の錘を、地面から左手に引き寄せた。
――パパパパパァン……!
引き寄せた錘を投げつけるなり、正面に張られた数枚の障壁が、薄いガラスのように連続で割れ散っていき。
「うがっ、ボケがー!」
障壁を貫通した錘が、その先にいたドンワコードの肩に直撃した。
そして。
「『エクスプロージョン・ハンマー』……!」
怯んだ隙を見計らい、俺はドンワコードに爆裂パンチを放った。
「ふざけっ、『クリスタルシールド』!」
爆裂パンチのモーションを見せるなり、腕にシールドを張り顔面を覆ったドンワコード。
敵ながら、見事な対応の早さだ。だが……!
――ズドォォォーーーン!
魔王城広場に、痛快な爆発音が響く。
「そんな結晶1枚では、私の爆裂パンチは防げないぞ!」
俺の爆裂パンチを受けたドンワコードは、黒煙を裂くように真っ直ぐ城壁へと吹っ飛んだ。
一方、俺の右腕は爆裂パンチの代償により、跡形もなく消滅した。
しかし『パーフェクトヒール』の効果により、失った右腕は瞬時に再生される。
「なんて、素晴らしい回復魔法だ」
再生した腕の感触は申し分ない、これなら本当に爆裂パンチを連発できる。
再生したばかりの右腕に、関心の目を向けていた隙に。
「ふざけんじゃねー! 蹂躙だ、お前は蹂躙決定だ!」
城壁の方から、ドンワコードが殺気に満ちた目つきで、こちらに向かい高速で飛んできた。
「『トゥレメンダス・ダークライトニング』!」
「無駄だ! 一撃で私を仕留めない限り、私は何度だって回復する!」
俺は唯一の攻略法を敢えて口にしながら、ノーガードで黒紫色の稲妻を体に受けた。
確かにこの『パーフェクトヒール』にも、致命的な弱点がある。
どんなに優れた回復魔法でも、その対象者が命を落としてしまっては、回復しても意味がない。
しかし俺には、そんな弱点を無効化できるスキルがある。
それは、どんな一撃を食らっても体力が残り僅かとなるサポートスキル、『プレンティ・オブ・ガッツ』。
ゴブリンに足を踏まれただけでも、体力が残り僅かとなってしまうようなお気の毒スキルが、こんな形で活躍してくれるとは……!
「まだまだ! 『エクスプロージョン・ハンマー』!」
俺は迫るドンワコードの胸ぐらに掴み掛かり、追撃を開始。
「ボケが、大ボケ魔王が! トゥレメンダス・ダーク……」
「もう遅い!」
――ズドォォォーーーン!
ドンワコードの魔法よりも早く、再び右腕を失いながら爆裂パンチを放った。
「がはっ……ボケが……!」
俺の右腕が瞬時に回復する中、ドンワコードは黒煙に包まれながら、力なくエビ反りで宙を舞う。
「まともに食らって、まだ意識があるとはな。しかし、デュヴェルコードの味わった苦痛はこんなものではないぞ!」
「だ、黙れ……! 『トゥレメンダス・リーンフォースメント』、『トゥレメンダス・グレーターフライ』」
ドンワコードはボロボロの体で、支援魔法と飛行魔法を唱え、肉体強化をしながら空中へと逃れた。
だが、俺は構う事なく空中へとジャンプし、一瞬でドンワコードの頭上を取り。
「『エクスプロージョン・ハンマー』!」
躊躇う事なく、空中で爆裂パンチを振り下ろした。
――ドォーーーン!
「ぐはっ!」
魔王の体に備わった剛腕と、爆裂魔法の衝撃。ふたつの力をその身に受けたドンワコードは、目を見張る勢いで地面に叩きつけられた。
その間に、俺の右腕は再び回復を遂げる。
「このまま落下の勢いに拳を乗せれば……! 『エクスプロージョン・ハンマー』!」
俺は空中からの落下速度を利用し、重力を乗せた爆裂パンチを繰り出す。
しかし、着地の直前で。
「バ、バカのひとつ覚えが!」
ドンワコードは仰向けの状態から、まるでバク転をするように体を回転させ、間一髪のところで俺の攻撃を回避した。
だが俺は、不発に戸惑う事なく左手を翳し。
「『アトラクション』!」
距離を取ろうとするドンワコードに、引力魔法を唱えた。
そして、引き寄せられてくるドンワコードに狙いを定め。
「『エクスプロージョン・ハンマー』!」
相手の迫る勢いを利用した、カウンターの爆裂パンチを放った。
「シ、『ショック・リダクション』……!」
ドンワコードは必死な様子で、俺の爆裂パンチの威力を魔法で低減させる。
「まさかお前が、守りに入るとはな」
「黙れ、黙れ! お前の回復が追いつく前に、闇の炎で焼き尽くす! 『トゥレメンダス・カオスフレア』!」
強がりか、それとも『パーフェクトヒール』の効力切れを狙った時間稼ぎか。ドンワコードは俺に向け、苦し紛れに等しい魔法を放ってきた。
俺はそんな黒い炎を避けようともせず、両手で扉をこじ開けるように、炎を左右に振り払う。
「そんな虚仮脅しの炎など、取るに足りない!」
「ハァ、ハァ……ボケがぁ!」
上級魔法の連発と、爆裂パンチによるダメージの蓄積が応えだしたのか、膝に手をつき息を荒げるドンワコード。
「そろそろ『パーフェクトヒール』が切れる頃だ。次の一撃で決着をつけるぞ、ドンワコード」
「ハァ、ハァ……ガハハッ、ボケが。そう簡単に、俺様に勝てると思うなよ」
ボロボロになりながらも、ドンワコードは不適な笑みを浮かべ、上目遣いで俺を睨んできた。
そして、何故か真横に右手を翳し。
「俺様の目的は、お前じゃねーんだよ、ボケが」
「その手の方向は、まさかっ……逃げろ! デュヴェルコード!」
ドンワコードの翳した右手に胸騒ぎを覚えた俺は、咄嗟にデュヴェルコードを目指し駆け出した。
「くたばれ、光の魔女が。『トゥレメンダス・ダークライトニング』」
不適な笑みを浮かべたまま、ドンワコードは右手の平に魔法陣を出現させた……!




