28話 少女心願2
「待たせたなドンワコード、お前を倒す準備が整ったぞ」
デュヴェルコードから想いを託された俺は、ゆっくりとドンワコードに歩みを寄せ始める。
「あぁ? それは脅しか、それとも寝言か? 適当なこと吐かしてんじゃねーよ、ボケが」
まるで俺では相手にならないと言わんばかりに、コキコキと首を左右に鳴らしたドンワコード。
「脅しでも寝言でもない、これは断言だ。今から私の手で、お前を倒す。以前の私と思っていたら、あの世で後悔する事になるぞ」
俺は拳を握り締め、一歩一歩重みを噛み締めながら、ドンワコードに近づいていく。
「くどいんだよ。出来もしねーくせに、出しゃばって来んな」
「出来るさ。魔王の名にかけて、お前をこの城……いや、この世から排除する」
「さっき突っ込んできたヴァンパイア同様に、お前まで身の程知らずだな。この城はそんな類いの雑魚しか居ねーのかよ。
前回、あれだけ力の差を見せつけてやったのに、頭ボケてんのか? もはや脳筋魔王と言うより、ヤケクソ魔王だな」
「自棄など起こしていない。言っただろ? 以前の私ではないと」
俺はドンワコードから視線を外し、首だけを振り向かせ、背後に控えるデュヴェルコードに軽く笑いかけた。
「お前の願いを、実現させるからな。デュヴェルコード……!」
俺は軽く微笑み、デュヴェルコードの反応を待つ事なく、再び正面へと向き直る。
「…………エリシアさん、もはや迷いも躊躇いもありません。涙を流すあの子のために、遠慮なく使わせてもらいますね……」
俺は顔を俯かせ、女神エリシアを思い浮かべながら、誰にも聞こえない声量で呟いた。
そして、大きく息を吸い込み。
「――決着をつけるぞ、ドンワコード! 最上級魔法、『パーフェクトヒール』発動!」
ドンワコードに鋭い睨みを利かし、全力で魔法を詠唱した。
「おいおいっ、バカにしてんのか? 冗談になってねーよ、お前が最上級魔法だと!」
揶揄われていると思い込んだのか、俺に指を差しながら怒声を放ってきたドンワコード。
しかし。
「…………マジか。お前、何者だよ……! 俺様でも使えねーのに」
ドンワコードの期待を裏切るように、俺の足元に魔法陣が出現。同時に、俺の体が柔らかい黄緑色の光に包まれ始める。
そんな俺を前に、ドンワコードは体を震わせ唖然としていた。
「何度も言わせるな、以前までの私ではない。お前を倒すため、地獄から舞い戻ってきたんだ! 遠慮なくこの力を使わせてもらう!」
「で、出鱈目だ! これはマヤカシだ!」
ドンワコードは現実を受け止め切れない様子で、俺に指を差しながら怒声を放ってくる。
だが、半信半疑に叫んでいるのは、ドンワコードだけではなかった。
「ロロロ、ロース様が、ロース様が! 嘘ですよね、嘘ですよね!? 倒してとお願いしながら何ですが、これ嘘ですよね!」
「ナイトメア……! 有り得ぬ、信じられぬ、これは夢であるか!? 神の領域であるぞ!」
「普通に怖。気狂いだわ」
俺の背後で、皆口々に驚きを表現していた。
ひとりだけ、安定に悪口を混ぜてきたヤツもいるが。きっとまたレアコードだろう、あのドライモンスターめ……!
俺は背後の声に構う事なく、ドンワコードに向け手を翳した。
「覚悟しろ、ドンワコード。この子に代わって、私がお前に鉄槌を下す。手は抜かないからな。
デュヴェルコードが味わい続けた苦痛を、苦悩を、己の身をもって知るがいい!」
女神エリシアから授かった最上級魔法、『パーフェクトヒール』。
この魔法の効力が続くのは、僅か2分。その間、どんなケガやダメージも、瞬時に自動で全回復してくれるという、究極の回復魔法。
この魔法の名前と説明を目にした時、俺は確信した。
俺の持つ他の魔法と、相性抜群だと。
爆裂魔法を拳に宿し、自身の腕ごと周囲を破壊し吹き飛ばす爆裂パンチ、『エクスプロージョン・ハンマー』と、ベストマッチな魔法だと……!
「『パーフェクトヒール』が続く限り、私の体は自動で回復する。瞬時に、何度でも」
「だ、だからどうした、ボケが!」
「まだ分からないのか。右腕を代償に放つ爆裂パンチが、今だけ打ち放題だという事だ。何度右腕が吹き飛ぼうと、瞬時に私の体は全回復し、繰り返し『エクスプロージョン・ハンマー』を打ち続けられる。それはつまり……」
俺は右腕を振り被ると同時に、ドンワコードに向かい全力で駆け出した。
「――この2分間、俺は世界最強の魔王だ!」




