27話 悪魔決戦6
『――おいっ! いつまでゴチャゴチャと駄弁っていやがる、ボケが! 蹂躙するぞ!』
奇抜な体勢のまま、上空から怒声を放ってきたドンワコード。
「何でアイツ、ずっと空中に浮かんだまま、律儀に斜め45度で待機してんだ……」
理解に苦しむドンワコードの行動に、俺は顔を引き攣らせながら上空を見上げる。
「よく聞け、格下魔族共! 俺様はお前ら雑魚なんかに用はねぇ、狙いはデュヴェルコードだけだ! 俺様の前に黙って差し出せ、あの出来損ないエルフを!」
ドンワコードは上空から声を張り上げ、デュヴェルコードの提示を要求してきた。
すると。
「口を慎みなさい! 汝のような野蛮エルフに、清く美しい少女を差し出せる訳がないでしょう!」
物静かだったキヨラカが、突然怒りに満ちた表情で、上空に向け叫び始めた。
「あぁっ? 何だとボケが」
「ボケは汝です! 知性なき暴言しか吐けぬ愚かなダークエルフよ、今すぐ地上に下りて来なさい!
可憐な少女の心を脅かす、傲慢と穢れに満ちた罪深き存在め。私が汝に相応しき罰を与えます!」
「お前誰だよ、大きなお世話だ」
「私が誰であろうと、今は関係ありません! デュヴェルコードさんに手を出してみなさい、その時点で汝を地獄に導きます!
主の教えに背いてでも、私の強い意志を以て、汝を滅ぼしましょう。いいから地上へ下りて来なさい!」
メラメラと沸き立つような怒気を放ち、声を張り続けるキヨラカ。
キャラに似合わないほど冷静さを欠いているが、そう言えば……。
このポンコツ修道士、デュヴェルコードに好意を寄せていた気がする。
爽やかフェイスを崩壊させるほど、庇護欲に駆られたのだろうか?
「望み通り、下りてやるよ。言っとくが、滅ぶのはお前の方だからな。後で後悔すんなよ、このシャバ僧が。どうせ誰にも止められねーんだ、俺様の野望はな」
ドンワコードは強気な宣言を口にし、ゆっくりと降下を開始した。
仁王立ちポーズと、右斜め45度の傾きをキープしたままで……。
「や、やはりあの体勢で降下するのか。前回のヤンキー座り降下といい、今回の傾き降下といい、気味が悪いな……!」
全身を横に傾け降下してくるドンワコードを見上げながら、ひとり呟いていた。そんな時。
「ロース様、私の勢い余った愚かな挑発を、お赦しください。私ではあの怖面に勝てっこないです」
凄まじく後悔した様子のキヨラカが、俺にボソボソと呟いてきた。
「………………バカなのか?」
「魔王へのお膳立てと思い、ここはひとつ……ロース様にお任せします。主もおっしゃっています、これ以上は出しゃばるなと。
あの野蛮エルフの言うように、今……。圧倒的後悔が私の中で渦巻いています」
「戦いもせずに後悔するなよ。しかも私に、全責任を擦りつけようとするし」
「ど、どうやら私キヨラカは、口先だけの悪魔修道士だったようです」
「全くその通りだ、それ代表の口先だな」
俺はキヨラカを軽く遇い、再びドンワコードに視線を戻す。
「何だかアイツ……奇妙な揺れ方しているな。風に抵抗しているのか?」
風に煽られているのか、ドンワコードの体が素早く不規則に揺れていた。
まるで凧、いや……ブラウン管テレビの一時停止のように、小刻みに震えている。
しかも仁王立ちポーズで、体を右斜め45度傾けたまま……!
「痩せ我慢だろうか……?」
理解に苦しむドンワコードの様々な行動に、俺の脳内は疑問で一杯になる。
そして見守っているうちに、ドンワコードは徐々に高度を下げていき。
――トッ、トンッ……。
俺たちから十数メートル離れた位置で、右足から順に足裏を地面に着けていった。
両足が地に着くなり、漸く体を直立に戻し、綺麗な仁王立ちを完成させたドンワコード。
筋力と体幹が優れているのか、全く体がブレずに斜め45度から直立に切り替わった。
何だか、棚に置かれる瞬間のフィギュアみたいな着地だったな……!
「ひとつ聞いてもいいか、ドンワコードよ。何故そんな間抜けた登場をする? 仁王立ちで体を右斜め45度に傾けて降下など、見ていて気味が悪かったと言うか……いっそ痛々しかったぞ」
「あぁ? 馴れ馴れしいな、死に損ない魔王。誰が右に傾いて…………そうか、忘れてたな」
ドンワコードは何かを思い出した様子で、上半身を屈ませ両手を右足首に伸ばす。
そして裾を捲り上げ、何やらリングのような物を足首からもぎ取った。
「何だそれは、隠し武器か?」
「頭イカれてんのか魔王、可哀想な知能だな。隠し武器なら晒さねーだろ、ボケが。
これは鍛錬用の錘だ。邪魔だから両手足首に付けてたヤツを、まとめて右足首に付けてただけだ。通りで右半身、重かったわけだ」
「それが、傾きの原因……」
コイツは一風変わった奇抜な猛者でも、何でもない。
見張り番が放送で伝えていた通り、ただの頭悪いヤツだった……!
「体も軽くなった事だ、覚悟はいいなデュヴェルコード。この一族の面汚し、『光の魔女』が……!」
――ドゴドゴッ!
ドンワコードは地面に錘を投げ捨て、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。