27話 悪魔決戦4
レアコードとの会話の最中、玉座の間に城内放送が響き渡った。
『――繰り返します! 只今魔王城上空から、目を疑うほどの奇抜なポーズで、ひとりのダークエルフが降下して来ました! 観測史上、最も頭悪そうな輩です!』
「奇抜なポーズのダークエルフって、まさかドンワコードか!」
「そう考えて間違いないでしょうね」
拳を握り締める俺の意見に、すんなりと賛同したレアコード。
「しかし、こんなに早く再来するとは。もう魔力が回復したのか?」
「恐らく、アイテム等で魔力を回復させたのでしょう。いくら凶暴な猛者でも、自然回復にしては早すぎますわね」
「なるほど、アイテムにも警戒を向けなくてはならないな……。とにかく、今は早急にヤツの所へ向かおう! いったい場所はどこなんだ!?」
俺は焦りを露わに、キョロキョロと辺りを見回した。
その時。
『――場所は、正門前広場です。いかにも力任せな様子が漂う、頭悪そうな輩ですので、お急ぎください!』
まるで俺の疑問に答えるように、再び城内放送が流れた。
何で見張り塔からの放送と、会話が成立したんだ? 軽く恐怖なんだが……!
「だそうですよ、ロース様」
「あ、あぁ……。何だか不気味だが、取り敢えず広場へと向かおう」
「了解しましたわ。ではロース様、お手を。瞬間移動で直行しましょう」
レアコードは俺に向け、ソッと片手を差し出してきた。
「直行でいいのか? お前、いつもの魔剣ウィケッドはどうした」
俺は魔剣を所持していない事を気に掛け、レアコードの手を取りながら質問してみた。
「あぁ、魔剣ですか。ロース様がまた敗北なさったら取りに行きますわ」
「おいっ……! 共闘もしないくせに、私が負ける前提かよ」
「ふふっ、その逆ですわ。だってロース様、何が何でもドンワを倒す気ですよね? でしたら装備を整える必要なんてありませんわ」
レアコードは俺の手を軽く握り締め、微笑みを向けてきた。
そんな不意打ちの微笑みと激励に、俺の胸がポッと熱くなる。
「ま、紛らわしいんだよ。いいから行くぞ」
「承知しましたわ、『テレポート』」
レアコードが魔法を詠唱した途端、俺たちは魔法陣に包まれた。
そして瞬きの隙に、俺たちは玉座の間から広場へと、一瞬で移動を果たした。
「着きましたわ、ロース様」
「あぁ、ご苦労だレアコード」
俺は軽い挨拶程度の労いを伝え、辺りをぐるっと1周見回した。
「見当たらないな……どこだ、ドンワコードは」
「ロース様、上ですわよ」
「上?」
上空に向け指を差すレアコードに釣られ、俺は斜め上を見上げる。
「………………き、奇抜なポーズだな」
レアコードが示す先で、ドンワコードがこちらを見下ろしながら、空中に浮遊していた。
なぜか仁王立ちポーズを取り、全身を右斜め45度に傾けた状態で……。
「まさかあの角度とポーズで、遥か上空から降下してきたのか? 確かに見張り番が、頭悪そうと思い込むのも頷けるな」
俺は予期せぬドンワコードとの再会に、顔が引き攣った。
「ところで、あたくしたちの他には、誰も駆けつけていないようですわね」
「そうだな。アウェーな要素を持つ者は、特に今回の事態に駆けつけたりはしないだろう」
俺はドンワコードから視線を切り、広場の様子を伺い始めた。
そんな矢先に。
「フハハッ! 我、参上である!」
高らかな笑い声を上げながら、突然俺の目前にコジルドが現れた。
「うわっ! コジルド!」
「ロース様、お待たせ致しましたぞ!」
「驚くだろ! ゼロ距離で急に現れるな! あと顔近いんだよ!」
俺は顔を引きながら1歩後ろへと下がり、コジルドから距離を取る。
「失礼しましたな、何せここがポートとなっております故に。まさかこんな至近距離に、ロース様が佇まれていたとは」
「まぁ、私たちも『テレポート』でここへ来たからな。それよりコジルドよ、弱点である日光が降り注ぐ中、お前ひとりで来たのか?」
「いえいえ、我は先の放送を耳にし、この小娘を連れて来たのですぞ」
コジルドの背後を見ると、コジルドのマントに包まった、デュヴェルコードの姿が。
「い、居たのかデュヴェルコード」
「フハハッ! 何を恥ずかしがっているのだ、小さき者よ。せっかく我が無理やり連れて来てやったと言うのに、いつまでも我のマントに包まるでない!」
「ん? 今お前、無理やり連れて来たって言ったか?」
「そうですぞ、ロース様! 嫌がるこの小娘を、我が無理やり瞬間移動で連れて参りました!
フハハッ! 『せっかく同族のダークエルフが来訪したのだから、挨拶くらいしたらどうだ? 顔見知りかもしれぬだろ』と、背中を押してやったのに、何故かこの小娘は酷く嫌がりおったのです。であるから我が、無理やり連れて来たのですぞ」
「パカ……コジルドさんのパカ……!」
「コジルド、お前……!」
得意げに語るコジルドを前に、俺は幻滅した表情を浮かべる。
先ほどデュヴェルコードが、俺たちに辛い過去を明かしたばかりだと言うのに。コイツは一緒に居合わせておきながら、いったい何を聞いていたんだ……!
「コジルドよ、デリカシーがなさ過ぎるぞ。デュヴェルコードは同族から爪弾きにされていたのだから、ダークエルフの誰が来ても嫌がるに決まっているだろ。しかもドンワコードなら尚更に。そのくらい配慮してやれよ」
「いやっ、我は……この幸薄顔の小娘に、気を遣ってですな」
「気の遣い方、大幅に間違っているだろ、あと幸薄とか言うな」
俺は上空で待機するドンワコードを他所に、真剣な眼差しでコジルドに物申す。
「そもそもお前、ヴァンパイアのくせに何で晴れた空の下に出て来れるんだよ。以前からちょくちょく疑問に思っていたが、日光のせいで灰などにならないのか? 今日はマントで日除もしていないし」
「なっ! そ、それは……」
俺の疑問に対し、コジルドはビクッと反応を示す。
すると俺の耳元に口を近づけ、内緒話でもするように片手を添えてきた。
「ロース様、例のアレですぞ。我の秘密である……不可視化の魔法で隠している、禍々しき翼。見えないでしょうが、その翼で直射日光をカバーしているのです」
「あれか、キャラに似合わないほど美しい羽……。コジルド、その非表示扱いの羽を暴露されたくなければ、これ以上問題を起こすなよ」
「フ、フハハッ……脅しには屈しない性分ですが、内緒のままでお願いしますぞ……!」
コジルドは強がりながら、俺の耳元から顔を引き攣らせ離れていった。




