27話 悪魔決戦3
「デュヴェルコードが、私の勝利を望んだ……?」
レアコードの推察を聞き、俺は緊張で胸がキュッと引き締まった。
「姉妹の勘ですけどね。恐らくデュヴェルは、ロース様がドンワを倒される事を望んでいると思いますわよ」
「な、何故そんな無茶な望みを……」
緊張と驚きにより、俺の額に一筋の汗が流れる。
「ドンワが攻めてきた時、怯えて動けなかったと申してはいますが、デュヴェルはロース様にとっての側近。ピンチであれば、否が応でも加勢しなければならない立場。それでも黙って見守っていたという事は、あの子の中でロース様が助けてくれるかもと、微かな希望を抱いた可能性が。
ロース様と初めて出会い、救ってもらった時のように、今回も『自分にとっての救世主になって欲しい』。そう期待したのかも知れませんわね。側近ではなく、か弱いひとりの少女として」
「そんな……期待が過ぎるのではないか?」
「確かに過ぎた期待です」
「あぁ、そこはハッキリ申すのだな。お前らしいが」
「それでも……デュヴェルの立場と気持ちになれば、あたくしも同じ事を期待してしまうかも知れませんわね。記憶を失われてからのロース様は、変わられましたから」
「うっ……そうなのか?」
俺はレアコードの発言にドキッと反応し、思わず言葉を詰まらせた。
昔と変わったも何も、完全に中身は別人なんだが……!
「相当変わられましたわよ、まるで別人のように。無鉄砲さは相変わらずな時もありますが、勇者に完全攻略されたこの魔王城を復興させようと、知恵を出し、的確な蘇生を指示し、勇者に立ち向かい。そして剰え、ロース様には不可能と思われ続けていた、魔法の取得まで実現なさり……。以前と比べて、頼もしさが増しましたわ」
「まさか、お前がそこまで私を絶賛するとは思わなかったぞ。何だか逆に気味が悪いな」
「勘違いなさらないで欲しいですわね。賛美する点もありますが、魔王として未熟な点は、未だに数知れずありますわよ。それはもう、罵り切れないほど。
気味が悪いのでしたら、今からでも毒突きに切り替えようかしら」
「いやっ……すまん。今日のところは褒め続けてくれ」
「その方が宜しいでしょうね。とにかく、以前のロース様でしたら、デュヴェルも無謀な期待は持たなかったはずですわ。
あのドンワに魔力の回復を余儀なくさせるほど、ロース様は奮闘なさりました。そんなロース様を見ながら、デュヴェルは期待したのかも知れませんね。あくまで、あの子が期待を抱いていたらの話ですが」
「デュヴェルコード……」
俺はデュヴェルコードの気持ちを考えながら、ギュッと拳を握り締めた。
「でも実際には、見窄らしく命を散らし……コホコホッ! 惜しくも敗北なさりましたが」
レアコードは拳を口元に当て、見え透いた咳払いをしてきた。
「今の、喉のせいじゃないよな? 言い間違えたってレベルでない言葉が聞こえ掛けたぞ」
「ふふっ、喉の調子が悪かっただけですわ。あたくしが、そんな無礼を働く魔族に見えるかしら?」
疑う俺に、レアコードはこの世で最も美しいと思われる笑顔を向けてきた。
「誤魔化すなよ。ズルいぞ、その美女しかできない笑顔。これ以上叱れないだろ……!」
実際には、この世で最も裏を秘めた笑顔だが。
きっとこの美しい笑顔で、相手が誰であろうと、何でも許されて来たのだろうな……。
「その笑顔に免じて、先ほどの失言は聞き流すが、もう1度だけ聞くぞ。ドンワコードが再来した際、私とふたりで共闘を……」
「お断りしますわ」
美しい笑顔を絶やさず、俺が言い終わるより早く即答してきたレアコード。
「どれだけ嫌なんだよ、まだ質問の途中だろ」
レアコードの笑顔を前にしながら、俺は頭の中で別のプランを考え始める。
正直レアコードがやる気になってくれない限り、俺たちの白星は見込めない。
他に戦える魔族と言っても、レアコード以外には訳ありしかいない。こうなれば医療エリアボスのマッドドクトールや、教会エリアボスのキヨラカをダメ元で引き連れてみるか。そもそもアイツら、ボスを名乗っていたが戦えるのか……?
ひとり静かに、対策を練っていた。
その時。
『――緊〜急〜放〜送〜っ! 緊〜急〜放〜送〜っ! 魔王城にいる負け犬思考の皆さんへ、お知らせします!』
お馴染みの、場違いな城内放送が流れ始めた。
今回は学校のチャイムのようなリズムだが、それより負け犬思考って何だよ……!
『――こちら、見張り塔から放送しております。只今、僕は魔王城の行く末を考えながら、軽く絶望に浸り、ボンヤリと空を眺めていました』
自分が負け犬思考じゃないか。
誰かは知らないが、何て不謹慎な放送を流してんだ。見張り失格だな……!
『――すると上空から、目を疑うほどの奇抜なポーズで、ひとりのダークエルフが降下して来ました! 観測史上、最も頭悪そうな輩です!』
「まさか、ドンワコード!」
俺は放送の内容に反応し、力強く拳を握り締めた。