4話 猛者復活2
エリアボスの復活を計り、デュヴェルコードが推薦してきた蘇生対象。
それは……。
「お前の、姉……?」
「はい。まず始めは、姉のレアコードを蘇生させるのがよろしいかと。
最終エリアを務めていた程です。戦力アップは確実と思われます」
「なるほど……」
俺は、少し悩んだ……。
デュヴェルコードの魔法はスゴい。素人目にも、ハッキリと分かるほどに。
その当人が信頼し、推薦してきた姉だ。きっと頼もしい実力を持っているのだろう。
だが……。姉妹という事は、同じような性格をしている可能性もある。そうだった場合、果たして俺ひとりで制御できるのか?
このお転婆な側近だけでも、そこそこ厄介なのに……。
考え抜いた末、俺が出した答えは。
「分かった。始めはお前の姉、レアコードの蘇生をしよう」
「かしこまりました。賢明なご判断だと思います。
では、玉座の間へ向かいましょう」
レアコードとやら……。
どうか、この子と同じ性格でありませんように……!
「善は急げです。ロース様、胸元に失礼致します!」
突然、デュヴェルコードは俺の胸にしがみつき。
「テレポー……!」
「ストップ、早まるな! デュヴェルコードよ、瞬間移動はなしだ。
いつ勇者との戦闘が起きるか分からん。魔力は節約しておこう。
急がば回れと言うやつだ……。歩くぞ」
俺は魔法を唱えようとしたデュヴェルコードを遮り、適当な理由を説明した。
正直、心の準備なしで瞬間移動はしたくない。気持ち悪くなるし……!
そもそも、なぜこの子は色々とことわざを知っているんだ? 『オール・ランゲージ』が、上手い具合に自動翻訳してくれているのだろうか……。
「は、はい……。ロース様が、そうおっしゃるのなら」
デュヴェルコードは、静かに俺の胸から離れる。
そして玉座の間へと向かうべく、俺たちふたりは寝室を後にした。
――俺たちは横並びに、どこまでも続くような長い階段を降りていく。
物静かな空間を、ふたりの足音が独占していた矢先に。
「ところで、ロース様」
「ん? どうした」
デュヴェルコードが話を切り出してきた。
「わたくしが眠っていた3日の間、ロース様はどうお過ごしに?」
「あぁ、私か。私はひたすら、これを探っていた」
俺は服についていたポケットらしき収容スペースから、『オブテイン・キー』を取り出した。
あれから3日ほど、俺はカードに備わった各ジャンルの一覧に目を通していた。
完全ではないが、魔法やスキルの特性を読み、自分なりに学習をしていたのである。
結局取得したのは、『スパーク』のみだが……。
この先、何が起こるか分からない以上、残り少ないポイントを無闇に消費できなかった。
加えて残念な事に、ユーザー名の変更もできないようだった……。
俺は取り出したカードを、デュヴェルコードに見せるため片手で差し出した。
「…………ん? なんです? パントマイム?」
「えっ……! いや、これだよ」
俺は空いた手で、カードを指差す。
「あの、揶揄っておられます? つまりロース様は3日もの間、ご自身の右手を探っていたと? なんのために……?
それとも、ご自身で創作なされた架空のアイテムを見せびらかして……。え、ちょっ、怖いです」
デュヴェルコードは顔を引き攣らせ、俺の右手を見つめる。
これ、見えてないのか……? まさかこのカードって、俺にしか見えない物……!?
「ロース様、一旦落ち着きましょう。
お戯れならジョークで済みますが、これを本気でなさっていたら……軽くいっちゃってます」
「あぁ……あははっ、すまなかった。ジョークだジョーク。
私とした事が、出し忘れていたよ。ほら、『スパーク』……!」
俺は咄嗟に『スパーク』を発生させ、その場凌ぎの嘘をついた。
「これだよこれ。覚えたての魔法を、ひたすら練習していたのだ」
「ロース様……暇なんですか? これを3日も、ひたすらなさるなんて。心とか、疲れてます?」
「いや……大丈夫だ! 何度もこのパチパチを見ていたら、癒されたから」
「ちょっ! 可愛い事をおっしゃらないでくださいよ!
それは少し、不意を突かれました。ギャップ萌えです」
デュヴェルコードは顔を少し赤らめ、可愛らしい笑顔を向けてきた。
かなり疑惑だらけだったが、なんとか誤魔化せたようだ……。
「デュヴェルコードよ。話を変えるが、お前の姉はどんな者なのだ?」
姉の話を振るなり、デュヴェルコードはハッと目線を上げ、途端に歩みを止めた。
俺も思わず、合わせて足を止める。
「そうでした! 蘇生させる前に、お伝えする事が!
きっとロース様は、姉の事もお忘れになられているはず。前もってお伝えしておきます。
立ち話もなんですから、向かいながらお話しを」
そそくさと、再び歩き出したデュヴェルコード。
いったい、誰が先に足を止めたと思っているんだ……!
「前もってって……。先に知っておかないと、何かマズいのか?」
「はい。正直に申し上げますと……わたくしの姉、レアコードは危険です。
記憶を失くされ、初対面に近い感覚のロース様なら、尚更の事。覚悟を持ってお立ち合いください」
何やら意味深な物言いをする、真剣な趣のデュヴェルコード。
――最終エリアボス、レアコード……。
いったい、彼女にどんな危険が。仲間にまで、危害を及ぼす者なのだろうか……?