26話 少女秘話8
感動的な過去の話を終えるなり、自ら気まずい雰囲気を作り出したデュヴェルコード。
「その……すまなかったな、デュヴェルコード。これからは否定ではなく、ひとつの案として肯定するよう心掛けよう」
「ありがとうございます。その方がわたくしも嬉しいです」
依然として俺の手を握ったまま、デュヴェルコードは満足そうに笑みを浮かべた。
「ところでデュヴェルコードよ。過去を明かしたのはいいが、気持ちの方は大丈夫か? ドンワコードに抱く恐怖心の理由は分かったが、話しただけでは恐怖心を拭い切れないだろう」
俺が質問するなり、デュヴェルコードは悲しげな表情へと変わり、再び俯いてしまった。
「は、はい……。恐怖が生まれたキッカケを、お話ししたに過ぎませんから」
「やはりか。そんな状態で、またドンワコードが攻めて来たら危険だぞ。去り際の報告を聞く限りだと、アイツの再来はそう遠くないはずだ」
「そ、それは……」
デュヴェルコードは困惑した様子で、自身の指をモジモジといじり始めた。
そんな時。
「フハハッ! 我に名案がありますぞ、ロース様!」
突然コジルドがマントを広げ、玉座の間に声を響かせた。
「何だ、いきなり大声を出して」
「フラッシュ……! ロース様、我は閃いたのです! この小娘にピッタリな、克服の糸口となる名案を!」
「お前の閃き……。本当だろうな、本当に名案なんだろうなコジルド。お前の名案ほど不安なものはないんだが」
俺はこれまでに提示されてきた、コジルドの陸でもない妙案たちを思い出し、疑いの眼差しを向けた。
「疑り深しロース様、お任せあれ! この小娘のようなしょぼくれチキンハートには、新たな力やアイテムを与え、自信をつけさせるのがベストですぞ!
自信は安心へと繋がり、安心は恐怖心を凌駕する……。『これさえあれば大丈夫』と思える何かを、掴ませば良いのです!」
「な、なるほど……一理あるな、お前にしては」
「フハハッ! 最後のご感想は余計でしたが、いかがですかな? 厄介な心の蟠り持ちに相応しい名案ですぞ!」
コジルドは自信に満ちた様子で、デュヴェルコードに人差し指を差し、素早く人差し指を折り畳む。
そしてオキマリの如く、透かさず小指でデュヴェルコードに指を差し直した。
どちらかと言うと、厄介な心の蟠り持ちはお前の方なんだが、厨二ヴァンパイア……!
「そうだな。気が紛れて、少しは肩の荷も下りるかも知れないな。しかし、私にはデュヴェルコードの自信に繋がるような贈り物なんてないのだが……」
「ご心配には及びませんぞ! 既に我の脳内で選定済み、早速取りに行って来ますぞ! 『テレポート』」
コジルドは俺の返答を求めもせず、半ば強引に話を進め、瞬時に俺たちの前から姿を消した。
「待たせましたな、これですぞ」
そして数秒のうちに、コジルドはある物を持って瞬間移動で戻って来た。
コイツは自分の出番だと勘違いした時、お祭り騒ぎのように活発化するな……!
「急ぎ宝物庫から持ち出して来ましたぞ。さぁ、これをこの小娘にお与えください!」
「何だ、そのゴツゴツとした杖のような物は」
「何だか、見覚えがありますわね。そのマジックメイス」
俺が杖らしき物をマジマジと見ていると、レアコードが声をかけて来た。
「マジックメイス……? 鎚矛のような物か?」
「えぇ、重量級のマジックメイスですわね。魔法の威力を高めてくれる上に、打撃武器としても申し分ない重量を兼ね備えた一品かしら」
「なるほど、物理と魔法の攻撃力を同時に高めてくれると言うわけか」
「そうですわね。確か元々は、人族の持ち物でしたわ。ロース様が人族から強引に奪い取り、宝物庫に保管したメイスね」
「………………奪い取った? 私が人族から?」
俺はまさかの経緯に、一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「えぇ。遠足中だった人族の子供たちを引率していた、ひとりのマジックキャスターから。たまたま目にしたそのメイスをロース様が偉く気に入られ、突然子供たちを人質に取った挙句、泣き崩れるマジックキャスターから奪い取っていましたわ。『ガキ共の命が惜しいなら、そのマジックメイスをよこせ。これは等価交換だ』と、情けない台詞を吠えながら」
まるで汚いものを見るような冷たい視線で、淡々と説明してきたレアコード。
泣き崩れるマジックキャスターから奪い取ったって、イメージ悪いな前魔王。そんな低劣な悪事なんて働くなよ……!
「そ、そんな他人の物を、私が勝手に与える訳にはいかんだろ」
「フフッ。ロース様曰く、等価交換らしいですから、そのメイスは紛れもなくロース様の持ち物ですわ」
「それのどこが等価交換だ、皮肉っぽい笑い方だな」
「フハハッ! 我も覚えておりますぞ! ロース様は無謀にも、いつかご自身に魔法の可能性が芽生えると信じ、その時に備えて大切に保管しておくと、おっしゃっていましたな!」
「無謀とか言うな、コジルド。て言うか今は私も魔法使えるだろ」
「おっと、これは失礼しましたな。ですがロース様、魔法が使えるようになった今だからこそ、我はこのマジックメイスをお与えするべきだと思いますぞ。
攻撃力が上がれば、この小娘も少しは自信がつきます。そして何より、『このマジックメイスを使えるようになったロース様』からの贈り物となれば、価値観は倍増。これぞパーフェクトな贈り物ではありませぬかな?」
「な、なるほど。言えてるな」
「フハハッ! これぞ『肉を切らせて骨を断つ』でありますな!」
コジルドは得意げな笑顔を浮かべ、マジックメイスを俺に渡してきた。
「言葉の使い方は場違いな程おかしいが、珍しく冴えた案だな。確かにお前の言う通り、これは自信と高揚に繋がる贈り物として相応しい。それに……」
俺は受け取ったマジックメイスを、片手で軽く振ってみた。
「いい重量感だ……! 打撃武器としても申し分ない。私自身で使いたくなる一品だな。
しかし……だからこそ、これは今のデュヴェルコードに与えるべきだ」
俺はマジックメイスを振り終え、力強くデュヴェルコードを見つめる。
「い、いえ。そんな物わたくしは……」
「どうしたデュヴェルコード、遠慮するな。これはお前のために、お前が所持するべきだ」
「え、遠慮とかではなく、わたくしは結構ですので……」
「そんな悲観的にならず、お前も持ってみろ。試せば自信がつく可能性だってあるし、ドンワコードにも立ち向かえる勇気が湧くかも知れないぞ。ほら、まずは持ってみろ」
「や、止めてくだ……」
俺は拒むデュヴェルコードを押し切り、半ば強引に手渡した。
次の瞬間。
――ゴドンッ!
俺が手を離した途端、マジックメイスが床に落下。
「いったぁーーーいっ!!!」
同時に、デュヴェルコードの叫声が轟いた。
重量に耐えられなかったのか、マジックメイスを握ったデュヴェルコードの右手も床に急降下し、マジックメイスの下敷きになった。
「パカッ、ロース様のパカッ! だから結構って言ったのに、この筋肉の獣! こうなる事くらい予想できるでしょ! 早く助けて、右手が、右手が折れたーっ!」
右手が下敷きになったまま、真っ赤な顔で怒声を放ってきた、か弱い魔法少女。
「す、すまん! すぐに退かす!」
俺は咄嗟に謝り、床からマジックメイスを拾い上げた。
「パカパカパカッ、ロース様のほんとパカッ! こんな重たい棒っきれ、わたくしが持てる訳ないでしょ! わたくしには必要もないし! 筋肉頼り魔族と、一緒にしないでください!」
「い、いや、私は」
「あれだけ拒んだ相手に、渡しますか普通! このノンデリカシー筋肉、卑怯者強奪犯!
コジルドさんとグルになって、何が『肉を切らせて骨を断つ』ですか! 本当に骨折したじゃないですか!」
「べ、弁解はできないが、卑怯者強奪犯って……。すまなかったから、少し落ち着け。取り敢えず治療に行くぞ」
俺は腰を落とし、激痛に耐えるデュヴェルコードの背中をソッと撫でた。
悪かったとは思うが、この厨二野郎とグルだけは御免なんだが……!
その後、デュヴェルコードは医療エリアへと運ばれ、マッドドクトールに右手の骨折と診断された。
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