26話 少女秘話3
昔の話をすると告げるなり、重苦しい雰囲気を漂わせ始めたデュヴェルコード。
俺はそんな様子を目の当たりにし、この場にいる全員に退出を指示した。
「私の復活に貢献し、また駆けつけ見守ってくれた皆には、感謝している。しかし今は、私と側近だけにしてくれ」
「申し訳ありません、ロース様。わたくしのためにご配慮を……」
「気にするな。誰にだって、話しやすい環境や雰囲気は必要だ。お前の表情から察するに、この指示が今のベストだろ」
「おっしゃる通りです、ありがとうございます」
デュヴェルコードは敬意を示すように、ゆっくりと深いお辞儀をしてきた。
「という訳だ。すまないが、ここに居る者は速やかに退出してくれ」
俺は全員に指示が行き届くよう、その場で体を1回転させ、皆の顔を見回した。
しかし……。
――ブーッ、ブーッ!
あろう事か、何者かがブーイングを始めた。
誰だよ、こんな統率と空気を乱すような行為をする愚か者は……!
俺はブーイングの発生源であろう方向に、視線を向けてみた。
「コジルド、お前……!」
口角に両手を添えたコジルドが、ひとりで部屋中に響き渡るほどのブーイングをしていた。
「フハハッ! なぜ我が、そんな小娘のために席を外さねばならぬのだ! 歩行するのも面倒だ、我はここから動かぬぞ!」
コジルドはド派手にマントを手で広げ、大々的に不動宣言を叫んだ。
今回に限っては、別ベクトルで痛いぞ、コジルド……!
だが、コジルドの信念とは裏腹に。
――ドドドドドッ……!
俺の指示に従い、足早に移動を開始した他の魔族たち。
心優しい数多の魔族たちが、速やかに部屋から退出していった。
「………………フ、フハハッ。この、レジスタンス共め」
コジルドは顔を引き攣らせ、その場に固まった。
そういう所だぞ、コジルド。お前が周りから嫌われる理由……!
「ロース様、あたくしは残っても宜しいかしら? 愛する妹に、寂しい思いはさせたくありませんわ」
魔族たちの退出により物静かとなった部屋の中、レアコードはその場に居残りしていた。
「そうだな。デュヴェルコードのためにも、お前は残った方がいいだろう。それで、お前はどうする? コジルド」
俺はレアコードから視線を逸らし、依然として固まったままのコジルドに顔を向けた。
「わ、我もここで小さき者のパストストーリーを聞こう。ロース様のためにも、その方が宜しいでしょうな」
「何で私のためが、お前なんだ。デュヴェルコードたちのように姉妹ならまだしも、私とお前にそこまで深い関係性はないだろ」
「正直に申し上げますとな……。我も少し話を聞いてみたくなったのです。それで、ここに残れそうな大人の対応を、吹っ掛けてみたのですぞ。フハハッ……」
コジルドは照れ隠しのように、マントを靡かせながら背を向けてしまった。
忘れていた。コイツは乱し者ではなく、ただの不器用な構ってちゃんだった……!
「どこが大人の対応だ。まるで構って欲しい子供の反発じゃないか」
「ほ、ほほぉ……」
「何だその、反省の見えない間抜けな返事は。だがまぁ、お前もエリアボスの一角だし、聞きたいのなら好きに残るがいい。ただし、邪魔だけはするなよ」
俺が許可を出すなり、コジルドは背を向けたまま首だけを振り向かせ、ニヤリと笑みを浮かべた。
「交渉成立……! 我の聞き耳を、欲するがよい」
「………………求めてない、むしろお前は聞かなくてもいい枠だろ」
俺は目を細め、コジルドに疑いの眼差しを向ける。
ただの野次馬が何をカッコつけてんだ、この厨二野郎……!
「デュヴェルコードよ。ここに残った私とレアコード、おまけにコジルドの3人で、話を聞いても構わないか?」
俺はデュヴェルコードに歩み寄り、小さな肩にソッと手を添えた。
「大丈夫です。おまけが茶々を入れてきたら、容赦はしないと思いますが」
依然として表情は曇っているが、身の毛もよだつ程の警告を呟いたデュヴェルコード。
そんな無気力な脅しっぷりに、俺の頬に一筋の汗が流れる。
「そ、それは許可しよう。冷やかしていい雰囲気ではないからな」
俺もなるべく、不要な発言は控えておこう。冗談の通じない今、激怒している時以上に何をされるか分からない……!
「では、皆さん。わたくしの昔話を始める前に、もっとわたくしの側まで近づいて来てください」
既に目の前にいる俺には目を配らず、デュヴェルコードは他のふたりに合図を送るよう、目配せをする。
すると指示に従うように、レアコードとコジルドがゆっくりと歩みを寄せて来た。
あまり大きな声で、昔を語る気になれないのだろうか。デュヴェルコードは4人が密集する距離になるまで、目配せを止めなかった。
そして、皆が近距離に集まったところで……。
「お集まり頂き、ありがとうございます。こんな所で昔話は相応しくありませんので、場所を変えたいと思います」
「はっ!?」
暗い表情のまま、デュヴェルコードが突拍子もない事を言い出した。
「『テレポート』」
そしてデュヴェルコードは透かさず魔法を詠唱し、俺たちの足元に魔法陣を出現させた。
「ここは……玉座の間……」
うっすらと目を開けると、俺たちは一瞬で玉座の間に移動していた。
「はい、玉座の間です。ここでしたら、今のメンバーに相応しい場所ですし、部外者を気にせず昔を語れます」
――せっかく気を利かせて皆を退出させたのに、何て事しやがる、このロリエルフ。
俺の配慮が、一瞬で無に帰したんだが……!