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26話 少女秘話1





『…………ま。…………様っ』



 ――ここは、どこだ……?


 天界で光に吸い込まれて以来、またしても俺の意識は薄れ、未知の空間を彷徨さまよっていた気がする。

 静かに、冷たく、無気力に。時間の感覚すら薄れる生と死の狭間はざまを、彷徨さまよっていた気が……。


『……ス様。ロース様っ』


 かすかに聞こえてくる、俺を呼ぶ声。色気のある、しとやかな声。

 デュヴェルコードではないのか? あの子の幼なげな声とは、特徴がまるで違う。


 俺は誘発されるまま、薄っすらと目を開いていく。



「――ここはっ……! ゴボッ、ゴボボッ!」


 意識が戻ると同時に訪れた、突然の呼吸困難。


「ゴボボッ!」


 俺は不意の溺水できすいに、思わず目を見開いた。


 いったい、ここは何処どこだ……!


 目を開けるなり視界は青味あおみがかっており、モヤモヤとかすんでいた。

 これは寝ボケ時に生じる、目のかすみか? 復活して間もないため、目がえないのだろうか……?


 いや、そんな訳がない。前回はひつぎの中で復活したものの、目がかすむなんて事はなかった。

 それに、なぜか体が重たい。謎に体の自由が利きにくい。そして、息ができない!


「ゴボッ、ゴボボッ!」


 俺は手当たり次第に、首を左右に振り回す。

 まさかここは、水の中か? いやでも、ただの水にしては妙にねばり気があるようだが……。

 とにかく、泳げない俺からすれば、最悪の復活に変わりはない!


 何で俺、こんなアウェーゾーンで復活をげてんだ……!


 えない視界の中、ジタバタと混乱気味にもがき続けていた、そんな時。


「ンゴッ?」


 背後から誰かに、襟元えりもとつかまれた。

 そのまま俺は、後方へと強引に引っ張られ。


 ――ドップン……。


「ガハッ、ハァハァ! 息が、息ができる!」


 呼吸のできる空間へと、誰かに引っ張り出された。


「フフッ。危なかったですわね、ロース様」


「ガハッ、ゴホッ、その声は……」


 声のする方へ顔を向けてみると、こそには胸元で両腕を組んだレアコードが立っていた。

 どうやら、レアコードが危機から救ってくれたようだ。


「レ、レアコードか。ゴホッ、助かったぞ」


 俺は四つんいの体勢で、き込みながらレアコードに感謝を伝える。

 そして更に、辺りを見回してみると。


『ロース様っ』

『ロース様だ』

『ロース様、ご無事ですか』

『大丈夫ですか、ロース様』

『本物ですか? ロース様』


 見慣れた顔や見慣れぬ顔、そして見飽きた顔など、複数の魔族が俺を囲い込み、心配の眼差しを向けてきていた。

 ひとりだけ心配ではなく、疑心を向けてきた魔族がいた気もするが。こんな時に本人確認なんてするなよ……!


「レアコードよ、私はいったい……。それに、今のドロッとした液体の感覚は何だ?」


「その答えは、本人の口から聞かれては?」


「はっ、本人?」


「えぇ、今もロース様の後ろに」


「後ろって……」



『――ごめんなさいです、ロース様』


 状況が理解できていない最中さなか、俺の後ろから聞き覚えのない声が聞こえてきた。

 俺は立ち上がりながら、恐る恐る後ろを振り返ってみる。


「何だこれ、ゼリー?」


 振り返ったそばに、顔のパーツが付いたブヨブヨの液体……いや、固体が置かれていた。

 大人が寝転がれる、ビーズクッションくらいの大きさをしているが、この半透明なブヨブヨとした青色の物体は何だ?


「今、()()が喋ったのか?」


「はい。僕はブルースライムの、スマイルと申します。この度はご復活、おめでとうございます」


「ス、スライムだと? そして名前がスマイル?」


「はい。スライムの、スマイルです」


 絵に描いたような雑な顔をしたスライムが、スマイルと名乗ってきた。

 俺は初めて見るスライムに軽い興味をいだき、スマイルと同じ視線になるよう、片膝かたひざを床につけながら腰を低く落とす。


「スライムの、スマイルか。ややこしい名だな。しかしこの魔王城に、スライムなんて魔族も居たとは」


「珍しくはありません。僕はどこにでも居る普通のブルースライム、スマイルです。みなは僕の事を、略して『ブルースマイル』と呼んでいます」


「ブルースマイルって……なんだその、青ざめた笑顔みたいなあだ名は。顔色の悪い病人のせ我慢みたいだな」


「えへへ、よく言われます。それより、先ほどはごめんなさいです。僕が耐え切れなかったせいで、ロース様がまたおきになるところでした」


「そうだ……そうだった! 復活して早々、なぜ私が死に掛ける羽目はめになったのだ!」


 俺が声を荒げた途端。


「ロース様。その件に関しては、わたくしからご説明を」


 ブルースライムの後ろから、デュヴェルコードの声が聞こえてきた。


「デュヴェルコードか、無事で何よりだ。それより蘇生魔法はありがたいが、これはどういう事だ!」


「はい、これはですね……」


 その場でデュヴェルコードが、事の成り行きを説明し始めた瞬間。


「ちょっと待ってくれ、ストップだ」


 俺は冷静に、デュヴェルコードをさえぎった。


「い、いかがなさいましたか?」


「まずはこっちへ来てから、説明を始めてくれないか? スライム越しだと、お前の姿がボンヤリで見え辛いんだが」


 腰を落とし俺の視線が低くなっていたため、デュヴェルコードをスライム越しに視認していた。


 まるでボヤボヤのモザイクを掛けられた、犯人映像のように見えるんだが。

 そもそも、あれ本物だよな……?



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