4話 猛者復活1
――邪女神エリシアから授かった、転生トクテン『オブテイン・キー』。
それは、元人間だった無力な俺に、新たな力を与えてくれる有能なカード。
俺はこのカードで、初めての魔法を取得した。静電気程度の放電とバカにされたが……。
その魔法を今、この寝室でもう1度使おうと、静かに手を構えていた。
「『スパーク』……!」
俺は右手に放電を発生させ。
「いい加減……起きろっ……!」
ベットでスヤスヤと眠るデュヴェルコードに、電気を流した。
――バチバチッ……!
「イターーーイッ!!!」
右手を接触させた途端、またしても飛び起きたデュヴェルコード。
「またですか! それ大好きですか!
ロース様は、同じシチュエーションで萌える、デジャブフェチですか!
静電気でも、そこそこ痛いので止め……」
「待て待て、ストップだ!
なぜ寝起きにも関わらず、そんなスラスラと奇妙な単語を口にできるのだ。
デジャブフェチなんて奇妙な性癖、聞いた事もないぞ。
それにな……仮にも、魔王の放つ『スパーク』だぞ。その、静電気扱いは止めろ。もう少し強いはずだし、私の心が軽く傷つくから」
俺の冷静な反論の後。デュヴェルコードはしょんぼりとした表情で、ベットの上に体育座りをした。
「申し訳ございません……。ビックリしたもので、つい気が立ってしまい。
静電気ではなく、生体電流の方が良いでしょうか……?」
「…………却下だ。それ、常に体で流れている、微弱電流の事だろ。
なんなら、今でも流れてるわ。魔法なしで……!」
「た、度重なるご無礼を! なにせ寝起きなもので、ついウトウトと」
デュヴェルコードは体育座りから、正座へと素早く切り替えた。
ウトウトって、さっきは流暢に怒声を放っていたじゃないか……!
反省の様子を見せたデュヴェルコードは、スッとベットを降り。
「よしっ、反省完了です! 3日後には勇者も再来しますし、ウカウカとしていられませんね、ロース様!
たっぷりと休息も取れましたので、魔力も漲っております。早速、迎え撃つ準備を進めましょう。
これから忙しくなりますよー! わたくし、ファイトッ」
気合いの伝わる意気込みに合わせ、デュヴェルコードは自身の両頬をパンッと叩いた。
だが俺は、逆に気の重いため息をつく。
「そうか、元気か。だろうな。」
互いの温度差に疑問を感じたのか、デュヴェルコードは首を傾げた。
この子は、どうやら何も分かっていないようだ。
「元気なのは当然だ。なぜなら…………今日がその、3日後だからだよ!」
「………………えっ?」
首を傾げたまま、目が点になったデュヴェルコード。
そう……。魔王城周辺に雷撃を降らせて以来、この子は今の今まで、スヤスヤと眠り続けていたのである……。
「えええぇぇぇーーーーっ!!
今日が、もう3日後ですって!? わたくしが寝ている間に、いったい何が!」
「時が経ったんだよ……」
「そんな! でも、3日も経った感覚なんて、ありませんよ!」
「そりゃ寝ていたからな……」
「まさか、時とか超えちゃいました? わたくしは無意識のうちに、軽く時とか超えちゃいました!?
いえ、でも……そんな魔法は持っていませんし。んん……」
デュヴェルコードはアゴに手を添え、考え込むように唸り出した。
そして、なぜか俺に疑いの眼差しを向け。
「ロース様、騙していませんか……?」
「そこで魔王を疑うな! なら聞くが、なぜそんなに元気も魔力も漲っているのだ」
「分かり…………若いから!?」
「違うわ。シンプルに、今まで寝ていたからだろ」
「確かに、それなら辻褄も合いますし、認めざるを得ませんが……。なら、どうして起こしてくださらなかったのです!?
食べ頃まで熟成させようと?」
「変な言い方をするな!
そりゃ起こそうとして、何度も呼びかけたり揺さぶったりしたさ。
だが全く起きないから、実績のある『スパーク』で無理やり起こしたのだ」
「そうでしたか……うぅ……。面目ございません。ロース様だけでなく、わたくしまでお寝坊さんになるとは。
ロース様なんて、城が完全攻略されるまでお寝坊していましたが……お寝坊に罪の大きさなんて、関係ありませんよね……反省……」
デュヴェルコードは悲しげな表情をみせ、両手で頭を抱えた。
凄まじい皮肉だが、なぜか言い返せない……!
「お、お互いミスから学べたな。それにお前の場合は、ギリギリ間に合ったのだ。そこまで気に病むな。
気持ちを切り替えて、今はできる事をするぞ」
「そうですよね! ロース様のガチお寝坊に比べたら、わたくしはまだギリセーフですよね!
時間もありませんし、早速気持ちの切り替え完了させました!」
パッと表情を明るくし、胸の前で力強く拳を握ったデュヴェルコード。
それは気持ちの切り替えと言うより、手のひら返しだろ……!
「それで……具体的に何をするかだ。起きて早々にすまないが、3日前に話していたエリアボスの復活はできそうか?」
「はいっ、問題ございません! エリアボスたちの敗れた区画へ出向けば、シュシュッと蘇生させられます!」
「よしっ、そこでだ。勇者の来るタイミングが不明な以上、無闇に蘇生していても効率が悪い。
なるべく頼れる者から蘇生していきたいのだが、即戦力に相応しい者はいるか?」
「そうですね…………」
デュヴェルコードは、静かに目を閉じた。少しの間、考え込む様子をみせた後、パッと目を開き。
「ここはやはり……! 最終エリアである、玉座の間を守護していたボスがよろしいかと」
「なるほど……。エリアボスの中でも、かなり強そうな印象が持てるが、どんな者なのだ?」
「はい。名はレアコード……。わたくしの姉です……!」




