25話 極魔奮闘8
「大きな選択を迫られるって、いったい何の事ですか」
突然飛び出したエリシアのお告げに、俺は思わず首を傾げた。
「私はあなたに、これ以上ない程の『復活トクテン』を授けました。実際にはまだ復活していませんが。直にデュヴェルコードが蘇生魔法を唱えるはずなので、そこの見切り発車は少々良しとしましょう。
問題は、あなたがこの力をいつ、どこで使うかです」
「どういう事ですか? もちろんドンワコードと闘う時に使いますよ。そのためにこんな凄い魔法を授けてくださったのでしょ?」
「確かにそうですが、これは1回しか使う事のできない、制限付きの魔法です。その貴重な1回を、ドンワコードに使って本当に後悔はしませんか?」
いつになく真剣な趣で、俺を真っ直ぐ見つめてくるエリシア。
「えーっと……多分しませんよ、後悔。てか何で授け元が、そんな撹乱させるような謎めいた確認をしてくるんですか。エリシアさんも、ドンワコード戦に備えるつもりで授けてくれたじゃないですか」
「あくまで、あなたが後悔しないための確認です。あなたの転生目的はドンワコードを倒す事ではない。当初の目的は、あの異世界で繰り広げられている多種族の争いを終わらせ、平和をもたらす事だったはず」
「そ、それはそうですが」
「ならドンワコードよりも強く、遥かに厄介な存在に、この魔法を使う手もあるという事です。その存在とは……」
「ゆ、勇者ンーディオですか」
俺がンーディオの名を出した途端、エリシアは軽く笑顔を浮かべてきた。
「ご名答。確かにドンワコードも強いですが、所詮は一匹狼。パーティを率いたンーディオの方が強いのは、火を見るよりも明らかです。
あなたはドンワコードに大敗しましたが、魔王城内の魔族を集め、総力を挙げて挑めば、『復活トクテン』を使わずとも勝てる見込みはあるはず。ポッと出のダークエルフに使うも良し、魔王の天敵である勇者に使うも良しという事です」
「な、なるほど……。確かにそれは、究極の2択ですね」
俺は考えてもいなかった、確かにドンワコードに必ず使わなければいけない魔法ではない。むしろ更に厄介なンーディオに備え、温存しておきたい気も芽生え始めた。
しかし問題は、魔王城の総力。
戦力の要であるデュヴェルコードは、ドンワコードに怯えっ放しだった。それに他の魔族たちも、条件次第ではまともに闘えないヤツもいる……。
「ちょっと、誰が2択って決めたのよ。自ら選択の視野を狭くしてどうするの」
「はっ? いや、どう考えても2択ですよ」
「第3の選択があるじゃない。結局もったいなくて使いませんでしたー、の選択が」
「………………何ですか、その1番悔いが残る優柔不断なオチは。子供から貰った肩叩き券の心理ですか」
俺はエリシアに呆れながら、『復活トクテン』の内容を再確認するため、カードに視線を移した。
「んんー……んっ?」
カードを見つめていた矢先に、とある項目が俺の目に留まった。
「あの、エリシアさん。ちょっと質問が。この虫眼鏡マークの隣にある、検索履歴って……?」
「文字通りですよ、過去に検索した事のあるワードたちの一覧です」
「そ、そうですか」
これまで検索の機能すら知らなかった俺のカードに、履歴なんて残っているはずもないが……。
「まぁ、一応ポチッと」
無意味な確認と思いつつ、俺は流れで検索履歴をタップしてみた。
「な、何だよこれ……!」
カードをタップするなり、表面にあるまじき文字たちが浮かんできた。
それは俺の記憶にない、数多の検索履歴だ。
「何でこんなに、ズラーッと……履歴まみれなんだが」
隙間なく並んだ履歴の一覧に、俺は目が釘付けとなる。
「エリシアさん。このカードって、まさか中古ですか?」
「当たり前でしょ。異世界転生希望の死者なんて、何人いると思ってんの? カードは使い回しよ、使い回し!」
「えぇ……どこ節約してんですか、これもトクテンのひとつなのに、使い回しって。とんだリサイクル精神をお持ちですね」
俺はガッカリする現実に肩を落とし、検索履歴のワードたちを目で追い続けた。
すると、更なる異変が。
「おいおい。何だよ、この検索ワード……!」
「何がですか?」
「これって、魔法とかスキルを手早く検索する機能ですよね……」
俺は不吉な検索ワードたちを見るなり、悪寒が走った。
そこに書かれていた検索ワードとは……。
『勇者 倒し方』
『魔王 辞め方』
『天界 クレームの入れ方』
「エリシアさん……。俺、自信がなくなってきました」
俺はカードを持つ手をプランと下に垂らし、力なくエリシアを見つめた。
検索してもヒットするはずがない単語を、こんなに並べた先代が居たとは。よっぽど酷い目に遭ったのだろうな。特に最後の、『天界 クレームの入れ方』は、発狂もんだろ……!
「何を自信喪失しているのですか、情けない。時には不向きな転生希望者だって居ます、深く考えない!」
「そう言われましても、『魔王 辞め方』とか見てしまったら……。このカード、悪い縁起でも担いでいるんじゃ……」
「辞め方……あぁ、思い出しました。そのカードは確か、あなたとは別世界に転生させた、草川紀夫って人のお古ね。初期化するのを忘れていました」
少し悩む様子を見せた後、エリシアは俺に向き直り、ポンッとひとつ手を打った。
きっと歴代の使用者たちは、厳しい異世界の現実に耐え切れず、嫌になって責務を放り投げてきたのだろう。
そして巡り巡った挙句、俺にこの不吉なカードが回って来たという事か。
だが、そんな事より……!
「エリシアさん。その草川紀夫って人、俺の爺ちゃんなんですけど」
「あらっ、そうでしたね。それも今思い出しました。世間って本当に狭いですね」
「………………他人事かよ。こっちは世間話のテンションで話していませんよ」
やってくれたな、この邪女神……!
別世界とは言え、選りに選って俺の爺ちゃんまで、魔王に転生していたとは。
「お年寄り世代の検索ワードとは思えなかったが、取り敢えず助けて欲しさに、それらしい単語を並べたんだろうな……」
俺は視線を上に向け、シュールな姿でシュールな検索をする爺ちゃんを思い浮かべながら、ギュッと『オブテイン・キー』を握り締めた。