24話 無情悪魔10
ダークエルフ族の長となるため、デュヴェルコードを倒しに来たと明かしたドンワコード。
「そういう訳だ、デュヴェルコード。ダークエルフ最強の者を倒さない限り、俺様が長の座につく事は叶わねー。告げの通りお前がダークエルフ最強の者なら、お前には踏み台になってもらう」
「わたくし、わたくし……」
俺の背後で、モゾモゾと困った様子を見せるデュヴェルコード。
「何だよ、何か言いたげだな」
「ど、どう考えても……。わたくしに何も利点がないなと……」
「当たり前だろ、ボケが! お前みたいな出来損ないに、利点があって堪るか!」
ドンワコードは依然として地べたに胡坐を組んだまま、デュヴェルコードを睨みつけ指を差す。
「そもそもだな、気に食わねーんだよ。選りに選って、何でお前がダークエルフ最強なんだ。俺様を差し置いて、一族の面汚しが最強だと? そんな癪に障る告げを聞いて、黙っていられねーんだよ!」
「わ、わたくしに八つ当たりされても困ります……。いったい誰ですか、そんな傍迷惑なお告げを下したのは」
「長寿の占い師、ジェノコードの婆さんだ。老いぼれの占いなんて胡散臭いがな」
「うっ……! ジェノコードさん、ですか……」
占い師の名が出るなり、デュヴェルコードの肩がピクッと反応した。
「デュヴェルコードよ、そのジェノコードという者を知っているのか?」
俺はデュヴェルコードの反応が気になり、小声で質問してみた。
「は、はい。長きに渡り占い師をしている、ダークエルフのお婆ちゃまです。一族の中でも、あまりジェノコードさんを頼る者はおりませんが」
「頼らない? その占い師の的中率が低いのか?」
「いいえ、パカみたいに的中します。それはもう、ベラボーに。ただお口が異様に臭いので、みんな近寄らないだけです」
「………………まさかの天才オチかよ。てっきりペテン師かと思ったぞ、流れ的に。ならば本当にお前の方が強いという事か」
「今回ばかりは、ジェノコードさんのハズレ占いかもしれません。占いだって、万能ではありませんから」
「では言い換えれば、高確率でお前の方が強い可能性があるって感じか……」
俺たちが小声で話していると。
「おいっ! コソコソしているが聞こえてんだよ、ボケが! ダークエルフの地獄耳、ナメてんじゃねーよ!
あんな婆さんの占いなんて、デマに決まってるだろーが!」
突然ドンワコードが、俺たちに向け怒声を放ってきた。
蚊の鳴くような声量の会話が筒抜けって、いくら地獄耳でも無理があるだろ。あんなオラオラ気質のくせして、実は他人の会話が凄く気になる繊細なヤツなのか?
聞き耳でも立てていないと聞こえないだろ、普通……!
「でも、おかしいです。確かにわたくしが狙われる理由になるかも知れませんが、それだけではドンワコードが長の座に就く事は出来ないはずです。
仮にわたくしを倒したところで、現在の長が座を降りない限り、ドンワコードは長になれません。一族の掟にあったはずです」
デュヴェルコードが異を唱えるなり、ドンワコードはニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「そんなチンケな掟、とっくに解決して来たさ、ボケが」
「えっ……?」
「3日ほど前だ。一族の長であるレヴェルコードに、『俺様と長の座を賭けて戦え』と申し出た。それはそれは、激しい死闘になったな。ガハハハッ!」
「死闘って……! ドンワコードが今ここに居るという事は、まさか……」
「そのまさかだ。俺様の手で、老いぼれ長には引退してもらった。死をもってな……!
要は、強制的に世代交代してやったんだよ」
長を手に掛けたと明かしながら、だらしなく舌を出して見せてきたドンワコード。
そんな無情とも言えるドンワコードを前に、デュヴェルコードは表情を曇らせ、俺の腰をグッと握り締めてきた。
「どうした、デュヴェルコードよ。まさかその長と、親しい仲だったのか?」
「今の話が本当でしたら……。その殺された長『レヴェルコード』は、わたくしとレア姉の、父です……」
「えっ…………」
――かける言葉もない。あるはずがない。
自分の父親が非情にも手に掛けられたと聞かされ、グッと拳を握り締める、不憫なダークエルフの少女。
まともな精神状態を、保てるわけがない。
気の利いた言葉ひとつ掛けられないまま、俺は肩を振るわせ拳を握り締める。
「ガハハハッ! お前みたいな出来損ないなんかを一族から出しやがって、そもそも長失格だったんだよ!」
「そんな、そんな……。身勝手な理由で、父の命を奪うなんて……」
「仕方ねーだろ。『長代われよ』って言っても、マジギレしてガチ説教してきたからよ、死闘を挑んで強制的に引き摺り降ろし……」
ドンワコードが言い終わるより前に、俺の正義感が痺れを切らし。
「いい加減にしろ! この外道エルフがっ!!」
ありったけの怒声を放ち、ドンワコードの発言を遮った。
「な、何だ魔王! また割り込む気か、ボケが! 蹂躙されてーのか!」
「何がボケだ、この大ボケ者が! 黙って聞いていれば、非道の数々をシャーシャーと語りやがって、戯けるなよ底辺が!
お前など、誰かの上に立つ資格も器もない!」
俺はドンワコードに向けて指を差し、気力の限りを尽くす勢いで怒声を放つ。
「ロ、ロース様……」
「デュヴェルコードよ、持てる全ての力を解き放て。私とふたりで、あの下衆野郎を完膚なきまでにブッ飛ばすぞ!」
「で、ですが……」
俺は振り返り、涙目で俯くデュヴェルコードの肩に、力強く片手を置いた。
そしてデュヴェルコードと同じ目線の高さになるよう、スッと腰を落とす。
「何を躊躇っている。いくら相手がダークエルフの猛者と言えど、お前の父親を手に掛けた外道だぞ。
大切な側近を悲しませるヤツなど、私は絶対に許さない!」
「わ、わたくしたちが組んで挑んでも、勝てるかどうか……。正直に申し上げますと、昔のトラウマと父の訃報で、今は混乱が強く……」
俺は目を合わそうとしないデュヴェルコードを見つめた後、静かに目を閉じた。
そしてゆっくりと立ち上がり、ドンワコードへと向き直る。
「分かった、私ひとりで倒してくる」
「えっ……」
「いつも自信と元気に溢れたお前が、ここまで心に傷を負っているのだ。きっと計り知れないほど、嫌な過去があったのだろう。
私などでは、お前の悲しみやトラウマ全てを、背負ってやる事はできない」
「そ、そのような事は」
「だがな、一緒に向き合ってやる事はできる。アイツにどんなトラウマを植え付けられたかは知らないが、まずは私が父親の仇を取ってやる」
「無茶です……ロース様おひとりだなんて」
「案ずるな。これでもお前の魔王だ、ちゃんと倒す気でいる。アイツを倒し、気持ちの整理がついたら、私に何でも話せ。
話くらいなら、お前の気が済むまで、いつでも聞いてやるからな……!」
俺はデュヴェルコードに背を向けたまま、ドンワコードに向け歩き出した。
「ロース様……できれば考え直してください」
「心配するな。お前は待っていろ」
「心配しかありません。先ほどのお言葉は、凄く死亡フラグ臭かったです……」
「……………………し、心配する……な」
こんな時に、なんて空気の読めない心配してんだ、この子は……!
俺は一瞬立ち止まってしまったが、後に引けるわけもなく、ひとりでドンワコードへと歩みを進めた。
作品を読んでいただき、ありがとうございます!
「ちょっと面白いかも」「次のページが気になる」と感じましたら、ブックマークやお星様★★★★★を付けていただけますと、大変嬉しいです!
皆様の応援が、作者のモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!




