3話 魔王責務8
俺が魔法を見せるなり、驚愕の表情を露わにしたデュヴェルコード。
「ど、どうしたのだデュヴェルコードよ! 落ち着け、眼球が飛び出しそうだぞ!
ただの『スパーク』ではないか」
俺は右手の魔法を消失させ、我を失い仰天するデュヴェルコードを宥めようと、肩を揺さぶる。
デュヴェルコードの驚く趣意は不明だが、顔の崩れ方からして、普通ではない。
まるで、チート能力を初めて目の当たりにした、主人公のパーティメンバーみたいな反応だが……。
この『スパーク』、実はスゴい領域の魔法だったのか?
「ももも、申し訳ございません。あまりにも驚いたもので、つい取り乱しました」
若干の動揺を残しつつも、顔を元に戻し謝罪するデュヴェルコード。
「謝る必要はないが、顔面崩壊を起こすほどの事か?
私はただ、放電を発生させただけだぞ」
「スゴいなんて言葉では収まりませんよ! だって……ロース様が魔法ですよ!!
天変地異でも起きるのでしょうか!?」
デュヴェルコードは拳を握り締め、熱い視線を送ってくる。
「て、天変……? 何を大袈裟な……」
「だってだって! 本来、ロース様は魔法を一切使わず、ご自慢の怪力のみで戦闘をなさる、格闘スタイルでしたのに!」
おい、なんだよそれ……。ゴリゴリの近距離タイプな、ただの戦闘狂じゃないか。
魔族の王たる者が、最前線でしか戦力にならないスタイルを極めるなよ、前魔王……!
「そ、それでも……たかが、魔法をひとつ見せただけだぞ? それも『スパーク』だ。
そこまで驚かなくても……」
「いいえ、驚きます! だって……ロース様が魔法を使える事自体が、あり得ないからです!
魔力は潜在していても、魔法の知識を理解するだけの知能が、備わっておられなかったはずなのに……チートですか! 今更チートですか! ズルいです!」
「ちょっと待てよ、たかが『スパーク』にチートって。私は赤子か! 私に対するチートの水準、低すぎないか?
それに、私はそこまで低知能だったのか? 魔王城の頭脳が、聞いて呆れるぞ」
「戦闘と采配はできても、お勉強ができない筋肉パカって感じでしたよっ!
なのにっ、なのにっ……! 睡眠学習でもなさったのですか!?
ロース様のパカパカパカパカパカッ!」
握り締め続けた拳を、そのまま俺の胸へと当て始めたデュヴェルコード。
ポカポカと可愛らしい威力の連打だが、口調から察するに本人は至って真剣なようだ。
「落ち着けって! ストップだ、ストップッ!
私が筋肉バカの件より、お前がヒステリーになっている事の方が気になるわ!
何をそんなに、ムキになる必要があるのだ?」
「そんなの内緒ですよ! 恥ずかしくて口にできません!
魔法を使えないロース様だから、魔法に特化したわたくしが、お側に仕えていたのに……。
静電気程度の魔法でも使えてしまったら、わたくしは要らない子じゃないですか!」
「…………内緒、ぜーんぶ言ったな……。ただの被害妄想に過ぎないが。
ついでに、私の『スパーク』が静電気程度って……!」
俺はプラリと両腕を垂らし、肩を落とした。
仮にも、魔王が放った『スパーク』だぞ。それが静電気程度って。この先、使える気がしない……。
取得するもの、間違えたかな……。
俺が気を落とし、間もなく。
拳の連打を静かに止めたデュヴェルコード。何を思い立ったのか、その場で窓へと体勢を向け直し。
「これ以上、ロース様が魔法取得などと、変な気を起こされぬように……!
今ここで、歴然たる差を見せつけておきます。これこそが、真の雷魔法……!」
デュヴェルコードは窓の外を目掛け、ソッと手を翳した。
「この流れって、まさか……!」
複数ある窓の外を見回すと……。
俺の予感が具象化するように、黒い雲が広範囲に渡り群がり始めていた。
暗雲は目を見張る速さで天空を飲み込んでいき、一瞬にして魔王城周辺を暗闇に染めた。
そして。
「――『トゥレメンダス・サンダーストーム』!!」
部屋中に詠唱が響くなり、暗雲から夥しい数の雷撃が、地表を目掛け降り注いだ!
「何やってんだーーっ!! 自ら天変地異を起こしてんじゃねぇ!
要らない子じゃないから、もう止め……おい止めろって、被害妄想エルフ!」
「ご心配なさらず! 誰にも当たらないよう、コントロール致しますので!
ただのデモンストレーションですよ!」
「そっちも心配だが、そっちじゃない! 心配なのは、お前の魔力だ!」
「お構いなく!!」
「構うわ!!」
それから1分ほど……。
魔王城周辺は、激しい雷撃に見舞われた……。
そして、案の定。
「ロース様、ご報告が……」
「言わんでいい。どうせ魔力切れだろ……。
大人しくベットで休んでくれ。お前は、必要な子だから……」
魂の抜け切ったお世辞を言い、俺は力なくベットを指差した。
「はい! 今のお言葉、しかと胸に刻んで……おやすみなさい!」
デュヴェルコードは満足げに、ベットの中へと潜り込んでいった。
「はぁ……。どうせ魔力回復時間が、延長されるオチだろうな……」
俺は窓を開け、薄れていく暗雲を眺めた。
――勇者、遅刻でもしないかな……。
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