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24話 無情悪魔8





 捨て身の進撃もむなしく、俺はドンワコードに窓の外へと投げ飛ばされた。


「おい……おいおいおいおいっ!」


 突風魔法の風圧も加わり、俺の体は勢い付いた紙飛行機のように飛んでいく。


「う、うおぉーーー!! これシャレになんねーっ!」


 最上階と同じ高さから見る下の景色は、汗がき出すほど圧巻だった。

 学校の屋上から見渡す景色とは、訳が違う。何十メートルあるかも分からない高さから見下ろす真下の景色は、恐怖そのもの。


「し、失速し始めた……落ちるーっ!」


 しばらく飛ばされたのち、俺の体は何もない空中で失速し、地表に向けて落下を開始した。

 無意味と知りながら、俺は無我夢中で天へとのぼるように()()()のモーションを始め、重力に逆らおうと抵抗を試みる。


 この場合、落ちないよう抵抗を見せるなら泳ぎのモーションがベタだろうが、残念ながら俺は泳げない。

 水中を泳げないようなヤツが、空中なんて泳げるはずがない……!


 それにしても全力ダッシュをしながら落下って、きっと今の俺は非常に見苦しい魔王に見えるだろうな……!


「何だよ、このシュールな急降下は! 非常識だらけな異世界でくらい、漫画みたいな奇跡起きろよ!」


 必死に空中でもがくも、重力は容赦ようしゃなく俺の体を地表に吸い寄せていく。


「誰か、誰かーっ! デュヴェルコードォーー!」


 俺は現状で最も助けに来る確率の高い者の名前を叫び、小さな希望を持ちながら辺りを見回す。


 すると。


「――ロース様ぁー! 着地点でお待ちしております、わたくしにお任せを! 魔法の準備は万端です!

 そのまま力を抜いて、堕落だらくして来てください!」


 俺の真下から、デュヴェルコードの叫び声がとどろいてきた。

 恐らく俺が投げ飛ばされた後、『テレポート』で先回りしてくれたのだろう。


 しかし、言葉のチョイスが……。

 身を任せ、力を抜いて落ちる事を、『堕落だらく』なんて言うなよ。俺は落魄おちぶれてなんかいないぞ……!


「頼むぞ、デュヴェルコード! タイミングが命だからな!」


 まるでレスキュー隊員のように心強く感じたデュヴェルコードを信じ、俺は無駄な抵抗を止め、背中からの落下に切り替えた。

 何か魔法で受け止めてくれるはず、今はあの子を信じるしかない。頼んだぞ、デュヴェルコード……!


 俺は地面が間近に迫った事を背中で感じ取り、ゆっくりと目をつぶった。


 しかし……。


 ――ドゴォン!


「ゴヘェッ!!」


 激しい地響きを立て、俺は背中から広場の地面に墜落した。

 墜落と共に、つぶっていた目は強制的に全開となり、一瞬だけ魂が体から離脱りだつしたような衝撃に見舞われた。


 当然だが、スキル『プレンティ・オブ・ガッツ』がキッチリ発動し、俺の体力は残りわずかとなる。


「『ヒール』! 『ヒール』! 『ヒール』!」


 俺の墜落したすぐそばで、狙っていたかのような完璧なタイミングで治癒ちゆ魔法を掛け始めたデュヴェルコード。

 墜落してから1秒もたずに唱えられたその魔法は、本当に完璧なタイミングだった……!


「大丈夫ですか、ロース様? 『ヒール』!」


「も、もう立てるだけの回復は済んだ。ありがとう……」


 俺は右手の平をデュヴェルコードにかざし、その場にゆっくりと立ち上がる。


「ありがとう、ではあるがな……!」


「い、いかがなさいました?」


「『タイミングが命』と助言したが、どこに神経をませてんだ! 確かに完璧なタイミングの詠唱だったが!

 任せろと豪語ごうごしたのなら、最小限の被害で着地できるように手筈てはずするだろ、普通! 何をハナから諦めて、手遅れの回避に専念してんだ!」


「し、失礼致しました! 急いで駆けつけたため、無傷の救出方法が思いつきませんでした。ですから、いっそ開き直って回復に専念しようかと……。どうせロース様は一撃じゃ死にませんし……」


 頭を下げたまま、余計な胸の内まで明かしてくれたデュヴェルコード。


「開き直りながら、開き直った報告をするなよ……!」


 俺は顔を引きらせたのちに、大きなため息を吐いた。


「ところで、あのドンワコードというヤツ。まさか魔法だけでなく、体術まで優れていたとは。体重差のある私を軽々と投げ飛ばしたぞ」


「わたくしの従兄弟いとこ、ドンワコードは……。一族の中でも、かなりきたえ抜かれた猛者もさです。

 正直に申し上げますと、いろいろな意味で怖いです。わたくしでも勝てるかどうか……」


「戦力差はどうあれ、お前が怖いって。しかし、ヤツはお前に用があると言っていたが、いったい何が目的なんだ?」


「分かりません。ですが……」


 デュヴェルコードが何かを伝えかけた時。



「――俺様の踏み台となってもらうためだ、ボケが。俺様はデュヴェルコードを倒し、一族のおさとなる」


 上空から、ドンワコードの声が聞こえて来た。

 即座に空を見上げると、またもドンワコードは宙に浮いていた。


「また浮いてる、いったい何の魔法だ」


 まるで異形いぎょうの者が天から降臨こうりんするように、ドンワコードは俺たちの居る広場の方へゆっくりと降下して来た。




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