24話 無情悪魔5
朝日を浴びようと寝室の窓を開けた途端、数メートル先に何者かが浮いていた。
「あれ、誰……?」
非日常的な光景を目にし、ゆっくりと窓を閉めたまま、俺はその場で困惑に陥ってしまった。
「気の……せいか?」
今のは見間違いだろうか、それとも単に俺がまだ寝ボケているのだろうか。
だが、思いっきり目が合ったし、やはり誰か浮いていたとしか考えられない。
見なかった事にしたくて、思わず窓を閉めてしまったが、きっとまだ外に居るよな……!
「ロース様、いかがなさいましたか? まるで、『今すぐにでも人族を根絶やしに行くぞ』と言わんばかりの表情をされていますが」
先ほどから視線で訴え続けていたが、全く見当違いな推察をしてくれたデュヴェルコード。
異様な光景に困惑したこの表情を、いったいどう見誤れば、殺戮衝動に駆られた表情に見えるのだ……!
「デュヴェルコードよ、外に不審者が居たぞ」
「えっ? 朝からですか?」
「いやっ……気にする所そこか? 特にタイムリーな時間帯とかはないのだが、まず不審者の方に意識を向けてくれないか?」
「し、失礼致しました。ところで、その不審者さんはどちらに居たのですか?」
「この窓の正面、数メートル先に居た」
俺は指をプルプルと震わせながら、恐る恐る窓を指差す。
「えぇ……さすがに見間違いなのでは。ここはロース様の寝室ですよ。魔王城のほぼ最上階ですよ」
「本当だって、宙に浮いていたんだ」
「どうせ鳥とか虫ですよ」
まるで戯言を聞いている様子で、デュヴェルコードは呆れながら返答してくる。
「いやいや! ガッツリ手足が見えたし、シルエット的に羽も翼もなかったのだ!
羽ばたいて飛んでいると言うより、何かこう……空中にピタッと!」
「んんーっ。でしたらコジルドさんかゴースト系の魔族が、寝ボケて空中散歩でもしていたとか」
デュヴェルコードの推察を聞くなり、俺は力強く外を指差す。
「見ろよ、この朝日! こんな日光浴び放題の外で、わざわざコジルドやゴーストが、自殺行為に等しい朝活をすると思うか?」
「そんなの知りませんよ! 否定してばっかり! ロース様の見間違いでないのなら、もう1度窓を開けて確認なさればいいじゃないですか! 『どちら様ですか?』って!」
「そ、それはそうだが……」
デュヴェルコードに強く言い返されるも、俺は陸な反論が出なかった。
正直、窓の外にいるであろう得体の知れない者に、軽い恐怖心を抱いている。
「選りに選って、何で私だけ不審者を見てしまったんだ……」
俺は顔を強張らせながら、両手で窓の取っ手を握った。
少し汚れた窓ガラスのため、ハッキリとは視認できないが、ガラス越しにうっすらと不審者のシルエットが窺える。
先ほど見えた位置から、ほとんど移動した様子はなさそうだが……。
「さぁロース様、怯ってないで、魔王らしくドーンとご確認を! いざとなれば、その不審者さんに爆裂パンチをお見舞いすれば、一件落着です!」
「簡単に言うな。最上階諸共、吹っ飛ぶだろ……!」
デュヴェルコードの雑なアドバイスを受け、俺は慎重に窓を開けた。
その時。
『――なにシレッと窓閉めてんだよ、目ぇ合わせといて挨拶なしか?』
窓を開けた途端、不審者が目の前にいた……!
「うわぁーーーっ!!!」
俺は驚きの余りに叫声を上げ、反射的に窓を全力で閉めた。
――バリーンッ!
その途端、派手な音を立てながら、窓ガラスが勢いよく割れ散った。
「いってーな、何しやがる魔王! 蹂躙されてーのか、ボケが!」
ガラスの破片で顔を切ったのか、頬に血を滲ませながら怒声を放ってきた不審者。
「だ、誰だお前は! 勝手に他人の寝室に窓から……」
俺が怒鳴り声を返し終わる直前に。
――ドタッ……。
背後で、何かが床に落ちるような音がした。
「そ、そんな……」
咄嗟に振り返ると、怯えた様子で床に尻餅をついた、デュヴェルコードの姿が。
「どうした、デュヴェルコード!」
心配になった俺は慌てて駆け寄り、片膝を床につきながらデュヴェルコードの肩に手を添える。
ふたりは面識があるのだろうか、この不審者を見た途端に、デュヴェルコードの様子が急変した。
この子が怯えるなんて、只事ではない。
怖いもの知らずと言っても過言ではない程の戦力を持つこの子が、いったいどうしたんだ……!
「どうして、こんな所に……ドンワコードが」




