24話 無情悪魔4
起床するなり、俺のベットで添い寝していたデュヴェルコード。
「ど、どういう事だ。なぜ魔王の側近が、魔王の隣で添い寝してんだ……!」
俺はデュヴェルコードのとある一部に、不可抗力で添えてしまった右手を置いたまま、頭の中で事の成り行きを遡ってみる。
昨日は敵の襲撃があり、その後は動けるメンバーで正門外の後始末をした。
それから疲れを感じた俺は、早々と寝室に戻り就寝したのだが……。
「ううん……何でだ? ベットのお誘いなんてするわけないし、この子が勝手に? 考えても分からん」
「むにゃ……あぁ。おはようございますぅ、ロース様ぁ……」
状況を整理し終わる前に、隣で眠っていたデュヴェルコードが目を覚ました。
「わっ! お、おはよう。デュヴェルコードよ」
「んん……ロース様。朝っぱらから、いったいどこに手を当てているのですか。朝活と言うやつですか?」
「あぁっ、いやっ、これは違う! たまたま起きた事故だ! 起床したら、偶然にも柔らかい一部に手が触れて……!」
俺は焦りながら、ずっと触れていたデュヴェルコードの一部から、素早く右手を離した。
「構いませんよぉー。できれば手を戻してください」
「はぇっ? 何で?」
「ロース様の朝活に、わたくしも付き合うためですよぉ」
「い、未だに寝ボケているのか?」
俺は寝起き声でリクエストしてくるデュヴェルコードの一部に、再び右手を戻した。
「んん、あぁ……眠たいですねぇ。ロース様、お願いがあります。寝起きで冴えないので、そのまま揉んで頂けませんか?」
「な、何で?」
「何でって、気持ちいいからですよぉ。できれば指圧とか加えて揉んでください、足が折れない程度に。日頃頑張っている側近を労ってください」
「何が朝活だ、ただの脹脛マッサージじゃないか!」
そう、俺が偶然にも手を置いてしまったのは、デュヴェルコードの脹脛の上だった。
俺はツッコミと共に、デュヴェルコードの脹脛から右手を離す。
そしていつまでもうつ伏せで寝転がるデュヴェルコードの背中を掴み、力尽くで起き上がらせた。
「わわわっ! 何ですか、いきなり乱暴な! 朝から人形扱いしないでください!」
「どの口が言っている! お前は私をマッサージ師扱いしたではないか!」
「だってだって! 起きたらロース様が謎に触っていたから、ロース様もそういう気分なのかな、マッサージしたいのかな、って思ったんですよ!」
「どんな推察だ! 私が感謝の気持ちいっぱいで労ってやろうと、わざわざ触っていたと思うのか?」
俺も負けじと言い返すなり、デュヴェルコードの顔が引き攣った。
「えっ……。では別の目的で、こんな柔らかい部位をお触りに? まさか何かしらの欲求を満たそうと……」
「妙な言い回しをするな、脹脛だろ! それに、お前はとんでもない誤解をしているぞ。
これは不可抗力が招いた事故だ。お前が私の隣で眠っていた事など知らず、起き上がった拍子に右手が触れたのだよ。寝起きで頭が冴えない中、突然の出来事にフリーズしていただけだ」
「そう、なのですか……。ではお互いに落ち度があったのですね、失礼致しました」
少し考え込む様子を見せるなり、デュヴェルコードはペコリと頭を下げてきた。
「えっ……あ、あぁ。すまなかった」
緩急のある態度に流されて、つい俺まで謝ってしまったが、適当にあしらわれた気がする……!
「しかし、何故わたくしはロース様のベットで、ロース様と添い寝をしていたのでしょうか? しかもうつ伏せで」
「体勢はこの際どうでもいいが、知りたいのは私の方だ。お互い身に覚えがなければ、もはや迷宮入りじゃないか」
「そうおっしゃられても……。昨夜、ロース様の秘蔵酒をこっそり拝借して以降、わたくしも記憶が曖昧でして…………あっ!」
デュヴェルコードは自分の発した言葉で悟ったように、両目を見開き顔を引き攣らせた。
「今の『あっ!』とは、酔っ払ったせいで記憶を失った事に気付いたからか? それとも、勝手に他人の秘蔵酒に手を出した挙句、本人にバラしてしまったからか?」
「い、いえ、その……。秘蔵酒の割りにそこまで美味しくなかったので、ロース様の味覚を疑いながら、残りを全てコジルドさんに差し上げた件を思い出しまして。すいません」
「………………何考えてんだ、それは更にダメだろ」
予想もしていなかった理由に、俺まで顔が引き攣ってしまった。
なんてタチの悪い借りパクだろうか……!
「み、見た目は若いダークエルフですが、こう見えてわたくしは90歳を越えていますので、お酒は大丈夫ですよ!」
「そんな事は聞いていない、誤魔化すな……。まぁ、添い寝の経緯が分かっただけでも、良しとしよう。
だが今後は、黙って他人の物を利用した挙句に、第三者へ勝手に上げたりするなよ、モラル的に」
「き、気をつけます……」
「この話はこれで終わりだ。今日は天気も良さそうだし、少し朝日でも浴びるか」
俺は沈んだ雰囲気を切り替えるため、ベットから立ち上がり窓の前へと移動した。
そして取っ手に両手を添え、勢いよく窓を全開させる。
「いやぁ、いい天……気っ……」
外の景色を目にした途端、俺は朝日を浴びながら言葉に詰まった。
それはまるで、窓の外に広がる奇怪な景色。
開けた窓の正面に、誰かが直立状態で浮いていた。
「んんー、ん?」
俺は物静かに、首を傾げる。
「………………不審……者?」
窓から数メートルほど離れた位置で、ジッとこちらを見つめながら浮かんでいる、ひとりの不審者。
「し、失礼しまーす……」
俺は見なかった事にしたい一心から、ゆっくりと窓を閉める。
「いかがなさいましたか? ロース様」
背後からの呼びかけに、俺は振り返りながら視線でデュヴェルコードに訴えかける。
――何か、居たんだが……!




