24話 無情悪魔3
『――亮ちん、聞いてくれないか? 我は決断を決めたんだ……!』
これは夢か……? 過去の記憶か……?
また俺の脳裏に、前世で親友だったヒロシの声が過ってくる。
相も変わらず夢に出てきて、俺はオファーなんて出していないぞ。どれだけコイツは出たがりなんだ……!
『聞いてくれの前に、その日本語どうした。決断する事を決めたって事か?』
『お願いだ亮ちん、我は真剣なんだ。できれば真面目に聞いてほしい』
『………………至って真面目に聞いているんだが』
『そうだったのか、それはごめん』
『それで、何の話だ?』
『亮ちんってさ、結婚願望ある?』
『け、結婚? いやぁ、まだないかな。そもそも高2じゃ結婚できないし。ヒロシは結婚したいのか?』
『したいと言うより……もう、してしまった』
『はっ?』
『言葉通りだよ、我は愛を誓ったんだ。要は若旦那と化したんだ』
『若すぎ旦那だろ。てか、どうやって結婚が成立するんだよ、婚姻届すら受理されないだろ』
『膨大すぎる愛の力が、法をも超えた。ただそれだけだよ』
『あ、そうか……答えになっていないが。それより相手は誰なんだ? お前の事を理解できる特殊な彼女なんていたか?』
『いたよ、今は俺の嫁だけど。アンジェラって名前なんだ』
『待て待て、外国風の名前にもツッコミを入れるべきだが、まずその俺の嫁って言い方に違和感なんだが。一人称を我とか言うお前が俺なんて使うって、まさか……』
『さすが亮ちん、鋭くて利口! まさに鋭利! 察しの通り、二次元嫁と結婚した!
我のバイブルであるアニメに登場する、世界一美しい女の子と、いや天使と!』
『やっぱり……』
段々と思い出してきた、休みの日にこんな会話をした時があった。
この後、ヒロシに耐え難い羞恥騒動が降りかかるなんて、この時の俺は思ってもいなかったな……。
『天使の意味を持つ名前アンジェラは、その名の通り天使のような可愛さなんだ、亮ちん! 背中に翼もあるキャラだから、きっとこんな我を優しく包み込んでくれる! 我の嫁に相応しい限りだ!』
『天使のようなって、翼がある時点でもはや天使だろ。ヒロシという男を知り尽くした途端、羽ばたいて逃げてしまう気もするが』
『そんな事ないって、ほらっ! ちゃんとストラップ持ち歩いているし、部屋に帰ればグッズが溢れる程あるし!』
『そ、そうか。それはきっと生みの親も喜んでいると思うぞ。主に需要と供給の面で。
でも取り敢えずは、おめでとうヒロシ。幸せそうで何よりだ……』
『祝福をありがとう! 最高の友人代表スピーチだった! ところで亮ちん、今から我の部屋を見にくる? 嫁の紹介も兼ねて!』
『いやぁ、遠慮しとくよ。てか見た事あるし』
『そうかぁ、残念だな。せっかく新婚部屋を披露しようとしたのに。今さ、我の部屋はアンジェラ一色なんだよ!
庶民共が抱く好きって感情とは次元が違うくらい、我は嫁が大好きなんだ!』
『次元が違うって、そりゃ二次元だからな。一般人は遠く及ばないだろ。
まったく、俺はなんてマニアックな親友を持ったんだ……』
俺がヒロシの熱弁に呆れ返っていた時、ある子が通り掛かった覚えがある。
それはまるで、悪魔のような子だった……。
『――あれっ? ヒロシだ。何やってんだ、こんな所で』
『うっ! い、従兄弟殿!』
『その呼び方、止めろよ。マジで痛いから。そんな事より、ヒロシのバカデカい声が聞こえて来たんだけど、結婚って……』
ヒロシの従兄弟が言い終わる直前で。
「んん……朝か……」
俺は、目を覚ました。
昨日は敵の襲撃後、正門外の後始末を行ったが、どうやら疲れ切って早々と眠りに就いたようだ。
「ふうぁ……眠い、あっという間に朝だな。それにしても、あの後ヒロシのヤツ、悲惨なくらい従兄弟くんにイジられてたっけ」
俺は夢の続きに起きた出来事を、ひとり静かに思い出す。
ヒロシはあの後、従兄弟から根掘り葉掘り尋問を受け、羞恥心からか顔を真っ赤に染めていた。
しかし無理もない。なぜならヒロシの従兄弟は、7つも歳の離れた小学生だった。小学生の身内相手に二次元の嫁を語る時、人はあんな顔になるんだな……。
「従兄弟くんも分かりきった上で、容赦なく二次元嫁について追求していたな。悪戯っ子のような憎たらしい笑顔で、『どゆこと?』『詳しく』『尊敬するわー』なんて連呼していたな」
最終的に、ヒロシは唇を噛み締めながら、小学生の従兄弟に顔向けできない様子で俯いていたっけ。
案外、兄弟とかより従兄弟の方が、時には厄介で怖い存在になるのかもな。少し離れた身内って、家族に比べて後の影響とかダメージは少なそうだし。
俺はベットの上で仰向けになったまま、ヒロシの従兄弟が浮かべていた憎たらしい笑顔を思い出し、思わず苦笑いした。
「ヒロシのヤツ、これから従兄弟くんと仲良く親戚続けていけるのか? あとアンジェラって嫁とも……。できれば幸せに長生きしてくれよぉーーっ、んんーーっ!」
俺は仰向けのまま両腕を上へ伸ばし、大きく背伸びをした。
「よ……っと!」
そのまま両腕を振り下ろし、スイングの勢いに合わせて上半身を起こした。
次の瞬間。
――ムニュ。
下ろした右手に、ベットのシーツではない何かが触れた。
「ん? むにゅって……?」
俺は謎の感触に、一瞬その場で固まった。
「な、なんだこの感触。妙に柔らかいんだが……」
俺は右手に触れた何かの正体を確認するべく、視線をゆっくりと右下に向けてみる。
すると。
「なぜこの子が、こんな所に……!」
視線の先にいたのは、同じベットで寝転んでいたデュヴェルコードだった。