24話 無情悪魔2
敵の逃げ帰りから数分、俺とデュヴェルコードは正門前に立っていた。
「ロース様、先ほどの悪ふざけはお水に流しますので、後始末に移りましょう。
そこで、いかが致しましょうか? この散らかった敵さんたちの亡骸」
デュヴェルコードは額に手を当て、遠くを眺めるように騎士たちの亡骸を見回した。
「水に流したいのは私の方だが……まぁ良い。そうだなぁ、千以上の亡骸か……」
「手っ取り早く一掃致します? ひとまとめにして、人族の住む街のど真ん中にでも捨てて来ましょうか?」
「いや……そんな非情な扱いは控えてくれ」
「えっ?」
「敵とは言え、アイツらも先ほどまで魂を持っていた生き物に、変わりはない。
勇者パーティに無理強いをされた者だっていたかも知れないし、報われない者だっていただろう。然るべき弔いをしてやらないか?」
俺は正門の外に倒れた騎士たちを見渡しながら、デュヴェルコードに胸の内を明かす。
するとデュヴェルコードは、俺の腕をキュッと握ってきた。
「お優しいですね、ロース様。でも、行き過ぎたお慈悲は、甘さにも繋がってきます。
相手は我々魔族に敵意を向けてくる人族ですから、戦場ではあまり情けを掛けられないでくださいね、お願い致します」
「うぐっ……あ、あぁ。頭に入れておこう」
デュヴェルコードの忠告に、俺は先ほどのイマシエルとの戦闘を思い出した。
デュヴェルコードの顔に扮したイマシエルを相手に、俺の中で葛藤が起きていたからな、今の言葉はグサッときた……!
「そ、そこでだ。正門外にある亡骸たちだが、火葬するべきだろうか。それとも埋葬か?」
「埋葬がよろしいかと。火葬ならわたくしの魔法ひとつで、チリも残さず燃やし尽くせますが……。あぁー、何だか急に魔力不足で力が入りませんー」
デュヴェルコードはわざとらしく頭に片手を当てながら、フラフラと蹌踉めいてみせる。
何だこの、大根役者も顔負けな三文芝居は……!
「凄まじい面倒臭いアピールだな。仕方ない……埋葬にするか」
「是非是非! それでは棺でも用意してもらいますか? コジルドさんの数少ない出番にもなりますし、働かせましょう。
きっと、『我の棺コレクションが火を吹きますぞ』とか言って張り切るはずです」
「言えてるな。ところで、そのコジルドは無事だろうか?」
コジルドの名が出るなり、俺とデュヴェルコードは同時に、コジルドの飛んでいった城内へと体を向けた。
「さぁ……。自称闇属性のくせに、光と化して飛ばされましたからね。今は何処へ……。コジルドさーんっ!!」
突然城内に向け、声を張り上げたデュヴェルコード。
すると呼びかけに応じるように、槍を横に持ったコジルドが城内から駆け出してきた。
――ガンッ……!
またしても、槍先を大扉の横枠にぶつけながら。
愛槍と呼ぶわりに、実は使い熟せていないのか?
ぶつけるくらいなら、短くすればいいのに……!
コジルドは自らの醜態に動じる事なく、俺たちの前まで駆け寄ってきた。
「無事だったかコジルドよ。早速なのだが、お前に頼みたい事が……」
「ロース様、聞いてくだされ! 我は目が覚めましたぞ。あの顔芸スパイを、魔王軍に引き戻しましょう! 魔族として、同胞として!
我は彼奴を野放しにしたくありませぬ! 彼奴は逸材ですぞ!」
駆け寄るなり、両目をギラつかせて提案を持ちかけてきたコジルド。
「ちょっ、落ち着け。何だその、最速の催促は。私の言葉そっちのけで、何を言い出してんだ」
「落ち着いてなど居られませぬ! あの顔芸スパイは、きっと魔王軍に必要な魔族ですぞ!」
「顔芸スパイって、イマシエルの事か? あれは筋金入りの裏切り者だろ。そんな血相を変えてまで懇願する価値などないだろ」
「そうですよコジルドさん、少し冷静になってください。そもそも人族に寝返るまで、本当に魔王軍の潜入官だったのかすら、誰も知らない謎の魔族ですのに」
俺たちが説得するなり、コジルドは槍を地面に立て、ゆっくりと曇天を見つめるように上を向いた。
「我は悟った。ドッペルゲンガーの能力は素晴らしい。例え想い人であるレアコードが我に振り向かずとも、あの顔芸スパイにレアコードの顔マネをさせれば、四六時中あの美を拝む事ができる。
彼奴を魔王軍に引き戻し、我の部下にしたいと……いや、目の保養担当にしたいと」
「………………なんて不純な動機だ。先ほどまでの鬼気迫る雰囲気はどこへ行った」
「狂変した我が、我を取り戻すほど……あの顔は美しかった……!」
曇天を見上げたまま感極まった様子で、突然ひと筋の涙を流したコジルド。
「普通以上、個性的以下のイマシエルが、我は欲しくなった……」
普通以上、個性的以下って。それ褒めてないだろ、なんて中途半端なイメージ付けてんだ……!
「い、いいから泣くな。その話は後で気が向いたら考えてやるから、まずは戦闘の後始末を手伝え」
「承知しましたぞ、ロース様」
コジルドは腕で涙を拭い、俺へと視線を向けてきた。
「正門の外に倒れた騎士たちの亡骸を、弔ってやりたい。埋葬するから、お前の担当するエリアにある棺を使わせてくれないか?」
「パッキング……! 棺エリアボスとして、腕が鳴りますな。我の棺コレクションが火を吹きますぞ」
頼られた事がよほど嬉しかったのか、コジルドは俺たちに背を向け、肩を弾ませながら城内へと歩き出した。
「よし、デュヴェルコードよ。我々も後始末の準備を……って、何をクスクスと笑っているのだ?」
デュヴェルコードに視線を向けてみると、口元に手を当てながら、クスクスとひとりで笑いを堪えていた。
「ロース様、今の聞きました? 私が予想したセリフを、一言一句違わずに言っていましたよ、コジルドさん」
「た、確かに、全く一緒だったな」
「ヤバいです、これ快感です、新しいマイブームきました! 今度ロース様もお試しになってください、わたくしのセリフ予想とか! 当たったら笑い堪えるのに、必死になりますよ!」
「どんなブームだ、私は遠慮しておく。当たる気がしないしな」
こんなトチ狂った洞察力を持つ子のセリフ予想なんて、100万回やったって当たるわけがない……!
その後、俺たちは正門外の後始末に入った。




