表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/304

24話 無情悪魔1





 ――俺は逃してしまった。

 勇者パーティのメンバーであるふたりを討ち取る、絶好の機会を……!


 敵がそろえた千を越える軍勢を全滅させ、不意打ちを食らうも形勢を逆転させる事ができたのに。

 後1歩のところで、敵を逃してしまった。


「何て、後味の悪さだ……!」


 敵の襲撃後に残ったのは、倒れた騎士たちの亡骸なきがらと、半壊した城内のエントランス。

 半壊に関しては、主にコジルドの暴走が原因だろうが……。


 そしてイマシエルが去り際に残した、意味深なひと言。


『――いい事を知れたよ、魔族共。そして特に、脳筋ロースからはね』


 いったい、俺から何を知れたと言うのだ。新たに明かした魔法の事か? それとも俺の持つ、()()スキルの事か?

 しかし魔法は堂々と使用したものの、スキルはおおやけにしたつもりはない。

 スキル『プレンティ・オブ・ガッツ』が思わぬ粗相そそうで発動してしまい、体力が残りわずかにはなったが、あの時は必死に隠し通せたはず。バレたとは考えにくい。


「それに真の目的は、敵にとって最も厄介な存在の暗殺だったし……」


 俺は蚊の鳴くような声で、ボソボソと独り言を呟く。


「ん? ロース様?」


 かすかに独り言が聞こえたのか、デュヴェルコードは俺の顔をのぞき込んできた。

 俺はそんな呼びかけに、ふとデュヴェルコードへ視線を向ける。


 そう、敵にとって最も厄介な存在の暗殺、その標的はこの子だ。


「いや、何でもない。独り言だ」


 俺は簡単な返事ののち、正門の外に視線を戻し、真っ直ぐ遠くを見つめた。

 

 定石じょうせき通りに考えると、勇者ンーディオにとって最終的な討伐とうばつターゲットは、魔王である俺だろう。

 しかし実際には、魔王よりも側近の方が討伐の優先度が高いと見抜かれている。


 なぜならこの子は、能力()()で見れば逸材いつざいだから。

 戦力としても、サポートとしても、魔法なら右に出る者がいない程の天才だ。

 特に、魔族ではまれだと言う、蘇生魔法を使える。


 そんな力を持つ側近なら、暗殺をくわだてられても不思議ではない。

 恐らく俺が勇者でも、同じ事を考えるだろう。


 ――この子の討伐は、言わばボス戦の解放クエストに等しい……!


 今後もこの子が狙われるのは明白、どうにか対応策をっておかなければ。万が一にでもこの子がやられたら、魔族が滅びてしまう。

 そんな事になれば、天界で女神エリシアに告げられた、俺への特別な報酬も頂けない事に……。


「いや、何考えてんだ……」


 俺は自分のおろかさに、思わず声がれた。


 報酬のためだなんて、何考えてんだ、俺。

 滅びたら、コイツら魔族たちはどうなる……!


 マトモなヤツなどいない、難癖だらけの魔族たちだが、滅んでいいはずがない。

 特別な報酬のためより、()()()()()()()()、コイツらを守ってやりたい。俺の中にある正義感が、そう強く訴えかけてくる……!


「ロース様? 本当にいかがなさいました?」


「あ、いやっ……」


「先ほどからボーッと外を見つめられて、ボソボソと呟かれて……って、まさか!」


 デュヴェルコードは俺の表情から何かをみ取った様子で、ポンッとひとつ手を打った。


「お察ししましたよ、ロース様! 先ほど、わたくしが敵の軍勢を一撃で全滅させた魔法、『トゥレメンダス・サンダーストーム』の威力に感銘かんめいを受けて、その光景を思い出されていたのですね! あのド派手な()()()が、脳裏のうりに焼き付いていたのですね!」


「いやぁ……違うんだが。それに、殺風景の使い方も違うぞ」


 確かに、ド派手にあやめる風景ではあったが、言葉の意味は真逆なんだが……!


「ロース様、うらやましかったですか? あこがれとかいだいちゃいましたか?

 ぷふっ、ロース様も少し可愛いところがあるのですね。でも諦めてください、不可能ですので。知能的に、現実的に」


 デュヴェルコードは楽しげに笑いかけながら、俺の全くいだいていないあこがれを、勝手に全否定してきた。


 ――コイツらのために、守るか……。


 俺は複雑な感情を抱きながら、トチ狂った洞察力を持つ側近に、冷ややかな目を向けた。


「デュヴェルコードよ、全然違うぞ。魔族にとって、そして私にとって、お前が如何いかに大切な存在であるかと、改めて考えていただけだ」


 俺の胸中きょうちゅうを明かした途端、デュヴェルコードのほほが真っ赤に染まった。


「えっ……プッ、ププププ、プロポーズ?」


「はぇっ?」


 デュヴェルコードの更なるおかど違いな解釈に、俺は思わず目を見開いた。


「何ですか急に、パカですか! ロース様パカですか! 千人の亡骸なきがらがゴロつくシチュエーションで、ロマンティックを演出したつもりですか!?

 乙女の心を()()()()させたかったのかは知りませんが、いて言うなら今はドキュンです! なんて身勝手な告白ですか!」


「待て待て、ドキュンって、私は反社か。いったいどんな勘違いして……」


「どこで『今ならイケる!』と確信を持てたのですか!? それとも衝動的に子孫しそんでも欲しくなりました!?

 場違いなタイミングで、ロース様を旦那だんな様にしたくありません! 好きですが今はお断りさせて頂きます! 時と場所を改めてください!」


 戸惑いと恥じらいを誤魔化す様子で、セカセカと早口で断言したデュヴェルコード。

 また勝手に勘違いされて、しまいには訳も分からずフラれたんだが……!



 ――コイツらのために、守るか……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ