23話 激痛激怒11
コジルドが追撃を仕掛けるなり、シノを庇うように最前へと立ったイマシエル。
すると突然、予想だにしなかった人物の顔マネを、俺たちに向け披露した。
「なん、だと……!」
少し戸惑いが生じたのか、コジルドは激走しながらも肩をビクつかせた。
狂変しているとは言え、コジルドが反応してしまうのも、無理はない。なぜなら、今のイマシエルの顔は。
「レ、レア姉……」
「ここでレアコードの顔マネって」
両手で口元を隠すデュヴェルコードに続き、俺も思わず小声を漏らした。
そう、イマシエルが顔マネに選んだのは、先ほど深傷を負い戦線を離脱した、レアコードの顔であった。
「わ、我の動揺でも誘っている気か! 貴様が絶世の美女に化けようと、躊躇ったりはせぬぞ!
この激カワ顔芸ペテン師がぁ!」
コジルドは愛槍を構えながらイマシエルとの距離を詰め、槍の間合いに入った途端、左足を力強く踏み込んだ。
しかし。
「おのれっ、可愛い……!」
せっかくの助走も勢いも殺し、コジルドは左足を踏み込んだ瞬間、イマシエルの前で一時停止した。
そして何の勢いもないまま、闇雲に愛槍を突き出し始める。
大見得を切ったくせに、思いっきり躊躇いやがったな、あのヴァンパイア……!
イマシエルを目掛けて突き出された、コジルドの信念なきひと突きは。
「チョロいね、騙されっ子!」
あっさりとイマシエルに躱され、透かさず両手で槍を鷲掴みにされた。
「今です、死んだフリ職に……シノさん!」
禍々しいオーラを纏った槍を掴みながら、シノに号令を掛けたイマシエル。
「ほぼ呼び間違え切ってんじゃないわよ、イマシエル! しっかり抑えときなさいよ!」
ボロボロな状態にも関わらず、シノは素早く立ち上がると共に、専門武器である弓を手にした。
しかしシノは、なぜか矢を取り出そうとせず、軽快な動きで槍先の前へと移動し、弓の弦を単体で引いた。
そして。
「――閃光に染まれ! 『シャイニング・アロー』!」
詠唱と共に、シノは弓の弦をコジルドの槍先に引っ掛けた。
その瞬間、コジルドの槍は眩く光り始め。
「ま、まさか貴様っ!」
間髪入れず、シノは弦を引いた右手を放し、コジルドの槍を矢のように射った。
「図に乗るな雑魚っ、ごわっ!!」
なぜか手を離さなかったコジルドごと、槍は放たれた……。
通常の射撃と違い、魔法で放たれた特殊な一射は、如何なる妨げも寄せ付けぬ勢いで。
――ヒュッ……!
俺たちの横を通過し、コジルドもろとも城内へと飛んでいった。
「あの、ロース様。自称闇属性ランサーが、一瞬だけ光と化して通過しましたよ」
「言ってやるな。文字通り手を離せないほど、瞬く間だったのだろう」
俺たちは呆れ気味に、再び正門の外へと顔を向け直した。
するとシノとイマシエルは、既に武器を収めて合流しており。
「マズいっ、まさかアイツら!」
ふたりの足元に、瞬間移動用の魔法陣が出現していた。
「覚えておけ、魔王! 今回の暗殺は失敗に終わったが、次は必ず……」
「シノさん。帰ったら、ひとりでンーディオ様に怒られてくださいね」
シノに全責任を押し付ける様子で、イマシエルはシノの肩をポンポンと叩いた。
「ま、待てっ、お前たち! 逃げ帰るつもりか!」
俺は立ち去ろうとするふたりに向け、咄嗟に叫声を放った。
こちらが優勢だったはずなのに、してやられた!
やはりあの時、イマシエルがシノの体を揺さぶっていたのは、安否の確認ではなく打ち合わせをしていたのか。
レアコードの顔マネでコジルドの動揺を誘い、油断したところで槍の自由を奪い、トドメにシノのカウンター。
コジルドの暴走を、まんまと利用されてしまった!
「次は完全復活したンーディオ様と共に、最強勇者パーティとして襲撃しに来るからな!」
「そうそう! 更なる攻略の糸口も掴めたし。いい事を知れたよ、魔族共。そして特に、脳筋ロースからはね」
「何の事だ! このまま易々と帰らせんぞ!」
ふたりの挑発を受け、俺は慌てて岩の破片を手に取り、ふたりに向かって全力で放り投げた。
「帰りますよシノさん。『テレポート』」
シノとイマシエルは、間一髪のところで瞬間移動し、俺の一撃を食らう事なく姿を消した。
「敵さんに逃げられましたね、ロース様」
「何だ、この後味の悪さは……!」
俺の投げた岩の破片はふたりを捉える事なく、静かに地の果てへと飛んでいった……。
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