23話 激痛激怒10
ボロボロになって飛んで来たシノの後に続き、土煙の中からゆっくりと姿を現したコジルド。
依然として狂変を解いていないのか、手に持つ愛槍からは禍々しいオーラが出続けている。
「分かり切ってはいたが、無事だったかコジルド」
俺はゆっくりと歩み寄って来るコジルドに、首だけを振り向かせる。
「愚問であるな……! 我があんな低俗キューピットに、劣るはずがない」
「そ、そうか。私の想像以上に圧倒したようだな」
「我を失った今の我からすれば、如何なる屈強な勇者や荘厳な砦でさえ、無力も同然である」
鋭い眼光を放ちながら、こちらへ歩みを寄せ続けるコジルド。
我を失ったと自分で言えている時点で、自我は保てていると思うが……!
「コジルドさん、以前にも同じような事を呟いていましたが、かなり痛い発言なので控えた方がいいですよ。
我を失ったとか口にしている時点で、自分を保てていますよね」
場の空気や他人の気持ちも顧みず、バカ正直な忠告を口走るデュヴェルコード。
この子はありのままの気持ちを表に出さないと、どうにかなってしまう病でも抱えているのか? 言わしておけばいいのに、本当に不要な忠告だった……!
「発言には気をつけろよ、小娘……! 我を失った我に、抑制機能など存在しないからな。貴様に矛先が向いても、自己責任だからな」
コジルドは一瞬だけ立ち止まるも、再び同じペースで歩き始める。
「お、おいデュヴェルコード、耳を貸せ」
俺はそんなコジルドを尻目にかけながら、これ以上身内同士で言い合いが起きぬよう、デュヴェルコードにコソコソと助言を試みる。
「何でしょう、ロース様」
「これ以上、波風を立てるような発言は、控えてくれ。コジルドはあくまでも、『我を失ったキャラ』を貫くつもりらしい」
「槍使いだけにですか?」
「………………いや、特に上手くもないが、やっぱり口を閉ざすに変更する。それと、今のうちに早く私に回復魔法を」
「は、はい……『ヒール』」
デュヴェルコードは小声で詠唱し、俺に回復魔法を掛けてくれた。
残り僅かとなっていた俺の体力が、少しだけ回復したところで。
「助かったぞデュヴェルコード。そしてコジルドよ、まだ戦えそうか?」
俺の隣で歩みを止めたコジルドに、体力の余力を聞いてみた。
「サープラス……! 復讐心と闘志に満ち溢れておりますぞ」
「よしっ。シノは瀕死か死んだフリか見抜けないが、敵はほとんど虫の息だ。一気に畳み掛けるぞ!」
俺は敵に指を差しながら、力強く号令を唱える。
――俺が指を差す先、正門の外。
そこにはデュヴェルコードの魔法で全滅した、千人を越える騎士たちの倒れた姿が。
その最前列には、未だに見苦しい体勢のまま、微動だにしないシノ。
そして腹を押さえながらシノの体を揺さぶる、デュヴェルコードの顔をしたイマシエル。
気のせいだろうか……?
イマシエルはシノの安否を確かめていると言うより、シノに何かを囁いている様子に感じとれた。
「トドメは、我が刺す……!」
「ひとりで大丈夫か? コジルドよ」
「無論。戦闘において、同情は敵への侮辱に等しき心理であるからな」
コジルドは体勢を低くし、禍々しいオーラを纏った愛槍を右手で構える。
「お前の原動力は、復讐心じゃなかったのか? いったいどこから同情のワードが出てきたんだよ……!」
それにコイツ、俺が初めて会った日の手合わせで、思いっきり同情を寄せた行動に出ていなかったか?
生身で攻撃を食らいクタバってはいけないからと、自分自身ではなく俺に支援魔法を掛けて来ていたが……!
確かに思い返せば、あれは同情という名の侮辱だった。
「動機はどうであれ……処す! 狂技、『惨守の苦死盛り』アゲイン!」
「ちょっ、お前は! またひとりで勝手に!」
コジルドは技名を言い残し、俺に構う事なく正門の外に向かい進撃を開始した。
しかし、次の瞬間。
「――今よ、イマシエル! 最後の悪足掻きだ!」
「――シノさん! その悪足掻きって言い方やめて! しっかり逃げる時間、稼いでくださいね!」
コジルドが正門を通過した途端、体を同時に振り向かせてきた、シノとイマシエル。
「やはりあれは死んだフリ。そしてイマシエルのヤツ、何か打ち合わせていやがったか……!」
イマシエルはシノを庇うように最前に立ち、自身の顔に素早く両手を当てる。
そして即座に両手を広げ、予想だにしていなかった顔マネを、披露してきた……!




