3話 魔王責務7
新たに浮かび上がっていたカードの文章に、俺の思考が一瞬停止した。
「ポッ……! ポポポッ、ポイポイポイポイ……!」
予想だにしなかった事態に、自然と発声が乱れた。
ポイ捨てするハトのような情けない声を漏らし、揺れる焦点でカードを見つめる。
「お、おかしいだろ。こんなの聞いてないぞ……!」
あっさりと魔法を取得できた後に、浮かび上がっていたカードの文章。
それは。
『ギブスまみれのワキガ外交官さん。魔法取得後の残りポイントは、95ポイントです。
このまま、取得を続けますか? ポイントを加算しますか?』
「ポイントを加算って、これ転生トクテンだよな。それって遠回しに、もう1度…………!
いや、そうじゃない! 加算の方じゃない! 問題なのは、残りポイントの方だ。使うのは今回が初めてなのに、どうして残りが95ポイントなんだ。
貰ったのは、確か1000ポイントのはずなのに……」
俺は落ち着きなく、カードを見つめ続けたまま、その場で立ったり座ったりを繰り返す。
モヤモヤからソワソワへと変わった感情の中で、これまでの経緯を思い返してみた。
「エリシアさんから、1000ポイントと言われたよな。それからカードを貰って、ウネウネと天界文字が浮き上がって。向かい合いながらふたりでカードを持って…………あっ……!」
そこまでの記憶を辿った瞬間、俺はピンときた。
「あった……! そう言えば使ったかも。いや、使われたかも。チュートリアルで! 『オール・ランゲージ』が、サービス取得じゃないとすると……。
この世界に来る前から、900ポイントも削られていたって事!?」
俺はしばらく黙り込み、改めてカードに記された残りポイントを確認した。
スタート前から、有限のポイントを9割も消費させられた……。
しかもチュートリアルで……!
「いったい、なんの為の転生トクテンだったんだ。
チュートリアルでポイント根こそぎやがって、お試し価格って言葉を知らんのか……!
もはや悪徳な邪神……。いや、邪女神エリシアだ……!」
俺はベットに深く腰かけ、大きな大きなため息をついた。
「なぜか魔王に転生させられ。既に魔王城は勇者に完全攻略され。転生トクテンは根こそがれ……!
のっけから、ここまで追い込まれる事なんて、そうそうないぞ。
マイナススタート……いっそ清々しく思えてきた……」
お手上げな現実に、俺は投げやりにも両手をバンザイし、そのままベットへと背中から倒れ込んだ。
ベットに、デュヴェルコードがいる事も忘れ。
そして右手に、『スパーク』を宿している事も忘れ……。
倒れ込んだ拍子に、眠るデュヴェルコードの太ももへ、俺の右手が触れてしまった。
――バチバチッ……!
「イターーーイッ!!!」
可愛らしい悲鳴を上げ、ベットから飛び起きたデュヴェルコード。
どうやら無防備に眠る少女へ、電気を食らわせてしまったらしい……。
「す、すまない! ケガはないか!?」
俺も咄嗟に、その場で立ち上がった。
「ビ、ビックリした……! ロース様、酷いです!
いくらわたくしの寝顔が可愛いからって、チョメチョメしようとなさるなんて!
チョメチョメなさるなら、もっと時と場所を考えて! それに、チョメチョメはもっと優し……」
「お、おいストップだ! チョメチョメ連呼するな! て言うか、チョメチョメってなんだよ!
それに誤解だ。たまたま魔法を宿していた私の手が、お前に触れてしまっただけだ」
デュヴェルコードの怒声を遮り、俺は必死に弁解した。
「そんな見え透いた大嘘はお止めください! この期に及んで、見苦しいです! 『グヘヘー、バレたかチョメチョメェー』くらい正直な方が、まだ魔王らしいです!」
いや、それはただの変態だろ……! それにどうでもいいが、魔王のモノマネ下手だな。
チョメチョメが、情けない語尾に聞こえてくるし。そんな魔王、嫌だわ……!
「嘘も偽りもない、真実だ。ほら見ろ、『スパーク』……」
俺は誤解を解こうと、再び右手に『スパーク』を出現させた。
「ほらな? この状態で、たまたま触れてしまったのだ。痛い思いをさせた事は詫びるが…………。おい、どうした?」
なぜかデュヴェルコードは目を点にし、唖然とした様子で俺の右手を見始め。
そして。
「えっ……。えええぇぇぇーーーーっ!!」
突然、顔面を崩壊させる勢いで、驚きの絶叫を上げた。