23話 激痛激怒8
「えぇぇぇーーー!! それ誰ですか、わたくし!?」
デュヴェルコードの顔に扮したイマシエルを指差し、驚愕した様子で大扉に現れたデュヴェルコード。
「ここで本人登場かよ」
俺は大扉に立つデュヴェルコードを見るなり、思わずため息を吐いた。
できればこのタイミングで、戻って来て欲しくはなかった。ややこしい事態に発展しなければいいが……。
「ロース様! 正門の外で、片膝をついてお腹を空かせている彼女は、わたくしですか!?」
「待て待て、色々とおかしい質問だな。まずあんな大袈裟に、腹を空かせたヤツがいるか?」
「空腹が極限に達すれば、膝のひとつも崩れますよ!
あれはどう見たって、極度にお腹を空かせたわたくしですよ!」
「あれは私の一撃を腹に食らったから、激痛に見舞われているんだよ!」
「ロース様の一撃って……ゔぇぇーー!! ロース様がわたくしに暴力を!? なんでそんな非道な事を!」
「あぁったく、そうではない! デュヴェルコードはお前であって、アイツはお前ではないだろ!」
「何の謎かけですか! アレやコレやグチャグチャで、全く理解できません!」
デュヴェルコードはプンスカと怒気を露わに、乱暴な足取りで俺の方へと向かって来た。
予想通り、いや予想以上にややこしくしてくれたな。グチャグチャしているのは、この子の脳内だけなんだが……!
俺の隣に辿り着くなり、デュヴェルコードはイマシエルをジッと見つめ。
「ま、まさか……その大人びたナイスバデーなわたくしは……!」
何か気付いた様子で、デュヴェルコードは両目のオッドアイをパッと見開いた。
「未来から来た、わたくし……!」
「デュヴェルコードよ、それを大マジメに申しているのなら、頭大丈夫か? どう頑張っても、私にはその答えに行き着くルートが見当たらないんだが」
「理屈ではなく感じるのです。あの大人びたわたくしから、不思議なシンパシーを」
「有りもしない電波を受信しないでくれ。それは思い込みかマヤカシだぞ。
そもそも、時空移動の魔法なんてこの世界にないだろ」
「確かにそのような魔法はありませんが、考えてもみてください。唯でさえ魔法の才能に溢れたわたくしが、大人に成長すれば……。ワンチャン、時空も移動できる魔法とか生み出す可能性だって……!」
「余計な自己分析を始めるな。どれだけ未来の自分に、期待を寄せてんだ」
俺は呆れながら肩を落とし、デュヴェルコードの肩に力なく片手を置いた。
ダメだ、忘れていた。俺がンーディオに吐く見え見えのハッタリでさえ、敵味方を問わずひとりで真に受けるほど、この子は頭が弱点だった……!
それに加えて、実現の可能性を真剣に考え始めるほど、この子は純粋で天才な魔法使いだった。バカと天才は紙一重という事か……。
「それよりロース様! 遥々未来から来た大人のわたくしに暴力を振るった件について、詳しく!」
デュヴェルコードは俺の手を振り払い、勢いよく顔を向けてきた。
「だから、あれはお前じゃないって!」
「では誰ですか! 未来から来たわたくし以外に、説明がつきませんよ! どう見てもわたくしですのに!」
「それは外見だけであって、正体はイマシエルだ!」
「えっ? 顔面プレーンさん?」
正体を伝えるなり、デュヴェルコードは呆気にとられた様子で、目を点にした。
「あれはドッペルゲンガーの顔マネだ、ただの海賊版だ!」
「海賊?」
「あ、いやっ……とにかく証拠を見せてやる!」
俺は依然として周囲に浮かせていた岩の破片をひとつ手に取り、イマシエルに向け敢えて球速を落として放った。
「ちょっ、ロース! 負傷中に畳み掛けてくるな!」
俺の目論見通り、イマシエルは体を回転させながら、ギリギリのところで岩の破片を躱した。
「見たかデュヴェルコード! お前ならわざわざ攻撃を躱すか? 本当にあれが未来のお前なら、魔法でシールドを張るだろ!」
俺はイマシエルにビシビシと指を差し、デュヴェルコードにアピールする。
「確かに、それは間違いありませんね! しかしロース様、わたくしの事を知り過ぎでは?」
「………………当たり前だろ。毎日ずーっと横に張り付かれているのだから、嫌でも性格と特性くらい覚えるわ」
「そ、そうですよね、失礼致しました。まぁ途中から、あれは未来のわたくしではないと薄々気付いていましたが。
わたくしがロース様に負けるなんて、時空を移動するよりあり得ない話ですからね」
デュヴェルコードは胸の前で両腕を組み、納得したようにウンウンと数回頷いた。
何て嫌味な説得力なんだ。これを悪気もなく素で言っているから、余計にイラッとくる……!
「呆れるほど無礼な考察だが、今は良しとしよう。敵がまだ目の前にいる事だしな……」
俺は宙に浮く岩の破片を再び手に取り、イマシエルへと向き直る。
「まだイマシエルへの報復が終わっていない。先にこっちを片付ける」
俺はイマシエルに狙いを定め、投球モーションに入るべく腕を大きく振り被った。
「お待ちくださいロース様、よく見るとそこら中に石ころが浮かんで……」
「私が魔法で浮かせた、『フロート』を使ってな」
「『フロート』って……えぇぇーー!! ロース様が『フロート』!?」
デュヴェルコードの叫声に、俺は思わず投球モーションを中断した。
今度はそこに食いつくのかよ、この騒ぎ立てロリエルフ……!




