23話 激痛激怒3
「待たせたなコジルド、使えっ!」
イマシエルから槍を奪い取った俺は、透かさずコジルドへ向け槍を放った。
「お前にはこれが必要だ、全開で戦え!」
コジルドを目掛け、ブレなく真っ直ぐに飛んでいく槍。
投げた瞬間に感じた。あの槍は素晴らしい。程よい重量と全長、そして空気の抵抗を感じさせない槍先の鋭さ。
情けない名前をつけられてはいるが、間違えなく一級品だった。
「――感じるぞ、我を呼んでいる……」
痛い呟きと共に、右手を真横に伸ばしたコジルド。
そして、次の瞬間。
――パシッ……!
こちらに振り返りもせず、コジルドは見事に槍を右手でキャッチした。
コイツ、背中に目でもついているのか?
俺の投げた方向がもう少しズレていたら、串刺しになっていたぞ……!
コジルドはゆっくりと体勢を低くし、大扉に立つシノへ槍を構えた。
「――愛槍か、馴染む……」
コジルドの演出を後押しするように、タイミング良くそよ風がマントを戦がした。
もう……勘弁してくれ、コジルド。痛くて恥ずかしくて、見ていられなくなる……!
大扉の方を見てみると、シノも俺と同じく顔を引き攣らせていた。
「そこの……ひとり別世界にいるヴァンパイア。『馴染む』とか呟くな、究極の痛い子に思える……」
「黙れ、勇者の助手如きが。貴様だけは楽に死なせんからな」
「助手言うな、右腕だ。戦果うんぬんよりも、あぁ……誰かにこの痛い子の相手を代わって欲しい」
「この期に及んで他人任せか? 逃すわけがなかろう」
「………………話すら噛み合わない、戦意を削がれるほど痛い子って意味なのに」
「御託はいい、制裁の時だ。謹んで食らうがいい。狂技、『惨守の苦死盛り』……!」
コジルドが技名を唱えるなり、禍々しいオーラが槍を包み始めた。
出たよ、お馴染みの残念な技名。今回は居酒屋のオススメメニューみたいな技名だな……!
「貴様を、処す……!」
槍にオーラを纏わせたまま、コジルドはシノに向け進撃を開始した。
地を這うような低い姿勢で激走し、あっという間にシノとの距離を詰めていく。
「やはり真っ向からって……早っ! 『クリエイトオブジェクト』!」
間一髪のタイミングで、分厚い盾のような鉄板を魔法で生成したシノ。
しかしコジルドは構う事なく、シノに向け槍を突き出した。
――ギィィィンッ!
激しい槍の突きを防ぎ、ヒビ割れを起こしたシノの盾。
「ぐわっ、なんて重い突きしてんのよ!」
攻撃は防いだものの、コジルドの勢いに押されたシノの体は、軽々と魔王城内へ吹っ飛ばされた。
「狂技『惨守の苦死盛り』とは、惨めな守りしかできぬ貴様を、苦死へと誘う突きの連撃……。これで終わりではないぞ! 逃げる事は許さぬ!」
コジルドは技の説明をしながら、ただ吹っ飛ばされただけのシノへ追撃を仕掛けるように、魔王城内へと追いかけて行った。
――ガンッ……!
城に入る間際、大扉の横枠に構えた槍先をぶつけながら……。
何で槍を横にして走るんだ、そこは正面に構えて追いかけろよ、みっともない追撃だな。
ひとりでキレているヤツが凡ミスを晒すとか、本当にツッコミ辛くて痛いんだが……!
「ま、まぁ……あちらは大丈夫だろう、多分。狂変して愛槍まで手にしたんだ、コジルドに負ける要素はない。問題は……」
俺はこれから倒すべき敵、イマシエルへゆっくりと振り返っていく。
問題なのは、こちらの戦いだ……!
戦況からして、俺もひとりで戦う事になると、覚悟はしていた。だが正直、勝てるかは分からない。
最終エリアボスであるレアコードと、互角に渡り合えるような敵だ。正攻法では、まず勝てないだろう。
魔王のくせに姑息かもしれないが、イマシエルの不意を突くような手段で行くしかない。
ゆっくりと振り返りながら、頭の中でベストな策略を練っていた。
その時。
「えっ、ダガー……!」
振り返った途端、俺に向かって飛んでくるダガーが視界に入った。
「ふざけっ……うわっ!」
俺は一心不乱に体を横へ倒し、飛んできたダガーをギリギリのところで躱した。
そのまま受け身を取る余裕もなく、俺は地面へ倒れ込んだ。
「おっしぃー、もう少しだったのに。でも情けないね、死に物狂いで倒れたロース。
アハハッ! 魔王、危機一髪!」
笑い声を上げながら、バカにする様子で俺に指を差すイマシエル。しかし顔のパーツがないため、本当に笑っているかは視認できない。
不意を突こうとした俺が、先に不意を突かれてどうする……!
「次回予告みたいなテンポで喋るな、顔面プレーンが」
俺は体に付着した土や埃を手で払いながら、その場に立ち上がる。
「次回予告? そんなテンポは知らないけど、顔面プレーンって呼ばないでくれる? 自分は簡単に不意打ちを許しちゃう、脳筋ロースのくせに」
「不意打ち頼りのヤツが偉そうに語るな、姑息な裏切り者め」
自分も同じ手口を考えていたと悟られないために、俺は堂々と腕を組みイマシエルを睨みつける。
「戦意が剥き出しだねぇ。このイマシエルと、本気でタイマンを張るつもりかな? 気でも狂った?」
「バカを吐かすな。私は端から、お前と一騎討ちのつもりでいた。
私がお前に負ける要素でも、あると言うのか?」
俺は敢えて会話を長引かせるため、イマシエルに質問を返した。
そしてイマシエルから目を逸らさず、ポケットからある物を静かに取り出す。
「いやいや、寝ぼけないで。むしろこのイマシエルが勝つ要素しかないんですが。私がダガーしか使えないと思ってんの?
そんな訳……って、何をゴソゴソしているロース。こんな時に脇腹を掻くな、不潔め」
「ふ、不潔ではない、これは武者震いだ。今からお前を叩きのめす、サインだよ……!」
俺はポケットから取り出した物を、目立たないよう脇腹の近くで操作していた。
これは俺にしか見えない、そして俺にしか扱えない特別なカード。
「魔王軍を裏切り、姑息な手口で人族に貢献しやがって。覚悟しろよ、この魔族の面汚し……いや、面なしが……!」
話を引き延ばしながら、俺は操作を続けた。
――邪女神エリシアから授かった転生トクテン、『オブテイン・キー』を……!




