22話 軍勢襲来7
俺の背後から耳を掠めて飛んできた、1本の矢。
「――レ……レア姉……レア姉っ!」
俺の横を通過したその矢は、デュヴェルコードを庇ったレアコードの腹部を捉え、鋭く刺さってしまった。
「カ、カハッ……デュヴェル、無事かしら……」
「レア姉、しっかりしてください、レア姉っ!」
膝から崩れ落ちたレアコードを、小さな体で必死に支えるデュヴェルコード。刺さった矢に接触しないよう、レアコードの体をゆっくりと自信の胸元に抱き寄せていく。
そんな様子を目の当たりにし、俺も慌ててふたりの元へと駆け寄る。
「おい、大丈夫かレアコード! 意識はあるか!?」
俺は駆け寄るなり、レアコードと同じ目線の高さまで腰を落とした。
「さ、騒がしいですわよ、ロース様。こんな針が1本刺さっただけで、大袈裟ですね……」
デュヴェルコードの胸元に体を預けながら、俺へと薄く笑いかけてくるレアコード。
「大袈裟などではない! まさかお前が攻撃を食らうなど、誰が予想できる!」
「そうですわね……。あたくしだって想定外でしたわ。でも直感は当たったようね、こうしてデュヴェルが無事なんだから」
レアコードはデュヴェルコードの手を取り、苦しげにも優しい微笑みを向けた。
「レア姉、どうして! どうして、わたくしなんかのために!」
「フフッ……。たったひとりの可愛い妹を守るのに、理由なんてないわ」
「うぅ、レア姉……それでも無茶をし過ぎです」
「そうかしら? デュヴェルだってロース様を守るためなら、後先なんて考えずに無茶をしたりするでしょ?」
「はい…………職務上、仕方なく……」
おいっ……!
シリアスな現場だから、今は声に出してツッコまないでおくが、そこは『はい』のひと言でいいだろ……!
「そ、それにしても、この矢はいったい……! いったい何が起きたんだ!」
レアコードの意識を確認できた俺は、シノの佇む正門外と、矢が飛んできた方向を、交互に見渡し始めた。
これはシノの矢で、間違いないはず。俺もシノの矢を受けた事があるが、同じ矢を使っていた。
しかし当の本人は、先ほどから正門の外で佇んだまま、矢を射るような動きを見せなかった。
そして矢が飛んでくる直前、何処からともなく、シノの声と詠唱が聞こえてきた……!
「シノは正門外で突っ立ったまま。ではやはり他の何者かが、魔王城内から狙撃を……」
『――半分正解ね! 脳筋にしては、なかなかの推理だわ! 脳筋にしてはだけどね!』
俺の発言を遮った、シノの声。
しかしその音源は、またしても正門外ではなく、魔王城の方からだった。
俺は透かさず魔王城へと視線を向け、大扉の中を凝視してみる。
すると。
「城内から狙撃をしたのは正解。でもね、矢を放った他の者って言うのは……」
「なぜ、お前がそこに……!」
俺は大扉の奥から現れた狙撃者の姿に、目を疑った。
「矢を放ったのは、勇者の右腕である、この私よ」
「シノが……ふたり?」
大扉から姿を現したのは、紛れもなくシノだった。
「フンッ、驚きを隠せないようね、魔王! どうだった? 勝ちを確信した時に、目の前で魔族がひとり射抜かれ……」
「では誰だ! 正門の外にいる残念な女は!」
俺はシノが言い終わるより早く、その場に勢いよく立ち上がり正門の外へと体勢を向けた。
「ちょっと! 最後まで聞きなさいよ魔王! あと、こんな時くらい『残念な女』って間抜けた言い方をするな! ねぇ、聞いているの!?」
俺に背を向けられながらも、シノはひたすら呼びかけてきているが……。
俺は構う事なく、正門の外に立つもうひとりのシノに意識を集中させた。
狙撃した者の正体が明らかとなった今、優先して確認しなければならないのは、正門の外に立つもうひとりのシノの正体だ。
城内から現れたシノも、確実に本物とは言い切れない。だが矢を射った事実を考慮すれば、魔王城内から出てきたシノの方が、本物という可能性が高い。
現に正門の外にいるシノは弓を手に取るも、まだ1本も矢を撃っていない。それどころか、まだ矢に触れてもいない……!
「恐らく……正門の外にいるアイツが、偽者ですわ……」
今にも途切れそうな弱々しい声量で、俺に助言をしてきたレアコード。
「やはり、お前もそう思うか……」
俺はシノの偽者へと視線を向け、鋭く睨みを利かせる。
「おいっ、外にいる残念な偽者! お前は誰だ、シノのコスプレをした、そっくりさんか!?」
俺が追求するなり、正門の外にいるシノは揶揄うような笑みを浮かべた。
「――アハハッ! ブッブー、ハズレー! まんまと騙されたようだね、ロース!」
「馴れ馴れしい口を利くな。どんな小細工を使ったかは知らないが、お前は誰だ! さっさと正体を明かせ!」
「怖い怖い、迫力だけは一級品の魔王なんだから。そんなロースに教えてあげる、私の正体は……」
語尾を濁しながら、両手で自身の顔を隠し始めた正門外のシノ。
そして両手を離した途端、その素顔を明らかにした。
「ジャジャーン! この顔、忘れもしないでしょ? 裏切り者ロース!」
「お前は……イマシエル……!」
正門外にいたシノの正体は、勇者パーティに寝返った、ドッペルゲンガーのイマシエルだった。
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