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3話 魔王責務6





 ――この世界に転生して以来、ずっと忘れていた授かりもの。それは……。


「『オブテイン・キー』だ。すっかり忘れていたよ」


 腰を下ろしたベットの近くで見つけたカードを、俺はゆっくりと拾い上げる。


「あの時、必死に握り締めていたんだよな。泥沼のような魔法陣に、沈められた時……。

 これ、まだちゃんと使えるのか?」


 俺はカードを眺めながら、適当に指先でトントンとタップしてみる。

 すると天界で見た時と同じ文字が、ウネウネと浮かび上がってきた。


「よかった。まだ使えそうだな。相変わらず、ウネウネと気味の悪い文字だが……。

 それを読める自分にも、気味悪さを感じてしまうな」


 3日後に迫った勇者の再来まで、これと言ってやる事が見つからない。デュヴェルコードも眠ってしまうし……!

 このカードの性能を試すのに、うってつけな時間だ。上手くいけば、自身の強化にも繋がる可能性だってある。


「デュヴェルコードが起きるまで、ひとまずコイツを探ってみるか!

 まずは……。装備、魔法、スキル、アイテムの中から、メニューを選べばいいんだな……。なんか、ゲームみたいだ」


 俺は始めに浮かび上がったメニュー選択の中から、魔法の欄をタップした。

 当然、魔法以外の3種類も、欠かせない要素であるとは思う。だが、やはり手始めは魔法がいい。


 推察に過ぎないが、恐らくこの魔王の体にも、既に体得済みの魔法はあるだろう。

 魔族の王に位置するくらいだ。デュヴェルコードにもおとらない、ド派手で強力な魔法が使えてもおかしくない。

 しかし今は、そのやり方が分からない……。


「ここは異世界なんだ。俺だって、少しは魔法を使ってみたい!

 何か手軽な魔法を取得して使ってみれば、体が思い出してくれるかもしれないし!」


 俺の中で芽生めばえた、魔法に対する憧れと、好奇心のまま選択した魔法の欄。

 カードに浮かび上がる指示に従い、順調にタップして進んでいった。


「この魔法一覧ってところから、選んでいくのか?

 ファイア、ウォータ、スパーク、ウインド……。前世でも聞いた事のある名前が並んでいるな。それ以降の名前は、聞いた事のないヤツが多いが……。

 それにこの、横に書かれた数字はなんだろう。この数字分のポイントを消費して、取得するって事かな?

 試しに、この『スパーク』ってヤツを、ポチッと」


 俺は横に5と書かれた『スパーク』をタップしてみた。名前からして、雷や電気のような魔法だろう。

 初手にしては、オーソドックスから外れる選択かもしれない。だが俺の中で、なぜか最も強そうで、魅力的に思えた。

 雷や電気を魔法で操れるなんて、カッコいいではないか!


 魔法取得という初体験に、ワクワクと心をおどらせる最中さなか……。

 

「はっ……? どゆこと!?」


 次に浮かび上がった文字を見るなり、俺の心境は一変した。


『――5ポイントを消費して、この魔法を取得しますか?

 ギブスまみれのワキガ外交官がいこうかんさん』


 ………………これは俗に言う、ユーザー名だろうか? 間違いなく、俺の事を指しているが。


「エリシアさん……。悪意しか感じないよ……」


 まさか授与の際、『オール・ランゲージ』のスキル取得直前に、コソコソとこんな小細工をほどこしていたのか? 俺が読めない事をいい事に……。

 なんて陰湿いんしつな手口だ……!


「あ、あの外道女神め……! こんな時まで、イジってくるのかよ」


 俺は心にモヤモヤを抱きながら、確認ボタンをタップした。

 するとカードは光り出し、天界で味わった体のザワつきが、全身を駆け巡っていく。


 今回も、目に見える変化はない。だが感覚で分かる。


「『スパーク』……」


 小声の詠唱に合わせ、胸の前で広げた右手の上に、手のひらサイズの魔法陣と放電が発生した。


 ――俺は、初めての魔法を取得できたようだ。


「はぁぁ……。誰がワキガ外交官だよ……」


 モヤモヤと、複雑な感情の中で……。


 初魔法の成功にも関わらず、そこには感動などなかった。

 この感情をぶつけたい名付け親は、空よりも高いところにいる。今さらツッコミたくてもツッコめない、行き場を失った嫌悪感。

 まるで、電車内にいる隣の乗客に、下車直前でオナラをこき逃げされたような気分だ……!


 複雑な心境の中、手のひらでパチパチと放電を続けるスパークに、視線を移す。


「いいな……。俺も弾けたい。

 この命名の件も含めて、天界に戻っていろいろと、文句をぶちまけてやりたい……!」


 モヤモヤする感情を胸に、再びカードへと視線を戻した。


 しかし……。


「………………はぇっ!? じ、冗談キツいぞ……!」



 ――既に浮き上がっていた次の文章に、俺の思考が一瞬だけ、停止した。



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