表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/304

22話 軍勢襲来6





 デュヴェルコードの魔法により、ひきいていた軍勢を一撃で全滅させられたシノ。

 しかしシノは怖気おじけ付く事なく、ひとりになりながらも戦意をあらわに弓を手に取った。


「私には、奥の手がある。これはおどしではないからな……!」


「奥の手だと? このおよんで、まだそんな大見得おおみえを切るとはな。大人しくおなわにつけばいいものを」


「はぁっ!? お前は脳筋だけでなく、変態の素質もあるのか!」


「はっ?」


「お前は立場を利用し、命がしくば大人しく()で縛られろと……そう言いたいのだろ! 私のような美女を縄で縛ってどうするつもりだ、この顔が下心魔王!」


 俺の意図をみ取れないのか、全くお門違かどちがいな解釈で返してきたシノ。


 まさか、お縄につくの意味を知らないのか?

 先ほど敵ながら少し見直したと言うのに、やっぱりコイツはただの下品で残念な女だった……!


「誰の顔が下心だ。せっかくチャンスを与えてやったと言うのに、私の慈悲じひを踏みりじりやがって。覚悟しろよ、この勘違い下品が」


 シノの物言いに、俺は少しイラ立ちをあらわにした。


 そんな時。


「ウェイスト……! ロース様、落ち着いてくだされ。あんな弓の小娘に腹を立てても、仕方ありませぬ。ここは我が引き受けましょうぞ」


 自らシノの相手をすると名乗りを上げ、俺の隣へと移動してきたコジルド。

 空に暗雲あんうんが残っているためか、いつの間にかコジルドは自作したサンシェードを解体し、マントを()()()背中に羽織はおっていた。


「フハハッ! 喜べ、品のないキューピットよ。貴様の相手は、我がしてやる」


 両手でマントを広げるなり、シノへ人差し指を差したコジルド。

 そして例によって、透かさず人差し指を折りたたみ、小指でシノを差し直す。


「そのキューピットって呼び方やめろ! 私はアーチャーよ!

 日光で弱体化するヴァンパイア(ごと)きが、しゃしゃり出てくるな!」


「貴様の目は節穴ふしあなか? これだけ暗雲にまみれたフィールドであれば、なんの問題にもならぬわ」


「それだけで私に勝つつもり? 前回の戦いで、ランサーの命である愛槍あいそうを失ったお前が?」


「フハハッ、他愛たあいない! 確かに愛槍あいそうを失った事は、我にとってやむべき落ち度であった。

 しかしこの環境下であれば、お前如きやりなど持たずとも瞬殺できるわ! 失いし愛槍あいそうの無念を晴らすためにも、我の手で貴様をほふってくれる!」


「フンッ、その無念って……」


 シノは言い終わる前に、なぜか倒れた騎士のひとりへと歩み寄り、地面から棒状の何かを拾い上げる。

 そしてそれを雑に握り締め、再び元の位置へと戻ってきた。


「お前の無念って、この()()()()の事か?」


「なっ……それは……」


 シノが拾ってきた物を見せつけるなり、コジルドはその場で固まった。


「そ、それは我の愛槍あいそう……『当たランス』……」


「そうよっ……! えっ、これって『当たランス』って名前なの? ま、まぁいいわ。一撃回避のスキル、『クリティカルドッジ』で私が攻撃をかわした際、地平線に飛んでいったお前の槍よ! 

 激闘の後に帰ってみたら、偶然にも私の家に突き刺さっていたわ! なんてヤンチャな棒なのかしら!」


 シノは槍を力強く握り締めながら、プルプルと腕を震わせる。


 確かに前回の戦闘で、シノが絶対回避のスキルでコジルドの飛ばした槍をけていたが。

 それってある意味、当たってないか? 出来すぎた偶然ではあるが、それが事実なら絶対回避とは言い切れない気がする……!


「フ、フハハッ。まさかそれが、貴様の言う奥の手か? 我に対する人質ひとじちという事か。

 しかしどんな経緯いきさつであれ、ターゲットの住処すみかとらえ、主人の元へ戻ってくるとは、なんと利口な愛槍あいそうよ……!」


「どこが利口な棒だ! 持ち主にソックリなほど腹立つ棒だから、その持ち主へ返しに来たのよ! 返すって言っても、お前を串刺しにしてだけどね!」


「またごとを。しかしこれで貴様を倒さなければならない、正当な目的ができたぞ。ドロップアイテムとして、我の愛槍は返してもらうからな!」


「イキがるな、手ぶらヴァンパイア! 武器も持たぬお前など、取るに足りない!」


「吐かせ! 大見得おおみえを切ったくせに、軍を一瞬で全滅させられたド阿呆あほうが、たったひとりで何ができる! この可哀想かわいそうなひとりボッチが!」


 コジルドが語り終わった途端、この場にいる全員の視線が、コジルドに集まったのを感じた。


「お前がそれを言うか? 全力で痛いんだが……」


 コジルドに冷たい視線が集まるなり、正門前はしばらくの間、静かで重苦しい雰囲気に包まれた。

 そんな最中さなか、この雰囲気を作り出した張本人のコジルドは、自覚がない様子でドヤ顔をシノに向け続ける。


「も、もうっ、コジルドさん! どうする気ですか、この空気!」


 長い静寂せいじゃくたまれなくなったのか、デュヴェルコードが先陣を切り、重苦しい雰囲気を打ち破りにかかる。


「なっ……! く、空気? 皆、我のカリスマ性に威圧いあつを感じ……」


「そんな訳ないでしょ! 皆んなドン引きしているだけです、この魔族の恥晒はじさらし!

 間違っても、『可哀想なひとりボッチ』などと他人ひとに言ってはいけません! ()()可哀想なひとりボッチである、コジルドさんだけは!」


 まるで魔族を代表して説教をするように、コジルドへ怒声を放つデュヴェルコード。


「わ、我が恥晒はじさらし……?」


「そうですよ、恥知らず!」


 コジルドの顔を引きらせる程の罵声ばせいを放ったのち、デュヴェルコードは俺へと顔を向けてきた。


「ロース様! 幸いにも、今の痛い発言を聞いた敵は、あの残念な女ひとりだけです!

 早急に始末して、口封くちふうじしましょう!」


「お、おい待てっ。またお前は無鉄砲に……」


 俺の制止も聞かず、デュヴェルコードは乱暴な足取りで、シノへと真っ直ぐに歩み寄っていく。


「全くコジルドさんは、いつもいつも!」


 イラ立ちを剥き出し、デュヴェルコードは愚痴ぐちをこぼしながら、正門をくぐり外へと踏み出した。


 そんな時。



『――待っていたわよ、ロリエルフ。『シャイニング・アロー』」



 何処どこからともなく聞こえてきた、シノの声。

 しかし目の前にいるシノは、一切口を開いた様子がなかった。


 これは、いったい……!


「デュヴェル!! 危ないっ!!」


 シノの声に逸早いちはやく反応し、俺の隣から勢いよく駆け出したレアコード。

 いつもはかしこく冷静に行動するレアコードが、これまでにない慌てようで、デュヴェルコードへと目を見張る速さで駆け寄っていく。


「えっ、レア姉?」


 レアコードの声量に驚いたのか、デュヴェルコードはこちらに振り返ってきた。


 次の瞬間……!


 ――ヒュンッ!


 突然、背後から飛来した何かが、俺の耳をかすめた。


「何だっ、矢?」


 鳥肌が立つような風を切る音と共に、1本の矢が背後から俺の横を通過していった。


「まさか、レアコード!」


 攻撃が来ると予知していたのか、レアコードは妹をかばうように両手を広げた。


 そして。


「カハッ……!」


 激しく嘔吐えずき、その場でひざをついたレアコード。


「レ……レア姉……レア姉っ!」


 デュヴェルコードをかばったレアコードの腹部に、1本の矢が鋭く刺さった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ