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22話 軍勢襲来3





 敵の待つ正門前へ向かうべく、寝室で身なりを整えていた俺。

 しかし前日の筋トレがわざわいし、俺の腕に激痛が走った。


「大丈夫ですかロース様、その筋肉痛」


「うっぐ……! さすがにキツい、服を着るのも一苦労だ。しかも再生した右腕だけに限らず、左腕まで筋肉痛になっていやがる」


「そうなんですね。しゃくですが、昨日のヤブ医者との勝負はドローという訳ですか。チッ、あの薄汚れキメラめ……!」


 他人ひとの苦労も知らず、無関心に舌打ちをするデュヴェルコード。

 そう、無駄に左腕まで筋肉痛になったのは、この子が暴走してマッドドクトールに勝負を持ちかけ、俺を巻き込んだからだ。


 くやしがってないで、少しは負い目を感じろよロリエルフ……!


「幸いにも、腕が全く動かない訳ではない。痛みさえ我慢すれば、何とか戦場には立てるだろう」


「分かりました、ですが無理は禁物ですよ。もしもロース様に危険が及んだ際は、ご自身の安全を優先してください。わたくしがお守りします」


「その時は頼むぞ。だが、お前の方こそ魔力は大丈夫なのか?」


「昨日の今日ですから、全回復はしておりません。ですが攻撃魔法なら、何発かは撃てますので、ご安心を!」


「そうか。お前も無理は禁物だからな、デュヴェルコード」


「はい、心しておきます! しかし……敵さんも、予期せぬタイミングで来ましたね。

 チンピラ勇者を撃退してから、まだ日が浅いと言うのに、見事に裏をかかれました。魔王城を完全攻略まで追い込んだだけの事はありますね」


 昨日あからさまなフラグ発言をしたにも関わらず、無自覚に考え込む様子を見せる、オキマリ常習犯のデュヴェルコード。


 まさかこのお約束エルフ、わざと言ってんのか?

 いっそ、態度が白々しく見えてきたんだが……!


「私はむしろ、敵が来ると軽く予想していたぞ。とある虫の知らせを受けてな……」


 俺は自力で服を着終わるなり、目の前で考え込むデュヴェルコードを尻目に掛ける。

 しかし俺のひと言で、デュヴェルコードは食いつくようにバッと顔を向けてきた。


「虫っ、虫ですって!? そんな傍迷惑はためいわくな知らせをする()()()が、この近辺に生息しているのですか!?」


 お前だよ、その虫は……!


「ただの感覚的な話だ、そこまで大袈裟に食いつかなくていい! それより今は、正門前に急ぐぞ!」


 俺はグイグイと顔を近づけてくるデュヴェルコードの肩を掴み、先を急ぐよう無理やり突き放した。


「んんーっ! すこぶる虫ケラの正体が気になりますが、今は人族の相手を優先します!

 ではロース様、お手を。『テレポート』!」


 デュヴェルコードは不服げに俺の手を取り、透かさず魔法を詠唱した。



 ――すると同時に、俺たちふたりは一瞬で、正門前の広場に移動した。


「遅かったですわね、ロース様。それにデュヴェルも」


 先に駆けつけていたのか、俺たちの出現した位置のすぐそばで、堂々とたたずんでいたレアコード。

 しかしレアコードは俺たちに見向きもせず、正門の外で待機する人族の軍勢に、只々(ただただ)真剣な眼差しを向け続けている。


 レアコードの武装とけわしい表情を見る限り、俺同様に形勢の不利さから危機感を抱いているのかも知れない。

 最終エリアボスにして、冷酷なダークエルフである、あのレアコードでさえも……!


「早いなレアコード。お前が先陣を切って駆けつけてくれると、本当に心強いぞ」


「人族(ごと)きにノコノコと、この正門をくぐられたくないだけですわ。そう言うロース様は、随分と重役出勤ですわね」


「まぁ……魔王だからな、重役ではあると思うぞ。それよりだな……」


 俺は目の前の光景に疑念を抱き、呟きながら数歩ほど前に出る。


「何で毎度毎度、正門が開けっ放しなんだよ。ウェルカム感が過ぎるだろ」


 広場からでも人族の軍勢を見渡せる、いつも通り開かれた正門。

 レアコードが真っ先に駆けつけていなかったら、余裕で侵入を許していた可能性だってあるぞ……!


「それにこの広場の散らかり具合……。昨日の整形した岩の破片はへんまみれではないか……!」


 足の踏み場もないほど、広場の地面に散らばった岩の破片たち。

 実際に岩を崩したのは俺だが、まさか誰も片付けていなかったとは……。


 かんばしくない魔王城の現状に、俺は思わずため息を吐いた。


 そんな時。


「――2日ぶりね魔王! お前たち魔族のために、軍団をひきいて来てあげたわよ!」


 何処どこからともなく、聞き覚えのあるシノの声が響いてきた。


 俺への呼びかけが止むなり、シノは並ぶ人族たちを窮屈きゅうくつな様子でき分けながら、集団の最前列へとぎこちなく出てきた。


 登場の仕方がまるで、タイムセール中の人混みを掻き分けながら、ようやく値引き商品に辿り着けた主婦のようだった。

 大所帯おおじょたいの面前だと言うのに、相変わらず残念な女だな、勇者の右腕……!


「見なさい魔王! この城を落とすために集めた、総勢1016名の騎士たちよ!

 歴然たる勢力せいりょくの差を前に、股下またしたちぢこまらせて震えるがいいわ!」


 身にまとった白いローブをなびかせ、人族を代表するように声を張り上げるシノ。


「………………そこは約千人でまとめろ、面倒な紹介だな。あと朝から物言いが下品だ」

 

「フンッ……! 口が減らないのは相変わらずのようね魔王。ワンチャン、無様ぶざまに逃げ隠れるかとも思ったけど、正門前まで姿を見せに来た事は褒めてあげる。褒めるだけで、ご褒美はお預けだけどね!」


 シノは俺に向け指を差し、発言には似合わないキリッとしたキメ顔を浮かべてきた。

 朝から本当に残念なほど、ひとりでよくしゃべるな……。


「さぁ、魔族共! お前たちの首を、ひとつ残らずチョンパして……」


 ――バンッ!


 突然、俺の背後から響いてきた、扉の開くような音。

 狙ったかのようなタイミングで鳴り響いた快音が、見事にシノの決め台詞をさえぎった。


「フハハッ! 遅ればせながら……我、降臨こうりん! 何事であるか、朝っぱらから雑魚ざこ共が寄ってたかりよって、ピクニックであるか? この下衆げす猿集団が!」


 振り返ると、自作したサンシェードを構えたコジルドが、大扉の中央に立っていた。


「そこのヴァンパイア! 私の見せ場を邪魔してんじゃないわよ!

 タイミングといい、派手さといい、()()魔王みたいな登場をしてくれるな!」


 広場を物ともしない声量で、大扉に立つコジルドへ正門前から叫声を放ったシノ。


 魔王本人を前にして、真の魔王みたいとか言うなよ。

 俺が半端もんの魔王みたく聞こえるだろ……!


「おいシノ……! 残念な女のくせして、調子に乗るなよ。軍勢の面前で、お前を1番につぶしてやろうか……!」


 俺はシノに向き直り、威圧いあつするようにするどい視線を向けた。



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