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21話 筋増療法6





 ボディビルダーのようなポーズをとる俺の両腕に、タラリとぶら下がり続けるデュヴェルコードとマッドドクトール。

 そんな矢先に、デュヴェルコードがマッドドクトールに向け勝負を持ちかけた。


「ウヒッ? ロース様を使った勝負? 側近ちゃんは何を考えているのかなー?」


「単純な勝負です。ぶら下がった状態で、どちらがロース様の腕をよりガチムチにきたえられるかの勝負。

 つまりは早く落ちた方が、より不利になるというシステムです」


「ヒヒヒッ、面白い事を考えるねぇ。でも、ウチより長くえられるかなぁ? 筋肉をこよなく愛するウチに」


 マッドドクトールは懸垂けんすいのように体を持ち上げ、俺の上腕三頭筋に顔を密着させ、スリスリと頰摺ほおずりをしてきた。


 勝手にふたりのスコアボード代わりにされた、俺からすれば……。

 コイツらの重さ、いい勝負なんだが。

 どちらも大して体型変わらないし……!


「待て待て、勝手に話を進めるな。私はお前たちの道具ではないぞ」


「ウヒッ、ヒヒヒ。良いではないですかロース様。これぞ両手に花ですよー」


 不気味な笑顔を向けながら、ブランコのように体を左右に揺らすマッドドクトール。


「ちょっと待ってください、どう見ても()()()花ですよ。あなたみたいな汚くれた廃人は、さっさと落ち葉にでもなるといいです」


ひどぉーい、高飛車なロリエルフが、ウチを侮辱ぶじょくしてくるぅ」


「誰がロリエルフですか! この薄汚れキメラ!」


 俺の意見などお構いなしに、ふたりは両腕にぶら下がったまま言い合いをヒートアップさせていく。


「お前たちな、止めてくれないか? 何なのだ、この天秤てんびん状態の魔王は」


「天秤状態ですって? ロース様、今のお言葉は聞き捨てなりません。わたくしがそんな賞味期限切れの魔族と、トントンとおっしゃりたいのですか!?

 納得いきません! ならば圧倒的な実力差で、ロース様の両腕を極度の左下ひだりさがり状態にして見せます!」


「じ、実力差って何を……」


「『グラビティ・オーバーロード』!」


 デュヴェルコードが重力魔法を唱えた途端、俺の左腕にぶら下がるデュヴェルコードの体が……。


「おいっ、バカよせっ、よせって! 重すぎる!」


 過度かどな重圧により、超ヘビー級の体重に変貌へんぼうした。


「誰がここまでやれと言った! 早く魔法を解け、それか手を離せ! 重すぎるって!」


 この小さな体からは想像もつかない、圧倒的な重量感。

 重力魔法を宿した今のデュヴェルコードは、先ほどのダンベルよりも重たい気がする。


「いかがですかロース様! 絶対わたくしの方が逸材いつざいですよね!」


「ヒヒヒッ、側近ちゃーん。ロース様が重たいの嫌だって。物理的にも精神的にも、重たい女は嫌われちゃうよぉ」


「黙りなさいっ! 自分(みが)きの改造手術をミスったあなたに、言われたくありません。この失敗作キメラ!」


 依然として俺の言葉に耳を傾けず、ガミガミと罵倒ばとうを続けるデュヴェルコード。


「そ、そんなののしり合いはいいからっ、早く、早く魔法を解除しろ! 左腕が持たない!」


 この重圧は本気でヤバい、腕がブッ壊れてしまう……!


 重圧に耐えながら、徐々に下がっていく左肘ひだりひじ

 その左肘をかたくなに両手で抱きしめ、離そうとしないデュヴェルコード。


 一方、左腕の角度が落ちるに連れ、反比例するように上がっていく右腕。

 そんな右腕にぶら下がったまま、ジップラインのように俺の腕を伝って、ズレ落ちながら近づいてくるマッドドクトール。

 気のせいだろうか? 肩までズレ落ちてきた拍子に、ちゃっかりわきの臭いをがれた気がする……。


 そして何故なぜか、数歩ほど離れた位置で、俺の両腕と同じ角度をキープしながら、両手を広げて立ち尽くしているコジルド。

 何やってんだコイツ、綱引きの審判か。お前はヴァンパイアであって、ジャッジするアンパイアじゃないだろ……!


「い、いい加減にしないかデュヴェルコード、さすがに手を離せ!

 て言うか既に、ガッツリ足が床に着いているじゃないか! 徐々にひざを曲げていくな!」


「お構いなく!」


「構うわ!」


 無駄にかかる重圧に耐え切れなくなった俺は、横腹に密着したマッドドクトールを無理やり振り払った。

 そして自由になった右手で、デュヴェルコードの手を引きがしにかかる。


「はっ、離せぇ……! オラッ!」


 デュヴェルコード自体が重たくなっただけなのか、俺の腕にしがみつく小さな両手は、あっさりと引き剥がす事ができた。

 そのまま俺は両手をひざにつき、前屈まえかがみの状態で荒息を吐く。


「ゼェ、ゼェ……。つ、付き合い切れんぞ。何なのだ、この茶番は……!」


「失礼致しました。如何いかにわたくしが、ロース様に尽くせる良き側近かを証明したかったのですが、少しやり過ぎたようです」


 デュヴェルコードは涼しい顔で、俺にペコリと頭を下げてきた。


「………………嘘つけ、ただムキになっていただけだろ」


「ヒヒヒッ。そうそう、ヤキモチ側近ちゃん」


「お前もだマッドドクトールよ。どさくさまぎれに、姑息こそくな密着アクションなど仕掛けてきやがって。

 これで褒美は十分だろ、私はもう休ませてもらう。お前たちのお陰で、両腕ともパンパンだ」


 俺は両腕をゆっくりと回したのち気怠けだるさの残る腕をプランと下へ垂らした。


「ウヒッ、ヒヒヒ。しっかりと目の保養にさせて貰いましたよー。またいつでも怪我して、ここへ来てください。

 当院『お薬じょーずにキマるかな?』は、ロース様の来院を心よりお待ちしてまーす。鬼プロポーション、大歓迎!」


「医者が吐く言葉か……! あと、その医院名は変えてくれ。場違いネームが過ぎるぞ」


「ヒヒヒッ、考えておきます」


 俺は不気味な笑顔を浮かべるマッドドクトールに背を向け、医療エリアの出入り口へと歩き出す。

 するとタイミングを合わせたように、デュヴェルコードとコジルドも、俺の背後を歩き始めた。


「フハハッ、ロース様。とんだ茶番でしたな。徒然つれづれな余り、あくびが止まりませんでしたぞ」


「お前のどこが徒然つれづれだったんだ。冷やかすように両手を広げて、ノリノリだったではないか。どう見ても暇そうな者ではなかったぞ」


「エンジョイ……? あれは少し体を動かしたかっただけですぞ。それよりロース様、本日はもうお休みになられるのですかな?」


「そうだ。このまま寝室に戻って休む」


 俺は後ろを振り返らず、歩き続けながらコジルドに返事をする。


「わたくしも、本日は休ませて頂きます。朝から魔法を連発したため、さすがに魔力を使い過ぎました」


「そうだな、いくつか暴走もあったが、ご苦労だった。少しでも魔力を回復させるといい。私も1日ドタバタで疲れた」


「そうですね、お疲れ様でした。明日は1日、たっぷりとお休みになってください。わたくしも、存分にダラダラ致します!

 チンピラ勇者を撃退してまだ1日しか経っておりませんし、敵さんが攻めに来る事もないでしょう! 貴重なホリデー! 気楽に開放感、ですね!」


 俺はデュヴェルコードの発言に、思わず歩みを止めた。


 何を口走ってくれてんだ、このお約束エルフ。

 どう考えても、今のはフラグ発言にしか思えないんだが……!



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