3話 魔王責務5
――俺はデュヴェルコードを背負い、目指していた寝室に到着した。
「はぁっ、はぁっ……!」
到着したのだが。
「やっと……やっと着いた。ここの階段、いったい何段あるんだよ……!
軽く3時間は歩いたぞ」
転生時に目覚めた寝室へ到着するのに、かれこれ3時間ほどの徒歩を有したのだった。
その原因が……。
「おい。デュヴェルコード、起きろ! なんでナビが途中から寝ているのだ!
お陰で、城内を散々歩いたぞ!」
「……………………んん…………」
寝室への道案内をしていたデュヴェルコードであったが、途中から案内の声は薄れていき。
「ダメだ、起きない……」
俺の背中で、スヤスヤと安眠に入ったのだった。
「まったく……なんて『取り扱い注意』な側近だ……! こっちは初見の城内なんだぞ。
しかも迷宮エリアのど真ん中で、寝入りやがって。秘境ツアーで置き去りにされた気分だった……」
俺は寝室のドアを潜り、自分の目覚めたベットへと向かった。
ベットの端に軽く腰をかけ、背中で眠るデュヴェルコードを静かに下ろす。
「こうして見ると、ただの眠る女の子なのに……。側近のダークエルフか……」
ベットに寝かせたデュヴェルコードを前に、俺はひとり呟く。
少しズレた性格のように感じるが、この若さで魔王の側近を任されているとは、大したものだ。
きっと若さや見かけによらない、並外れた実力を秘めているのだろう。実際に俺も、間近で味わったし……。
俺は眠るデュヴェルコードを、ベットの中央に移動させるため、両腕を首筋と膝裏に回した。
その時。
「――んん……ロース様……。そんなところを触っては、いけません……」
「はぇっ! す、すまない!!
……………………えっ? 寝言か?」
俺は反射的に両腕を引っ込め、デュヴェルコードの顔に視線を移した。
しかし、瞼は閉じたままだった。
「――ロース様……。それはマナタイトではありません。オークの下唇ですよ……。
その子のファーストリップを、下だけ奪ったりしないで……んん…………」
いったい、どんな夢を見ているんだ。シチュエーションが不可思議すぎる……!
て言うか、ファーストリップってなんだよ。キスの類いか……?
謎しか生まれなかった寝言をよそに、俺はデュヴェルコードをベットの中央に移動させた。
「さて……。これからどうしよう。情報を収集しようにも、恐らく頼みの綱である側近は、しばらく起きないだろうし。
ひとりでこの世界の情報を得るのは、難儀だしな。魔王城の探索とかは…………止めておこう。
また彷徨う羽目になりそうだ」
俺は腕を組み、悩みながら寝室をグルグルと歩き回る。
「んーっ。部屋で、ひとりでやる事…………と言えば…………。
ダメだ、『お』から始まる4文字しか、考えが浮かばない。さすがに今やるべき事ではないな。紙もないし……」
悩むにつれ、無意識に歩くスピードが増していく。
「それにこんな場面でやっても、どうせデュヴェルコードが目を覚ます的な、お約束の展開になるだろうし。
見られでもしたら、魔王の威厳なんて保てないだろう。
そもそもこんなゴツい手と剛腕で、手先を器用に動かせるのか……? 途中で握りつぶしたりなんて事も……」
俺は悩みながら、落ち着きなく歩き続ける。
「さすがに、できないよな。『おりがみ』なんて無理だ……!
そもそも紙もないし、慣れないゴツい手を器用に動かせるかも不明だ。『魔王ともあろうお方が、寂しく静かにおりがみ!?』なんて、デュヴェルコードに言われるのがオチだろうし。
この世界の者が、おりがみを知っているかは分からないが……」
悩み疲れた俺は、デュヴェルコードの横たわるベットの端に、腰を下ろした。
すると……。
「んっ……? これって……!」
腰を下ろしたベットのすぐ側に、見覚えのある物が落ちていた。
この世界に転生して以来、ずっと忘れていた……あのカード。
俺は前屈みになり、片手を伸ばした。
「じゃじゃ馬女神からの授かりもの……。すっかり忘れていたよ」
――俺は転生トクテンで授かったカード、『オブテイン・キー』を広い上げた……!




