20話 大治療費4
爆裂パンチで失った右腕を治すため、俺は再び医療エリアに足を運んだ。
「ホスピタル……! どこへ向かわれていたかと思えば、あの薄気味の悪いヒーラーがいるエリアでしたか!」
俺とデュヴェルコードの背後から、コジルドは驚いた様子で発言してきた。
「そうだが、お前は今まで行き先も知らず、俺たちに着いて来ていたのか?」
「は、はい……。我はてっきり、歩かれる方向的に、教会エリアかと思いましてな」
「なぜ片腕をなくした私と、魔力を大量消費したデュヴェルコードのふたりで、あのポンコツ修道士の元へ行かなければならないのだ。
アイツに打ち明けて祈って、腕が再生するとでも思っているのか?」
俺が言い返すなり、コジルドはポリポリと頭を掻き始める。
「パーソナル……! 勝手な推察ですが、ロース様は白昼堂々と我を泣かせた事に罪悪感を抱かれ、告白に縋り罪の意識を解消したいのかと思っておりましたぞ」
このヴァンパイア、勝手に泣き出しておきながら、まるで被害者みたいな口振りだな……!
「なかなか過去を引き摺るヤツだな。本当に私が罪の意識を持っていれば、回りくどく教会エリアで懺悔などせず、面と向かってお前に謝るぞ。それが私だ」
俺が主体性を語るなり、コジルドはハッと表情を変え、胸に手を当て片膝を地面につけながら、体勢を屈ませた。
「魔王とは、なんと偉大な存在でありましょうか! 例え配下が相手であろうと、自らの非を認め謝罪なさるとは。我は今、絶大なる感銘を受けましたぞ!
そしてロース様の謝罪に、我のマインドは安らぎを感じております。我のモヤついた悪感情を晴らしてくださり、感謝を申し上げますぞ」
コジルドは顔を上げ、俺に尊敬するような眼差しを向けてきた。
「そ、そうなのか……?」
分からない……!
俺は今、コジルドに謝った事になっているのか? 罪の意識があれば堂々と謝ると言っただけで、まったく謝ったつもりはないんだが……!
「それより、早く医療エリアに入るぞ」
俺はこれ以上話がややこしくならないよう、隣に立つデュヴェルコードに視線を移した。
「はい、ロース様。無事に片腕が再生すると良いですね!」
「あ、あぁ……無事にな」
俺はデュヴェルコードに乗り気でない返事をするなり、医療エリア内に向け重たい1歩目を踏み出した。
ここのエリアボスであるマッドドクトールは、確かに腕は立つと思う。
しかし俺の気が重い原因は、彼女の中身だ。実際に対話した時、もの凄く気味の悪い印象を植え付けられた。
「頼むから、今回は穏便に終わってくれよ……」
俺はボソボソと呟きながら、医療エリア内へと入っていく。
あの不謹慎な医院名、『お薬じょーずにキマるかな?』と書かれた看板の下を潜りながら……。
そして俺の後ろを、デュヴェルコードとコジルドも遅れて着いてくる。
「相変わらずこのエリアは、小汚いでっ……テ、テキチッ!」
「フハハッ! まだクシャミの名残があるのか、小さき者よ! 貴様もパウダー共に翻弄されて、大変であるな!」
「テキチッ! 何をヘラヘラと、他人事のように言ってくるのですか! まさか先ほど外に出た際、またプラントパウダーを体に付着させて来たのですか、コジルドさん!?」
「さぁ知らぬな。貴様がクシャミをするという事は、それが誠なのかもな、このエンドレス生理現象エルフよ」
「変な呼び方をしないでください、この厄災容疑者! 近寄らないで、シッシッ!」
背後のふたりが言い争っている間に、俺たちは医療エリアの中央に辿り着いた。
すると。
「――ウヒッ、ヒヒヒ。あれあれ? ロース様ではありませんか、またいらっしゃったのですねー」
何処からともなく、マッドドクトールの不気味な笑い声が聞こえてきた。
そんな笑い声を聞きつけ、俺たちは同時にその場で足を止める。
『――ウヒッ、ロース様。先ほどとは打って変わったお姿ですね、ヒヒヒ。その腕、痛いですか? 大丈夫ですか?』
視界の外から聞こえてくるマッドドクトールの声に反応し、俺は隅の方へ視線を向ける。
「痛みは大丈夫だ。お前は相変わらずそうな口振りだが、ちゃんとエリア内の片付けは進んで…………何やってんだお前は……!」
視線を向けた先には、真っ白なシーツの掛かったベットが置いてあり、その横にマッドドクトールが物静かに立っていた。
なぜか両手に、チェーンソーのような器具を持って……。
「マッドドクトールよ。私は先ほど、お前にこのエリア内を『片付けろ』と言ったのだ。なのに何故そんな物騒な物を手にしている?
方を付けろなんて言った覚えはないぞ」
「ヒヒヒ、これはタダの解体欲求です。なんだかぁー、何でもいいから解体しないと、片付ける気になれなくて」
マッドドクトールの心境を聞くなり、俺の背中に悪寒が走った。
まさかコイツ、何でもいいの標的を俺たち3人の中から、選んだりしないよな……?
「不気味……いや、いっそ悍ましく思えてきた……」




