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20話 大治療費1





 窮地きゅうちに立たされた俺を助けるべく、駆けつけてくれたデュヴェルコード。

 しかし()()()大好きなこの子のお陰で、俺たちはより大変な窮地におちいってしまった。


「ロース様、申し訳ありません。ゴボッ! み、水がきたなくて泳げません」


「ゴボッ! た、助けに来たヤツが一緒になって溺れるなよ! ただの地獄絵図じゃないか!」


 俺は必死にもがきながら、数メートル離れたデュヴェルコードに怒声を放つ。

 このままでは、俺たちは助からない。何か方法を考えなければ……!


 苦しい最中さなかに、助かる手段を考えていた。


 そんな矢先に。


「はぇっ……? 今、足に何か……」


 俺は頭が真っ白になった。


 荒々しく水をいていた俺だったが、途端に動きをピタリと止める。

 水中で何かが、俺の足に触れた気がした。

 何だ、このゾッとする違和感は……!


 しかし体が沈み始めたため、俺は慌ててバチャバチャと水()きを再開させる。

 そして少しだけ周囲に目を配りながら、背後を見てみた。


 すると。


「………………ゴボッ! ぎゃあぁぁぁ! 怖いっ、目が合った怖い!」


「ゴボッ! い、いかがなさいましたロース様?」


 振り返った途端に俺と目を合わせてきた、物静かな巨大魚。

 水面から顔を出し、様子をうかがうようにジッとこちらを見つめてきていた。


「大きな()()がっ、ぎゃあぁぁぁ!」


 俺の脳内は、一気にドクターフィッシュのトラウマで満たされる。


「お、落ち着いてくださいっ、ゴボッ! 『大きな小魚』って、どんな魚ですか!」


「い、一難いちなん去ってまた一難かよ! ぎゃあぁぁぁ!」


「まだひとつも難は去っていませんよ、ゴボッ! いきなりキャラ崩壊を起こされて、いかがなさったのですか。あまり波を立てないで、ゴボッ!」


 俺は巨大魚を追っ払いたい一心で、力強く握り締めた両(こぶし)を水面に叩きつけていく。


「さ、最終手段だ! 一撃で全てを吹き飛ばしてやるっ、ゴボッ!」


「ま、まさか! ロース様っ、お待ちくだ、ゴボボッ! 確かにいざという時ですが、近くにわたくしを置いてっ……!」


 背後で何やらデュヴェルコードが騒いでいるが、俺は恐怖のあまり、構う事なく右腕を振り被り。


「――『エクスプロージョン・ハンマー』!!」


 右腕に爆裂ばくれつ魔法を宿し、巨大魚のいる前方に向け、爆裂パンチを打ち出した。


 ――ズドォォォーーーン!


 全てを破壊するほどの大爆発と共に、辺り一帯の林に爆音が響き渡る。


「うぐっ、腕が……!」


 俺は激しい腕の痛みにより正気を取り戻したが、爆裂パンチを放った代償に右腕を失った。

 同時に、スキル『プレンティ・オブ・ガッツ』の効果により、体力が残りわずかとなってしまった。


「少し……地形が変わったな」


 俺は爆裂パンチを打ち出した方向に視線を向け、ボソボソとひとり呟く。

 見ると前方の木々は黒()げになっており、先ほどまで俺たちが溺れていた池の汚水は、消失していた。

 言うまでもなく、俺を恐怖におとしいれた巨大魚の姿もなくなっていた。


 爆裂パンチの衝撃で汚水が飛沫しぶきとなり四散したのか、焦げた木々は濡れており、何とも言えない異臭をただよわせている。


「恐怖に駆られて、思わず打ち込んでしまったが。これでは丸っ切り、魔王の破壊工作じゃないか。イメージ悪くなりそうだな……!」


 俺は自分の取った行動に少しいを感じながら、汚水の消失した池底から歩いて平地へと向かった。


「ロース様、ご無事で何よりです。まさに、灰燼かいじんす一撃でしたね」


 平地まで登り詰めるなり、全身ずぶ濡れのデュヴェルコードが声をかけてきた。


「あぁ、無事と言えるか分からない状態だが……。お前もケガはない様子だな、デュヴェルコードよ」


「はい。お構いなしに爆裂パンチを打ち込む予感がしましたので、魔法を使って離脱りだつ致しました。必死こいたら、案外逃げ切れるものですね」


「………………爆裂パンチはすまなかった。だが助けに来たくせに、必死こいて魔王を置いて行くなよ」


 俺は少しあきれながら、失った右腕をかばうように、左手で右肩を押さえる。

 

「それよりロース様、最低限の回復だけでも、先に済ませておきましょう。片腕の代償を見る限り、きっとまた体力が残りわずかになっているはずですので」


 デュヴェルコードは俺に近寄り、可愛らしい笑顔を浮かべ、ソッと片手をかざしてきた。


「そうだな、すまないが治癒ちゆ魔法を頼む」


「かしこまりました、『ヒール』」


 デュヴェルコードの治癒魔法により、俺の体があわい光と魔法陣に包まれた。

 そして残りわずかな体力が、少しずつ回復していくのを感じる。


「はぁ、何にせよ助かったぞ。それにしても、よく私の居場所が分かったな」


「はい。ロース様がおひとりであられもなく飛んでいった後、正門前の広場に居合わせていたわたくしとレア姉、ついでにコジルドさんの3名で手分けして、ロース様の捜索に向かったのです」


 あられもなくとか言うなよ……!


「すると幸運にも、ロース様が最も信頼を置かれている側近のわたくしが、ここの近くを通りかかったと言うわけです。

 あとは馴染なじみのあるわめき声を頼りに、ここへ駆けつけました。エッヘンです!」


 デュヴェルコードは得意げに両手を腰に当て、この上ないドヤ顔を向けてきた。

 どこが幸運にもだ、さっきまで俺と一緒に溺れていたじゃないか、このロリエルフ……!


「馴染むほど普段からわめいたりしていないだろ、私は赤子か。

 あと今回の新技は、改良の余地しかないな。さすがに敵へ向けて岩を放つたびに、私まで一緒に吹っ飛んでいては、タダの笑い者になりねないからな」


「プフッ、そうですね。笑いをこらえ切れず申し訳ありません。ロース様が彼方かなたへ飛んでいくお姿が、あまりにも滑稽こっけいでしたので。抵抗(むな)しく地獄に連れて行かれる、あわれな猛獣もうじゅうのようでした。

 あそこまで豪快ごうかいに飛ばされたのなら、いっそ勢いのまま世界を1周して、魔王城へお戻りになれば良かったのに」


 まるで上手い冗談を言って退けた様子で、俺に笑いかけてくるデュヴェルコード。


 しかし今の例えは……!

 俺が飛ばされている間に、不思議といだいたあの疑問を、解消してくれる糸口になるかも知れない。

 そう、『元いた地球は丸かったが、今いる異世界も丸いのだろうか?』という、無駄に悩まされた疑問の答えを知る糸口に……!


「デュヴェルコードよ、少し聞いてもいいか。その言い方だと、つまりこの世界は丸いのか? 単純に世界を1周回れば、元の位置に戻れるのか?

 いや、深い意味などは無くてだな、単なる素朴そぼくな……」


「当たり前ですよ。世界は丸いかなんて、さすがに()()すぎるご質問では? まるで子供と会話しているようです」


 俺の言葉をさえぎり、即答してくれたデュヴェルコード。

 しかし先ほどまで楽しげに浮かべていた笑顔は消え、空っぽの瞳で俺を見つめてきた。


「す、すまん、ただの確認だ。しかし愚問ぐもんだったよな……。ふぅ、帰ろうか……」


「そうですね、帰りましょう。時間の無駄ですし」


 どうやら今の質問は、この子にとってくだらないを通り越していたらしい……。



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