表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/304

19話 飛石注意5





 教会エリアを後にした俺たち4人は、正門前広場に通じる大扉の前に到着していた。


「ふぅ……。何とか無事に着きましたね」


 ひとり軽く息を荒らしながら、ボソボソと呟くデュヴェルコード。

 この子の息が上がっているのも、無理はない。なぜなら……!


「どこが無事にだ、トラブルだらけだったじゃないか。その無駄に頑丈がんじょう()()のせいでな」


 俺はドアをノックするように、デュヴェルコードを包み込んでいる結晶の表面を、コンコンと叩いてみせる。


 デュヴェルコードの息が上がっている理由……。

 それはここに辿たどり着くまでの間、この子はかたくなに結晶のドームに入り続け、中から転がして歩いていたからだ。

 プラントパウダー対策とは言え、道中も結晶に包まれている必要があったのか……?


「これは仕方がありません、また()()()()()クシャミが再発してしまいますので。

 それに、あんなのトラブルの内に入りませんよ」


「十分トラブルと呼べる歩行……いやむしろ、身勝手な破壊行為だったぞ。

 ここへ来る途中、階段を下りながら制御せいぎょができず、猛スピードで転がり落ちていったり。ドームで通れない扉は、魔法で破壊しながら無理やり押し通ったり」


 俺が事例を上げていくたびに、デュヴェルコードの顔がゆっくりと反対側へ向いていく。


「まだあったぞ? そこら中の装飾物を、お構いなしに倒したり。城内のき掃除をしていたコボルトを、下敷きにしながらき逃げしたり……!

 お前は通過したところ全てを壊して進む、破壊狂はかいきょうか!」


 下敷きにされたコボルトに関しては、ドームの表面に張り付き、3回転ほど連れ回されていたし。

 まるで降りるタイミングを見失った、観覧車のようだった……!


「それは……扉も階段もコボルトも、突然わたくしの前に飛び出して来たからです。仕方がありません……」


 俺から顔をそむけながら、ボソボソと無茶苦茶な言い訳をしてくるデュヴェルコード。


「………………何だそのトチ狂った理屈りくつは。単に回転する結晶の表面が、お前の視界を悪くしただけだろ。事が済んだら、後でちゃんと直しておけよ」


「は、はい……のちほど修復致します」


 デュヴェルコードは結晶に入ったまま、力なく肩を落とした。

 まるでガチャのカプセルに入った、()()()()少女ストラップみたいだ……!


「フハハッ! 落ちこぼれ少女よ、そう気に病むでない。

 ロース様、気を取り直して、早く外へ行くとしましょうぞ!」


「そこは落ちこぼれではなく、()()()()()少女だと思うが……まぁいい、行くとしよう」


 コジルドは先陣を切り、張り切って大扉を全開させた。そしてどこから持って来たのか、適当な木の棒を取り出し、マントに固定しながらお決まりのサンシェードを自作し始める。

 出たよ、コジルドのUV対策。相変わらず情けない格好だな……!


「フハハッ! 整いし、我のフィールド! お待たせしましたロース様。我と共に、新しい闇を遊びましょうぞ」


 コジルドはサンシェードを構えながら、ひとり上機嫌に大扉をくぐっていく。

 そんな足取りの軽いコジルドの跡を追うように、俺たちは全員で正門前の広場へと歩いて向かった。


 そして、広場の中央に差し掛かったところで。


「ベスポジ……! この辺で良かろう」


 先頭を歩いていたコジルドが足を止め、俺たちの方へ振り返って来た。


「ではロース様! 今から我が、ロース様の新技を説明致しますぞ!」


「言っておくが、魔法のたぐいはなしだからな。そこら辺を考慮こうりょした上で頼むぞ」


「勿論ですぞ! ではまず、必要なアイテムの調達から。今この場に、適した代用品がないゆえ……。

 仕方ない、魔法で生成するしかありませんな!」


「おいっ、私の話を聞いていたのか? 魔法はなしと言ったばかりだろ、さっそくみじゃないか」


「そうですよコジルドさん。わたくしたちならかく、生成系魔法()()()使えないロース様にとって、不可能な準備です。

 練習で出来ない事は、本番でも出来るわけがありませんよね? コジルドさんは本当にロース様の事を思って、本気で新技を考えたのですか?」


 俺をかばうように、真剣な眼差しでコジルドに意を唱えるデュヴェルコード。


「なぁ、デュヴェルコードよ。私の肩を持ってくれるのは嬉しいが……!

 せめて『ですら』は付けないでくれ。小者こもの扱いされている気分になる」


「し、失礼致しました! プラントシンドロームのせいで、頭が上手く回らないもので、失言をしてしまいました……」


 デュヴェルコードは俺に向け、瞬時に頭を下げてきた。

 都合よくプラントシンドロームのせいにするなよ、お前は普段から失言まみれだろ……!


「そのドームに入っている意味が、分からなくなる言い訳だが……まぁ良い。

 デュヴェルコードよ、今の失言を水に流す代わりに、お前の魔法でコジルドの指定するアイテムを、準備してくれないか?

 始めから無理と決めつけるより、まずはどんな形でも試してみる事が重要だからな。新たな進化に、トライアンドエラーは欠かせないという事だ」


「はいっ、お任せください! 考えてみると、いつだってロース様のおそばには、側近であるわたくしがひかえておりますし!

 戦闘中でも、コンビネーションで実現できる新技かも知れませんね!」


「そうだな、では準備に取り掛かろう。コジルドよ、いったい何が必要なのだ?」


 俺は気持ちを切り替え、コジルドに必要なアイテムを教えるよう指示した。


「必要なアイテムはふたつ……大きな岩と長いくさりですぞ!

 側近小娘よ、このふたつのアイテムを、急ぎ生成せい!」


 コジルドはデュヴェルコードを指名するように、ビッと指を差した。


「セイセイセイセイ、うるさいですね。そんなの一瞬で出せますよ!

 いきます、『トゥレメンダス・シールドウォール』! そして、『クリエイトオブジェクト』!」


 デュヴェルコードが魔法を詠唱した途端。


 ――ゴゴゴゴゴゴッ……!


 地面から、ゴツゴツとした分厚い岩の壁が生え始め、数メートルの高さまでそびえ立った。


 そして。


 ――ジャラジャラジャラジャラ……!


 いつの間にか空に魔法陣が描かれており、そこから目では計り知れない程の長さをしたくさりが……。

 金属音を立てながら、デュヴェルコードを包んだ結晶の上に落ちて来た。


 これ……もしも結晶のドームがなかったら、惨事さんじになってたんじゃ……!


「フハハッ! つどいし役者共、これで揃いましたな。岩、鎖、そして魔王……何の変哲へんてつもない役者でも、このコラボが実現する時、数多あまたの強者共が恐れを成す技となり得るでしょう!

 そう、あの人族の切り札である、勇者でさえも……!」


 コジルドは岩と鎖、そして俺を交互に見回しながら、高らかに笑い声を上げる。

 かなり強そうな技の説明に聞こえるが……。


 その言い方だと、岩と鎖のついでに、俺まで変哲のない扱いになるだろ……!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ