19話 飛石注意5
教会エリアを後にした俺たち4人は、正門前広場に通じる大扉の前に到着していた。
「ふぅ……。何とか無事に着きましたね」
ひとり軽く息を荒らしながら、ボソボソと呟くデュヴェルコード。
この子の息が上がっているのも、無理はない。なぜなら……!
「どこが無事にだ、トラブルだらけだったじゃないか。その無駄に頑丈な大玉のせいでな」
俺はドアをノックするように、デュヴェルコードを包み込んでいる結晶の表面を、コンコンと叩いてみせる。
デュヴェルコードの息が上がっている理由……。
それはここに辿り着くまでの間、この子は頑なに結晶のドームに入り続け、中から転がして歩いていたからだ。
プラントパウダー対策とは言え、道中も結晶に包まれている必要があったのか……?
「これは仕方がありません、またややこしいクシャミが再発してしまいますので。
それに、あんなのトラブルの内に入りませんよ」
「十分トラブルと呼べる歩行……いやむしろ、身勝手な破壊行為だったぞ。
ここへ来る途中、階段を下りながら制御ができず、猛スピードで転がり落ちていったり。ドームで通れない扉は、魔法で破壊しながら無理やり押し通ったり」
俺が事例を上げていく度に、デュヴェルコードの顔がゆっくりと反対側へ向いていく。
「まだあったぞ? そこら中の装飾物を、お構いなしに倒したり。城内の掃き掃除をしていたコボルトを、下敷きにしながら轢き逃げしたり……!
お前は通過したところ全てを壊して進む、破壊狂か!」
下敷きにされたコボルトに関しては、ドームの表面に張り付き、3回転ほど連れ回されていたし。
まるで降りるタイミングを見失った、観覧車のようだった……!
「それは……扉も階段もコボルトも、突然わたくしの前に飛び出して来たからです。仕方がありません……」
俺から顔を背けながら、ボソボソと無茶苦茶な言い訳をしてくるデュヴェルコード。
「………………何だそのトチ狂った理屈は。単に回転する結晶の表面が、お前の視界を悪くしただけだろ。事が済んだら、後でちゃんと直しておけよ」
「は、はい……後ほど修復致します」
デュヴェルコードは結晶に入ったまま、力なく肩を落とした。
まるでガチャのカプセルに入った、ハズレの少女ストラップみたいだ……!
「フハハッ! 落ちこぼれ少女よ、そう気に病むでない。
ロース様、気を取り直して、早く外へ行くとしましょうぞ!」
「そこは落ちこぼれではなく、落ち込んだ少女だと思うが……まぁいい、行くとしよう」
コジルドは先陣を切り、張り切って大扉を全開させた。そしてどこから持って来たのか、適当な木の棒を取り出し、マントに固定しながらお決まりのサンシェードを自作し始める。
出たよ、コジルドのUV対策。相変わらず情けない格好だな……!
「フハハッ! 整いし、我のフィールド! お待たせしましたロース様。我と共に、新しい闇を遊びましょうぞ」
コジルドはサンシェードを構えながら、ひとり上機嫌に大扉を潜っていく。
そんな足取りの軽いコジルドの跡を追うように、俺たちは全員で正門前の広場へと歩いて向かった。
そして、広場の中央に差し掛かったところで。
「ベスポジ……! この辺で良かろう」
先頭を歩いていたコジルドが足を止め、俺たちの方へ振り返って来た。
「ではロース様! 今から我が、ロース様の新技を説明致しますぞ!」
「言っておくが、魔法の類いはなしだからな。そこら辺を考慮した上で頼むぞ」
「勿論ですぞ! ではまず、必要なアイテムの調達から。今この場に、適した代用品がない故……。
仕方ない、魔法で生成するしかありませんな!」
「おいっ、私の話を聞いていたのか? 魔法はなしと言ったばかりだろ、さっそく詰みじゃないか」
「そうですよコジルドさん。わたくしたちなら兎も角、生成系魔法ですら使えないロース様にとって、不可能な準備です。
練習で出来ない事は、本番でも出来るわけがありませんよね? コジルドさんは本当にロース様の事を思って、本気で新技を考えたのですか?」
俺を庇うように、真剣な眼差しでコジルドに意を唱えるデュヴェルコード。
「なぁ、デュヴェルコードよ。私の肩を持ってくれるのは嬉しいが……!
せめて『ですら』は付けないでくれ。小者扱いされている気分になる」
「し、失礼致しました! プラントシンドロームのせいで、頭が上手く回らないもので、失言をしてしまいました……」
デュヴェルコードは俺に向け、瞬時に頭を下げてきた。
都合よくプラントシンドロームのせいにするなよ、お前は普段から失言まみれだろ……!
「そのドームに入っている意味が、分からなくなる言い訳だが……まぁ良い。
デュヴェルコードよ、今の失言を水に流す代わりに、お前の魔法でコジルドの指定するアイテムを、準備してくれないか?
始めから無理と決めつけるより、まずはどんな形でも試してみる事が重要だからな。新たな進化に、トライアンドエラーは欠かせないという事だ」
「はいっ、お任せください! 考えてみると、いつだってロース様のお側には、側近であるわたくしが控えておりますし!
戦闘中でも、コンビネーションで実現できる新技かも知れませんね!」
「そうだな、では準備に取り掛かろう。コジルドよ、いったい何が必要なのだ?」
俺は気持ちを切り替え、コジルドに必要なアイテムを教えるよう指示した。
「必要なアイテムはふたつ……大きな岩と長い鎖ですぞ!
側近小娘よ、このふたつのアイテムを、急ぎ生成せい!」
コジルドはデュヴェルコードを指名するように、ビッと指を差した。
「セイセイセイセイ、うるさいですね。そんなの一瞬で出せますよ!
いきます、『トゥレメンダス・シールドウォール』! そして、『クリエイトオブジェクト』!」
デュヴェルコードが魔法を詠唱した途端。
――ゴゴゴゴゴゴッ……!
地面から、ゴツゴツとした分厚い岩の壁が生え始め、数メートルの高さまで聳え立った。
そして。
――ジャラジャラジャラジャラ……!
いつの間にか空に魔法陣が描かれており、そこから目では計り知れない程の長さをした鎖が……。
金属音を立てながら、デュヴェルコードを包んだ結晶の上に落ちて来た。
これ……もしも結晶のドームがなかったら、惨事になってたんじゃ……!
「フハハッ! 集いし役者共、これで揃いましたな。岩、鎖、そして魔王……何の変哲もない役者でも、このコラボが実現する時、数多の強者共が恐れを成す技となり得るでしょう!
そう、あの人族の切り札である、勇者でさえも……!」
コジルドは岩と鎖、そして俺を交互に見回しながら、高らかに笑い声を上げる。
かなり強そうな技の説明に聞こえるが……。
その言い方だと、岩と鎖のついでに、俺まで変哲のない扱いになるだろ……!