19話 飛石注意3
重傷を負ったにも関わらず、突然俺の新技を閃いたと伝えて来たコジルド。
「さぁロース様! 我の閃いた新技を、早速伝授いたしますぞ! 我のインスピは今、過去最高潮を迎えたようです!」
「それはいいが、その大怪我は大丈夫なのか? よくそんなダメージを負いながら、他人の新技なんて思いつくな」
「フハハッ! これしき、イデデッ……。激痛が全身を駆け巡るだけで、特に何ともないですぞ」
「………………それを大怪我と言うんだよ。現に痛がっているじゃないか」
「今の衝動からすれば、こんなのかすり傷程度ですぞ。それに我のマントが無事であれば、それで良いのです」
コジルドは片手でマントを広げ、俺に見せて来た。
「エクセレント……! ご覧くだされロース様。我の大切なマントは、無傷ですぞ」
片手でヒラヒラと揺らしながら、傷ひとつないマントを見せびらかすコジルド。
「まさかお前、身を挺してまでマントを守ったのか? 勢い余る吹っ飛びの最中で、自分を犠牲にしてまで」
「このマントは、他ならぬ我のアイデンティティですからな! 衝突の直前に『オートエイム』を発動させ、壁との距離を見計らい、背中から激突しないようコントロールしたのです」
猫かよ、コイツ……!
「き、器用だな。『オートエイム』という特殊スキルの使い方が、間違っている気もするが」
「『オートエイム』は単なる照準。タネを明かしますと、不可視化の魔法で隠してある、我の禍々しき翼でバランスを取り、背中からの衝突を回避したという訳ですぞ」
不可視化させた翼って、まさか以前俺だけに見せてきた、あのキャラに似合わない翼の事だろうか?
そう言えば、コジルドにそんな秘密もあったな。
翼と言うより、見た者全てを穏やかな気持ちにしてしまいそうな、神秘的で美しい巨大な羽だったが……!
もしもこの先、俺が苦悩するような事があれば、コジルドに羽を見せてもらい、心を癒してもらおう。
こんなポンコツ修道士のいる教会エリアで啓示を求めるより、ずっといい気がする……!
「それよりロース様! 早くロース様のとっておきとなり得る、新技を習得しに行きましょうぞ!
我の悪しき右腕が、疼いて仕方ありません!」
震える右腕を押さえながら、いつもの厨二風なテンションで誘ってくるコジルド。
「その腕の疼きは、ただの怪我だろ。少しなら付き合ってやるが、ちゃんと治癒もしておけよ」
「慈悲深き労い、感謝ですな。では、正門前広場に参りましょう。新技を繰り出すには、広いスペースが必要ですので」
また正門前か。なぜ晴れている日に限って、コイツは進んで外へ出たがるんだ?
日光が弱点である、ヴァンパイアのくせに……!
俺は誘われるがまま、コジルドと正門前広場に向かうため、教会エリアの出入り口へと歩き始める。
しかし、少し歩いたところで。
「ロース様。その厄災ひとりボッチを連れて、どちらへ向かわれるおつもりかしら?」
レアコードは身廊のど真ん中に立ち、俺たちの歩く道筋を遮った。
そんなレアコードを前に、俺とコジルドは同時に足を止める。
まるで、近づくとイベントが発生する、道端の待ち伏せキャラみたいだ……。
「なんたる物言いであるか、この勘違い美女め!
ロース様が我を従わせているのではない! 我が誘ったのだから、我がロース様を従えているのだ!」
コジルドは蹌踉めきながらも、主導権をアピールするように、俺の前へ移動してきた。
その物言いもどうかと思うぞ、コジルド……!
「あんたに聞いていないわよ、このド悪党好きヴァンパイア」
「口の減らないヤツめ。まぁどちらにせよ、今さら貴様に何かを教える義理などないがな。
我の恋心を破滅させた貴様など、もはや赤の他人だ!」
「始めから真っ赤な他人ですけど。そもそもあんたにとって、この世界には他人しかいないと思うけど。………………深い意味なんてないから、気にしないで。ただの独り言よ」
遠回しに、コジルドには親しいヤツがいないと言いたいのだろうか?
だとすれば、なんて皮肉な独り言だ……!
「や、喧しいわ! どうせ我らの行き先が気になった挙句に発動した、子供染みた強がりであろうに!
フハハッ! そんなに行き先が知りたくば、もう1度我に恋心でも抱かせてみるのだな!」
コジルドはレアコードをおちょくるように、嫌らしく笑いながら片目の下瞼を指で下ろした。
どう見ても、子供染みてんのはお前の方だろ……!
しかしレアコードは動じる様子もなく、ゆっくりとコジルドの背後に回り込んだ。
「そう、なら勝手に着いて行くわ」
「………………貴様、ツンデレか? ちょっと狙ったのか?」
「どこがデレよ。それに、あたくしがデレる必要あるの? あんたに好かれたところで、得なんてないのに」
「まぁ……そうであるな。着いて来ても構わないが、遅れるでないぞ」
コジルドはコキコキと首を鳴らすなり、軽くマントを靡かせながら、出入り口へと再び歩き出した。
潔いほど、自分の得なしを認めたな……!
「おいレアコード。お前が着いて来ると知った途端、少し張り切り始めたぞ、あの構ってちゃん……」
「そのようですわね。少しキメた気な背中が、見ていて鼻につきますけど。
しかしバカって、本当に扱い易いですわね、ロース様。ねっ?」
「『ねっ?』って……お前、それはどういう意味の『ねっ?』だ。同意を求めているトーンに聞こえなかったぞ。
まさか散々脳筋呼ばわりされている私の事も、扱い易いと言いたいのか?」
「フフッ、ご想像にお任せしますわ」
レアコードは今まで見た事もない、最高の笑顔を向けて来た。
こんな時に、そんな眩しい笑顔を向けるなよ。皮肉にしか思えなくなるだろ……!
俺とレアコードはコジルドの跡を追うように、足並みを揃えて歩き始める。
そして暫くすると、前を歩くコジルドが、先に出入り口を通過した。
次の瞬間。
「――『ホーリー・レイン』!」
「ぎぃやぁぁーーー! どうして我ばっかりぃー!」
視界を狂わされる程の眩しい光の豪雨が、コジルドの頭上に降り注いだ……!




