表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/304

19話 飛石注意3





 重傷を負ったにも関わらず、突然俺の新技をひらめいたと伝えて来たコジルド。


「さぁロース様! 我の閃いた新技を、早速伝授(でんじゅ)いたしますぞ! 我のインスピは今、過去最高潮を迎えたようです!」


「それはいいが、その大怪我は大丈夫なのか? よくそんなダメージを負いながら、他人ひとの新技なんて思いつくな」


「フハハッ! これしき、イデデッ……。激痛が全身を駆け巡るだけで、特に何ともないですぞ」


「………………それを大怪我と言うんだよ。現に痛がっているじゃないか」


「今の衝動からすれば、こんなのかすりきず程度ですぞ。それに我のマントが無事であれば、それで良いのです」


 コジルドは片手でマントを広げ、俺に見せて来た。


「エクセレント……! ご覧くだされロース様。我の大切なマントは、無傷ですぞ」


 片手でヒラヒラと揺らしながら、傷ひとつないマントを見せびらかすコジルド。


「まさかお前、身をていしてまでマントを守ったのか? 勢いあまる吹っ飛びの最中さなかで、自分を犠牲にしてまで」


「このマントは、他ならぬ我のアイデンティティですからな! 衝突の直前に『オートエイム』を発動させ、壁との距離を見計らい、背中から激突しないようコントロールしたのです」


 猫かよ、コイツ……!


「き、器用だな。『オートエイム』という特殊スキルの使い方が、間違っている気もするが」


「『オートエイム』は単なる照準しょうじゅん。タネを明かしますと、不可視化の魔法で隠してある、我の禍々(まがまが)しき翼でバランスを取り、背中からの衝突を回避かいひしたという訳ですぞ」


 不可視化させた翼って、まさか以前俺だけに見せてきた、あのキャラに似合わない翼の事だろうか?

 そう言えば、コジルドにそんな秘密もあったな。

 翼と言うより、見たもの全てを穏やかな気持ちにしてしまいそうな、神秘的で美しい巨大な()だったが……!


 もしもこの先、俺が苦悩するような事があれば、コジルドに()を見せてもらい、心をいやしてもらおう。

 こんなポンコツ修道士のいる教会エリアで啓示を求めるより、ずっといい気がする……!


「それよりロース様! 早くロース様のとっておきとなり得る、新技を習得しに行きましょうぞ!

 我のしき右腕が、うずいて仕方ありません!」


 震える右腕を押さえながら、いつもの厨二風なテンションで誘ってくるコジルド。


「その腕のうずきは、ただの怪我だろ。少しなら付き合ってやるが、ちゃんと治癒ちゆもしておけよ」


慈悲じひ深きねぎらい、感謝ですな。では、正門前広場に参りましょう。新技を繰り出すには、広いスペースが必要ですので」


 また正門前か。なぜ晴れている日に限って、コイツは進んで外へ出たがるんだ?

 日光が弱点である、ヴァンパイアのくせに……!


 俺は誘われるがまま、コジルドと正門前広場に向かうため、教会エリアの出入り口へと歩き始める。


 しかし、少し歩いたところで。


「ロース様。その厄災やくさいひとりボッチを連れて、どちらへ向かわれるおつもりかしら?」


 レアコードは身廊しんろうのど真ん中に立ち、俺たちの歩く道筋みちすじさえぎった。

 そんなレアコードを前に、俺とコジルドは同時に足を止める。

 まるで、近づくとイベントが発生する、道端の待ち伏せキャラみたいだ……。


「なんたる物言いであるか、この勘違い美女め!

 ロース様が我をしたがわせているのではない! 我が誘ったのだから、我がロース様を従えているのだ!」


 コジルドは蹌踉よろめきながらも、主導権をアピールするように、俺の前へ移動してきた。

 その物言いもどうかと思うぞ、コジルド……!


「あんたに聞いていないわよ、この()()()()()ヴァンパイア」


「口の減らないヤツめ。まぁどちらにせよ、今さら貴様に何かを教える義理などないがな。

 我の恋心を破滅させた貴様など、もはや赤の他人だ!」


「始めから()()()()他人ですけど。そもそもあんたにとって、この世界には他人しかいないと思うけど。………………深い意味なんてないから、気にしないで。ただの独り言よ」


 遠回しに、コジルドには親しいヤツがいないと言いたいのだろうか?

 だとすれば、なんて皮肉な独り言だ……!


「や、やかましいわ! どうせ我らの行き先が気になった挙句に発動した、子供()みた強がりであろうに!

 フハハッ! そんなに行き先が知りたくば、もう1度我に恋心でもいだかせてみるのだな!」


 コジルドはレアコードをおちょくるように、嫌らしく笑いながら片目の下瞼したまぶたを指で下ろした。

 どう見ても、子供染みてんのはお前の方だろ……!


 しかしレアコードは動じる様子もなく、ゆっくりとコジルドの背後に回り込んだ。


「そう、なら勝手に着いて行くわ」


「………………貴様、ツンデレか? ちょっと狙ったのか?」


「どこがデレよ。それに、あたくしがデレる必要あるの? あんたに好かれたところで、得なんてないのに」


「まぁ……そうであるな。着いて来ても構わないが、遅れるでないぞ」


 コジルドはコキコキと首を鳴らすなり、軽くマントをなびかせながら、出入り口へと再び歩き出した。

 いさぎよいほど、自分の得なしを認めたな……!


「おいレアコード。お前が着いて来ると知った途端、少し張り切り始めたぞ、あの構ってちゃん……」


「そのようですわね。少しキメたな背中が、見ていて鼻につきますけど。

 しかしバカって、本当にあつかやすいですわね、ロース様。ねっ?」


「『ねっ?』って……お前、それはどういう意味の『ねっ?』だ。同意を求めているトーンに聞こえなかったぞ。

 まさか散々(さんざん)脳筋呼ばわりされている私の事も、扱い易いと言いたいのか?」


「フフッ、ご想像にお任せしますわ」


 レアコードは今まで見た事もない、最高の笑顔を向けて来た。

 こんな時に、そんな眩しい笑顔を向けるなよ。皮肉にしか思えなくなるだろ……!


 俺とレアコードはコジルドの跡を追うように、足並みをそろえて歩き始める。

 そしてしばらくすると、前を歩くコジルドが、先に出入り口を通過した。


 次の瞬間。


 

「――『ホーリー・レイン』!」


「ぎぃやぁぁーーー! どうして我ばっかりぃー!」


 視界をくるわされる程のまぶしい光の豪雨が、コジルドの頭上に降り注いだ……!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ