18話 行列教会9
コジルドが思いを叫んだ途端、入り口に姿を現したデュヴェルコードとレアコード。
「レアコード、なんてタイミングだ……!」
レアコードはコッコッとヒールの足音を立て、姉妹で足並みを揃えながら、身廊を歩きこちらに向かってくる。
「ロース様、我が放った先の叫声は……。思い人である、あの冷徹ダークエルフに聞こえていたであろうか?
恐ろしくタイムリーな登場であったが……」
目を点にして、レアコードを見つめながら固まるコジルド。
デートプランだの、ダブルデートだのと浮ついていた、先ほどまでの勢いはどこへ行った。
本人を目の前にして、土壇場でヒヨったか?
「聞こえたも何も、むしろ筒抜けだったと思うぞ。ダークエルフとは、凄まじく耳がいいらしいからな」
「フハ、フハハッ……カオスな耳だな、まったく……」
俺が予想を伝えるなり、コジルドは目を泳がせ、引き攣った笑顔を浮かべた。
「何だか、見て居られなくなる」
挙動不審なコジルドを目の当たりにした俺は、側にいるキヨラカにソッと顔を向けた。
「おいキヨラカよ、啓示でも何でもいい、コジルドに何かアドバイスしてやれ。さすがに見るに堪えないぞ」
「えっ、私がですか?」
俺がコソコソっと助言するなり、キヨラカは自身に指を差し、驚いた様子で目を見開いた。
「お前がコジルドの背中を押したのだろ、最後まで押してやれ。それにどう見ても、今のコイツが1番の迷える子羊じゃないか。見てみろ、この泳ぎ切った目を」
「お、おしゃる通り……『オートエイム』のスキル持ちが、焦点の定まりを欠いた目つきをしていますね。まるで私の乱れた心のように。
分かりました。この恋に悩めるヴァンパイアに、啓示を授けましょう」
キヨラカは穏やかな表情に戻り、コジルドに体勢を向けた。
私の乱れた心って、修道士が口にしたら絶対アウトなセリフだろ……!
「コジルドさん。汝の恋が実るよう、心から願い、祈り、そして行動を示しなさい」
「い、祈りであると?」
コジルドは目を泳がせたまま、ゆっくりとキヨラカに顔を向ける。
「そうです、主はおっしゃっています。そこに愛があるのなら、汝の『好き』を貫き、その身を焦がすような熱い恋をしなさい、と……!
例え相手が、異種族のダークエルフでも、汝と到底釣り合わない高嶺の花であっても、はたまた汝に全く興味のないドライな美魔女だとしても、と……!
そして力強く唱えなさい。『好き』とは、どんな魔法の詠唱にも勝る、特別な魔法の言葉なのです」
キヨラカは言い終わると共に、ゴブリンたちにも送った柔らかな笑顔を浮かべ、煌びやかに顔を発光させた。
美魔女の使い方が、少々おかしい気がしたんだが……!
「何だか後半、我に脈なしのような言い回しをされたが……。この際、細かい事はよかろう! フハハッ!
貴様は我のキューピットだな! 成功した暁には、貴様の望む報酬をくれてやる!」
弱気になっていたコジルドの態度が急変し、天井に向け高らかな笑い声を上げた。
「さぁ、殻を破り邁進するのです、孤独なヴァンパイアよ! そしてあの麗しいダークエルフと、これからの運命を共にしなさい! 略してウントモ!」
キヨラカがゴーサインを出すと共に、コジルドはマントを靡かせながら、レアコードへと近づき始めた。
コイツら、ダメだ……。このポンコツ修道士も、その修道士の勢いに乗せられるヴァンパイアも、シンプルにダメなヤツだ……!
「フハハッ! 足を止めろ、美貌に満ちた絶美ダークエルフよ!」
コジルドが身廊上で足を止めるなり、レアコードも少し遅れてその場に立ち止まった。
そして、数歩ほど離れた距離を保ちながら……。
「何よ、コジったヴァンパイア。あたくしに何か文句でもあるのかしら?」
レアコードはゆっくりと胸の前で両腕を組み、コジルドに下目遣いの睨みを利かせた。
「アクセス……! 貴様はいつも、我に嫌悪の雰囲気から踏み入るな。そう警戒せずとも、貴様を邪険に扱ったりなどしない」
「………………デュヴェル。このひとりボッチから離れてて、巻き添えを食わないように。失言した時点で、何を考えているか分からないコイツを消すから」
レアコードは背後で待機していたデュヴェルコードに顔を向け、優しい口調で指示を出した。
「お、お願いしますレア姉……いいえ、先生! 少しでも妙な言動があれば、構わずこの害虫を駆除してください!」
デュヴェルコードは足早に、入り口へと引き返す。そしてドアの枠から顔だけを覗かせながら、警戒するように体を隠した。
先ほどデュヴェルコードが教会エリアから出て行った際、害虫駆除の先生を連れてくると言い残していたが……レアコードの事だったのか。
確かに情け容赦なく駆除しそうだ……!
「イレギュラー……! いやしかし、これは願ってもいない好機。これで貴様と1体1で、堂々と話せる!」
「いいから、さっさと言いなさいよ」
「我は、我は……貴様を前にすると、胸がドキつく。今も例外ではない、むしろ今が過去一のドキつきだ!
この精神異常の正体に、先ほど気づいた。それを貴様にハッキリと告げてやる……」
コジルドはゴクリと固唾を飲む様子を見せ、震える拳を強く握り締めた……。
そして。
「レアコード! 我は貴様が『女子き』だっ!!」
聞いた事もない単語を、教会エリアに響かせた。
ハッキリ告げると豪語したはずのコジルドから、思わぬ単語が飛び出したせいで。
「「………………はっ?」」
俺とキヨラカは目を点にして、お互いに顔を向け合った。
「今のは何だ、『女子き』って?」
「恐らくですが……土壇場でヒヨったのでしょう。そして誤魔化すように、『好き』を『女子き』と……」
なんて、なんて可哀想なヴァンパイアなんだ、コジルドよ……。
だが、レアコードを見ると。
「――フフッ。ねぇ、どれくらい好きなのかしら、あたくしの事」
こちらも予想外。
レアコードは食いつき気味に、コジルドへ不適な笑みを向けていた。
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