18話 行列教会8
キヨラカの肩に腕を回し、ヒソヒソと精神支配を与える者の正体を明かしたコジルド。
「最終エリアボスの3大グランドスラムって……コジルドよ、まさかレアコードの事か!?」
側で様子を見ていただけの俺だったが、思わぬカミングアウトに驚きを隠せなかった。
「なっ! ロース様、聞こえていたのですか! ダークエルフに匹敵するほどの、地獄耳ですな」
俯き気味に内緒話をしていたコジルドだったが、俺が反応を示すなりバッとこちらに顔を向けてきた。
「そりゃあ、こんな間近で見ていれば、嫌でも耳に入るだろ」
「仕方ありませぬな。こうなればロース様もご一緒に、我のドキつく精神支配の真相について、熱く語らいましょうぞ!」
「待て待て、図々しいヤツだな。お前はキヨラカに啓示を求めに来たのだろ。私まで巻き込むな」
「フィーリング……! ここまで聞かれたのです、少しくらいお付き合いを。『旅は道連れ世は情け』と言うではありませぬか。どうか、この通りですぞ」
コジルドは軽く頭を下げ、ついでにキヨラカの後頭部に手を当てなが、無理やりな様子で一緒に頭を下げさせた。
この通りって、キヨラカのお辞儀は必要ないだろ。早速キヨラカを、道連れにしやがった。
て言うかこの世界にも、そんなことわざが存在していたのか……!
「キヨラカよ、啓示はお前に託したぞ……! 私は側で見守っているから、ふたりでドキドキの正体を暴く旅にでも出てくれ」
俺が協力を渋るなり、キヨラカはコジルドの手を振り払い、勢い良く顔を上げた。
「ロース様、私を見捨てるおつもりですか? 主はおっしゃっています。この迷えるヴァンパイアと、ドキドキ旅になど出るなと。さっさと真相を突きつけて、お帰り願えと!」
「おい貴様っ、何がドキドキ旅だ! 勝手に我の発した言葉を、チャラけたワードで紐付けするでない!
他人事だと思って軽んじりやがって、万死に値するぞ!」
コジルドは再びキヨラカの肩に腕を回し、顔を近距離まで寄せ、怒声を発した。
勝手に紐付けしたのは、キヨラカではなく俺なんだが……。
「し、主はおっしゃっています! 汝の受けるドキドキとは、ただの恋愛感情ではないかと!」
キヨラカが慌てて推察を伝えた途端、コジルドは口を閉ざし、忽ち沈静化した。
「………………話せ、詳しく」
「いや、そのまんまですが……。レアコードさんを前にしてドキドキするのは、単に恋愛感情が昂っているだけかと。男性魔族を虜にする御方ですので」
「我が……恋だと? 俄かには信じ難い」
キヨラカの肩に回した腕を解き、自身の胸元を片手で押さえながら、後退りを始めたコジルド。
信じ難いって、100パーそうだろ……!
そう言えばコジルドのヤツ、レアコードにイジられて言い返す時、罵倒の中に褒め言葉も織り交ぜていたな。『可愛い顔した愚か者』とか、『美貌に溢れた貴様』とか……!
「フ、フハハッ……! 我にとってあの冷徹魔女が、特殊な相手だと……?」
「コジルドさん、特殊なのは汝です。それを言うなら『特別な』ですよ。しかし汝の気持ちも分かります、恋心をくすぐられる、特別な感情」
「貴様に、邪教徒如きに……我の気持ちが分かるだと?」
「分かります、邪教徒ではなく悪魔修道士ですから。私的にはロース様の側近を務める妹推しなのですが、姉であるレアコードさんも捨て難い。
確かにあの御方は女神ですね、美し過ぎる。計り知れない顔面偏差値に加え、あのやんちゃなバストに、けしからんボディライン。まさに美を司る神と崇められし存在。
汝の恋心がくすぐられるのも、当然の摂理だと思います」
キヨラカは祈るように両手を軽く握り、目を閉じ天井に顔を向けた。
コイツ、何を崇め奉ってんだ? 神レベルで可愛いだけで、レアコードは神ではないぞ……!
「シェア……! 貴様、何と話の分かる修道士だ。我は貴様を見直したぞ!
貴様の言う通り、我は恋を抱いたのかもしれぬ! 『エロかっこ可愛い』とは、まさにあのダークエルフに相応しき称号! 我はそれを前にすると、ドキつきが止まらぬぞ!」
「汝の素直な心が恋と説くのなら、それはもう紛れもなくガチ恋。汝の統べる棺エリアで、軽くデートでもしてみてはっ?」
キヨラカは背中を押すように、コジルドにウインクを飛ばした。
誰が楽しいんだよ、そんな陰気臭いデートスポット……!
「ベストプラン……! 最高に好ましいシチュエーションではないか!
フハハッ! 何なら貴様と側近小娘も招待し、棺を囲ってダブルデートと洒落込むか!?」
「お待ちを、汝とレアコードさんの空間を、邪魔する訳にはいきません。汝たちが気兼ねなく楽しめるよう、私とデュヴェルコードさんは、ひとつの棺に閉じ込めておくべきです。
それはもう、出られない程のギューギューな箱詰めで」
どさくさ紛れに、私欲を剥き出してきたポンコツ修道士。
「フハハッ! そんな事、いくらでも手配してやるわ!
貴様に啓示を求めて正解であった、感謝してやるぞ! 我にかけられた精神支配の謎を解明できた、我はあの冷徹ダークエルフに恋をしたのだっ!!」
コジルドは両手で派手にマントを広げ、教会エリアに歓喜の声を響かせた。
その時……!
――コッ、コッ、コッ……!
教会エリアの入り口から聞こえてきた、聞き覚えのあるヒールの足音。
「――耳障りな奇声ね。この厄災ひとりボッチ」
入り口を見ると、そこには避難したはずのデュヴェルコードと共に。
「う、噂をすれば本人……すごいタイミングだな」
こちらに向かって歩いてくる、レアコードの姿があった……!




