3話 魔王責務3
「今、なんて言った!?」
さらりと飛び出したデュヴェルコードの発言に、俺はギョッと目を見開き食いついた。
「ひぃっ、怒らないでください……!
見通しが良かったので、と申し上げました。そうですよね、正門開けっ放しでは、ダメですよね。ビクビクッ……!」
怯えた小動物のように、頭を両手で隠すデュヴェルコード。
「いや……そこもだけど、そこじゃなくて! 『蘇生でも』の方だよ!
エリアボスを、復活させられるのか!?」
「可能です……! それくらい余裕なので、どうか怒りをお鎮めください」
「怒ってはない。驚いただけだ。
余裕でできる事なら、なぜもっと早くに蘇生措置をとらなかったのだ?」
「同胞が次々と討たれていく最中、わたくしは眠るロース様のお側にベッタリでしたので。この魔法は、現場に行かないと発動しないのです。
それに、蘇生魔法が使えるのは、城内にわたくししか居りませんゆえに…………褒めて?」
「いや、特に褒めはしない。
て言うか、城内で無二の魔法が、余裕扱いって」
もう、余裕ってなんだっけ……?
やはりこの世界の常識は、俺にとっての非常識だ……!
「そうだ! 試しに、先ほど燃やしたゴブリンを、この場で蘇生させてご覧に入れましょう。『いきありバッタリ』とも言いますし!」
その場の思いつきか、デュヴェルコードは両手をひとつ、パンッと叩いた。
それを言うなら、『行き当たりばったり』だろ。
なぜ、呼吸しながら倒れる羽目に……?
まさか蘇生直後に、ゴブリンをバッタリと倒したりしないよな……!
デュヴェルコードはゴブリンが燃えた場所へと、片手を翳し。
「いきます。『リザレクション』……」
優しく魔法を唱えた。すると。
「お前……今度は黄色のオッドアイが……」
デュヴェルコードの様子を見てみると、今度は黄色のオッドアイが、淡く光り出していた。
「ロース様、もうすぐです。あの魔法陣を、ご覧になってください」
俺は指示されるまま、ゴブリンを最後に見た場所へと視線を移してみる。すると、そこには魔法陣が出現していた。
視界に映った魔法陣の上には、神々しい光に包まれる、燃え去ったはずのゴブリンらしき姿が。
「マジかよ。本当に蘇生とかあるのか……さすが、非常識な世界……」
呆気にとられ、俺は小さく呟く。
次第に、光と魔法陣は薄く消えていき、地面に横たわるゴブリンだけがその場に残った。
「あれ? ここは……」
「そこの無礼者。完全燃焼した気分はいかが?」
ぼんやりとした様子で辺りを見回すゴブリンに、デュヴェルコードは不敵な笑みを向けた。
「ぎょっ、デュヴェルコード様! それにロース様も!
さ、先ほどは失礼致しました。もう、炎も紫もトラウマに……!
今後は気を引き締め、魔王にこの身を捧げます。あんな熱い思いは、懲り懲りです。
では、これ以上のボロを出さぬうちに、持ち場へ戻らせていただきます!」
完全燃焼を経て心を入れ替えたのか、丁寧にお辞儀をした後、ゴブリンは城内へと走っていった。
「よ、よほど怖い火炎だったのだな。ところで、あのゴブリンの持ち場というのは?」
「ゴミの焼却炉です」
「………………持ち場、替えてやらないか?」
城内へと駆けていくゴブリンの背中が、なんとも儚く見えた。
「しかし、凄いではないか。蘇生が可能なら、勇者を迎え撃つための、十分な戦力を揃えられるのではないか!?」
「はい…………。ですが……わたくし……もう、魔力が……」
デュヴェルコードは力なく、その場に倒れ込んだ。
「お、おいっ! 大丈夫か!」
俺は慌てて、倒れたデュヴェルコードの肩を掬い上げた。
「申し訳……ありません。魔法の連発で、魔力が…………。
少し休めば、回復……心配……ありません」
どうやらこちらも、別の意味で完全燃焼したらしい。
「それならいいが。だが勝手に始めたお試しで、自ら力尽きないでくれ……!」
「以後、気をつけますっ……」
デュヴェルコードは俺の腕に身を任せ、小さな息づかいのまま笑いかけてきた。
この調子で、うちの側近は本当に大丈夫か……?
「これもある意味……『息ありバッタリ』ですね……エヘヘ……」
「………………上手くねぇよ。まんまだよ」