表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/304

17話 魔族増強11





 モゾモゾと落ち着かない様子で、アレを要求して来たマッドドクトール。


「スクワット……だと?」


「ウヒッ、ヒヒヒ……! そうです、スクワットです」


 アレの正体は、筋力トレーニングの一種である、スクワットだった。

 マッドドクトールがらす口振りをして来たため、どんな要求をされるかヒヤッとしたが……。


「お前の前で、私に筋トレを披露ひろうしろと?」


「差し支えなければ是非、むしろ差し支えないでください。規則的で美しい筋肉の収縮を、ヒヒヒッ……。このくさった目に焼き付けたいのです! 目の保養にしたいのです!」


 マッドドクトールは口元を長いそでおおい隠し、輝きのない瞳を不気味に見開いた。


「ほ、保養になるかは分からないが、いいだろう」


 俺は少し顔をほころばせ、マッドドクトールへテンポ良く振り返る。

 何だ、この心が踊る気持ちは。俺も満更でもないのか……?


 この世界に来て、純粋に褒めてくれたヤツは、マッドドクトールが初めてかもしれない。

 ここまで派手に褒められると、不思議とモチベーションがたかぶってくる……!


 俺は両手を後頭部に構えるなり、お尻を後ろへ突き出すイメージで、その場に体を沈ませ始めた。


「ウヒッ、ヒヒヒ……! 何て力強さ、パツパツになった下半身のお召し物が、ハチ切れそうですよ!」


「ハ、ハハッ。まぁな」


 太ももが地面と平行になったところで、俺はマッドドクトールと目を合わせ、軽く笑い合った。


 だが、そんな時……。


「いい加減にしてください、おふたり共! 何だか不快です、見ていて不快です!」


 スクワットの1番キツいポジションで、突然デュヴェルコードが怒声を放ってきた。


「えっ……」


 俺は驚きの余り、自分がスクワット中だという事も忘れ……。

 スクワットの最下層で動きを止め、デュヴェルコードに顔を向けながら固まってしまった。


 この体勢はまるで、部下とベンチに腰を掛けていた最中さなかに、突風でカツラがあおられ、薄毛がバレてしまった時の中年上司みたいだ……!

 思わず振り向き、時が止まった瞬間のようになってしまった。


「あれれ? どうしたの側近ちゃん。何で怒っちゃった?」


「怒ってなどいません!!」


 揶揄からかう様子のマッドドクトールに、怒っていないと出せない程の声量で、否定し返したデュヴェルコード。


「いや……めちゃくちゃ怒鳴どなっているじゃないか。何か気にさわる事でもしたか?」


 俺はその場にスッと立ち上がり、デュヴェルコードをなだめようと声をかける。


「マッドドクトールさん。魔王に向かって、好き勝手な要求をしすぎです。

 ロース様もロース様です。魔王ともあろう御方おかたが、何をニタニタヘラヘラとしたがっているのですか。お顔のゆるみがなさけないです!」


 デュヴェルコードは胸の前で両腕を組み、俺たちに強い口調で説教してきた。


「ウヒッ、まーさか、側近ちゃん。ウチにロース様を取られると思った?」


「はいっ!? 何が言いたいのですか!」


 デュヴェルコードは途端に反応し、マッドドクトールにするどい睨みを利かせる。


「ヒヒヒッ……ムキになっちゃって、嫉妬しっと? これってジェラシー? ねぇ、ジェラ?

 側近ちゃんがウチへの報酬をケチるから、ロース様に心のサプリを処方して貰っているだけだよ。うらやましくなった?」


「し、嫉妬とは何ですか!?」


「ヒヒヒッ、強がってもダメダメ。顔に『嫉妬中』って書いてあるよー。

 それにぃー、側近ちゃんが許可した事だよね? 見ても減るもんじゃないから、満足いくまでご堪能たんのうしていいって。遠慮えんりょなくお好きなようにって! なのに今更嫉妬かなー?」


 長いそでの中で指を立て、クルクルと回しながら、おちょくる素振りを見せるマッドドクトール。


「ですからっ! 嫉妬とは何ですか!? 疑問形です!」


 デュヴェルコードはイラ立ちをあらわに、地面を力強く踏みつけた。


「………………えっ、そっち? まさか嫉妬という言葉の意味を知らないのか?」


「ヒヒヒッ、予想外、裏をかかれたよ。嫉妬とはヤキモチの事ですよー、ウブな側近ちゃん。

 好きな人が他の人とイチャコラしてるー、取られそうヤダー、の感情だよ」


「そうですか、理解しました。つまりおふたりのイチャコラまがいを前に、今わたくしがいだいている、この腹立たしい感情の事ですね」


 鋭い目つきのまま、デュヴェルコードは冷静沈着に自身の嫉妬を認めた。

 そこは怒りながらでも、素直に嫉妬認定するんだな……!


「ロース様、ご自慢のパカ筋肉を褒められて、そんなに嬉しいですか?」


「いやぁ……悪い気はしないと言うか。少なくとも『ゴブリンの顔面みたいな背中』などと、はやし立てられるよりかは高揚感が湧くと言うか……」


 俺が思いを述べるなり、デュヴェルコードの眉尻がピクリと動いた。


「そうですか、そうですか! 言葉が下手クソで申し訳ありませんね! そんなに褒められて嬉しいのでしたら、わたくしだって褒めちぎって上げますよ! 褒め殺して差し上げますよ!」


「ちょ、落ち着っ……」


「わたくしはムキになれても、ムキムキにはなれません! ですからロース様は、いつもムキムキで凄いですね!

 全身筋肉のついでに、脳みそまで筋肉ですもんね! さすが脳筋、素晴らしいですね!」


 俺の制止を跳ねけ、早口で言葉を並べるデュヴェルコード。

 こんなセカセカと言われても、褒め言葉にとらえられないんだが。て言うか最後の『さすが脳筋』だけは、ただの悪口だろ……!


「ウヒッ、ヒヒヒ。ウチもそれは気になっていました。本当に脳まで筋肉なら、是非とも頭を開いて拝見したいです!

 医者の探究心として、そして筋肉フェチにとっての新しい扉を開くために!」


 マッドドクトールは再び不気味な笑い声を出し、メスや俺の知らない医療具を、白衣の中から素早く取り出した。


「何だよ、そのドリルや万力みたいな器具は……!」


 そんなマッドドクトールの行動を目にし、俺の体に悪寒が走った。



 ――まさかコイツ、その見慣れない()()で、本当に俺の頭とか割らないよな……?




作品を読んでいただき、ありがとうございます!

「ちょっと面白いかも」「次のページが気になる」と感じましたら、ブックマークやお星様★★★★★を付けていただけますと、大変嬉しいです!

皆様の応援が、作者のモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ