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3話 魔王責務2





「あるんですよ! 薄っぺらいですが、希望が!」


 突然、両耳から手を離し表情を輝かせたデュヴェルコード。


「待て待て! 今、狙ったように私の覚悟を掻き消したよな!?」


「えぇっ! も、申し訳ありません! 何かおっしゃったのですか?

 わたくし、耳をふさいでいたもので、何も聞こえませんでした」


「…………おい。私の話を聞く、トンガリ耳の誓いはどうした?」


 デュヴェルコードはギクッと肩をすくめた。

 鋭い誓いどころか、なんて破れやすい誓いだ……!


「恐れながらロース様。わたくしの破った誓いを取り戻すべく、もう1度お聞きしても……?」


「はぁ……。まったく、ほっとけねぇよ……」


「ありがとうございます。それで、うすぺら希望の事ですが」


 お礼だけノーリアクションかよ。

 誓いって、こんなあっさりと破ったり取り戻ったりするの……? 所詮は、口約束だったか。


「その薄ぺら希望とやらに、私の覚悟が負けた気もするが……。

 まぁよい。聞かせてくれ」


「はい! それは…………ロース様の復活です!」


 まるで、親に満点のテストを見せる子供のように、満面の笑みを見せたデュヴェルコード。

 この笑顔だけは100点だ。しかしその割に、希望自体は本当に薄っぺらかった。


 しかも、その希望が俺って……。

 本人を目の前にしておきながら、さっきはあんなに悩んだのか?


「私だと……? て言うか、誰が薄っぺらい希望だ!」


「恐れながら申し上げますと、現状を分析ぶんせきした結果、決して濃い希望ではありませんでした。エッヘン!」


 それは分かるが、エッヘンって。

 誇るほどの分析力でもないぞ……!


「デュヴェルコードよ、せめて言葉を濁そうか。言葉をオブラートに包んだ上で、その濃くない希望とやらを聞かせてくれ」


「はい。ご説明致します。

 ロース様の復活。つまり、魔王城の頭脳復活!

 たとえ勇者のパーティが強力でも、ロース様の指揮があれば、ここまで攻略される事もなかった……はずです!

 もう過ぎた事なので、いくらでも強がれますね!」


「おいおいっ! それ、負け犬感ハンパないぞ! 決して今の発言を、私以外にするなよ。

 それに、もう過ぎた事なら、希望にすらならないだろ」


「希望ですよ! ここから魔王城の形勢を、立て直していくのです!

 ロース様のお目覚めにより、わたくしも動けるようになりましたし。側近として、眠るロース様のおそばに、ベッタリでしたから」


「ベッタリ? という事は私が眠っている間、お前は戦わなかったのか?」


「当然です。職務上、わたくしは魔王のお側を、許可なく離れる事ができません。

 それはもう、金魚のフン……失礼しました。残飯ざんぱんに群がるコバエのように。

 ですからロース様のお側につき、わたくしも参戦できるようになったのです! こう、シュッシュッと!」


 ファイティングポーズをとり、デュヴェルコードは可愛らしくシャドウを打ち始めた。


 それにしても、側を離れられない例え文句が汚いな。例え直しても汚いままだし……。

 その例えだと、俺が残飯になるだろ……!


「私よりも、お前の方が希望に思えてきたが……!

 しかし私たちふたり共、よくそれで無事に今日を迎えられたな。寝室に入られていたら、私たちは終わっていただろうな」


「恐らく、寝室はバレていました。完全攻略されたくらいですから。

 そして1度だけ、勇者に寝室のドアを開けられた事があります」


「はぇっ!? 侵入されたのか!?」


「いいえ、ドアを開けられただけです。なぜか勇者はこちらを見て、ニヤリと怪しく笑いドアを閉めました」


 気になるな……。勇者からすれば、目の前で魔王が眠っていたら、絶好のチャンスなのに。

 無防備な敵をたない、騎士道なのか?

 それとも、あえて……?


「私が目覚めてからでも勝てると、余裕を見せつけられた気もするが。

 どちらにせよ、寝込みを襲われなくて良かった」


「それは同意です。

 わたくしもその時は、着替え中により装備と服を脱いでいましたから。奇襲をかけられていたら、危なかったです……」


 モジモジと恥ずかしげに、上半身を横に往復させるデュヴェルコード。


 服を脱いでいたって……。勇者のニヤリした原因、それでしょ!

 完全に、魔王と側近のおっぱじめ前と勘違いされてるし!

 挙句に、勇者に気まで使われてるし!


「ゆ、勇者の大人対応ととらえておこう……。空気を読んでくれたのだな」


「そんな勇者には思えませんが、いずれ分かるとは思います。

 まぁ、寝室まで制圧されたら、それはもう攻略どころか、ただの征服せいふくですが」


「確かに……それは一理あるな」


 俺は間の抜けた一連の回想に、小さくため息をついた。


「少し話が逸れてしまった。先ほどの希望とやらに話を戻すが、厳密には何をすべきなのだ?

 勇者の右腕は、3日後に再来すると言っていた。時間もないし、できる対策も限られてくるぞ」


「まずは、正門を閉めましょう! これでは敵さんを、入れ放題ですから!」


「………………当たり前だ。むしろ、なんで今まで開けてたんだよ」


「えぇっ……! み、見通しが良かったから……。

 あとは、しょうもない対策くらいしか……エリアボスの蘇生でも致します?」


 デュヴェルコードは、人差し指の先端同士を、ツンツンと小さく当て始める。


「…………おい! 今なんてっ!?」


 俺は一拍遅れて、大いにしょうもなくない対策に食いついた……!



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