17話 魔族増強7
デュヴェルコードの蘇生魔法により、姿を現し始めた白衣のシルエット。
女性らしき姿が濃くなるにつれ、反比例するように淡い光が薄くなっていく。
「ロース様、蘇生成功です。彼女が名医にして医療エリアボスの、マッドドクトールです」
デュヴェルコードが紹介すると共に、魔法陣が消失。
その跡地に、大きめの白衣を羽織ったマッドドクトールの姿だけが残った。
「ここは……いったい」
目を開けるなり、不思議そうに辺りを見回し始めたマッドドクトール。
なんだか名医と言うより、マッド的印象の方がかなり強いな……。
袖は指先よりも長く、歩けば裾を地面に引き摺りそうな、身の丈に合っていない大きな白衣を着たマッドドクトール。
シミだらけな白衣の下には、ボロボロのシャツと破れたスカートを身に纏っている。
不気味なオーラを漂わせる彼女からは、怪しく汚げな雰囲気しか感じ取れない。
「あれれ……ロース様。それに側近ちゃんも。ウヒッ、ヒヒヒッ……!
どうしてこの医院へ、おふたりが? それにウチは、確か勇者にやられて……」
マッドドクトールは拳でコツコツと額を叩き、記憶を辿る素振りを見せる。
そんなマッドドクトールに物申したいのか、デュヴェルコードが1歩前に出た。
「お帰りなさい、マッドドクトールさん。チンピラ勇者に敗れたあなたを、ある事情によりわたくしが蘇生させました。
ついでに今のロース様には、過去の記憶がありません」
「ウヒッ、ヒヒヒ。ウチを蘇生? それにロース様が記憶喪失? どうして頭がポカンに?」
マッドドクトールは不気味に笑いながら、俺たちに首を傾げてきた。
「マッドドクトールさんがチンピラ勇者に敗れ、お亡くなりになっていた間に……以下略です」
「ウヒッ…………全然分からない、どゆこと?」
ゾッとするほど目を大きく見開き、マッドドクトールは更に首を深く傾げた。
「他の復活者さんや帰還者さん、ついでに敵さんたちにも、散々同じ説明をしてきたので理解してください。
腕も痛いし面倒臭いので、今回は説明を省略します」
「そんなっ、端折らないで! ウチはその皆さんの中に、微塵も入っていないでしょ、理解不能!」
「理解しようともしていない者に、詳しく説明しても時間の無駄です。いいから早くわたくしの腕を治してください」
「ちょっ……ウヒッ? これ何の横暴? 無茶苦茶すぎ。復活ホヤホヤなのに、分からない事が凄い速さで増えていく。
一先ず側近ちゃん、一旦この医院から消えて? 扱いに困る患者はお断り理念だから、ねっ? 後はロース様からいろいろとお話を伺うから」
「凄腕の名医でも、頭はパカですね。わたくしよりも、脳筋のロース様から情報が引き出せると言いたいのですか」
マッドドクトールを小馬鹿にするように、指で自身の側頭部をツンツンと指差すデュヴェルコード。
この側近、言い合いに熱くなりすぎて、本人の俺が背後にいる事を忘れていないか……?
「誰が脳筋だ、デュヴェルコード。少し言葉が過ぎるぞ」
「ロッ、ロース様! 失礼致しました、背後におられた事を完全に忘れて、ツルツルとお口が滑ってしまいました!」
途端に俺へと振り向くなり、デュヴェルコードは脱臼した片腕をプランと垂らしながら、90度のお辞儀をしてきた。
力が入らないにしても、そんな片腕の扱い方をしたら逆に痛いだろ……!
「はぁ……デュヴェルコードよ。少し口を閉じていろ、私が説明する。つまりだな…………」
俺は失態ばかりの側近に呆れながら、復活して間もないマッドドクトールに、これまでの経緯や騒動を説明した。
そして、一通りの説明が終わり……。
「ウヒッ、ヒヒヒ……! ロース様ぁ、それはレアなご体験でしたね。記憶がないって、どんなお気持ちです? ゾクゾク? ソワソワ? それともゲロゲロ?」
上半身をリズミカルに動かしながら、マッドドクトールが不気味な質問をしてきた。
「………………それはドクターの問診か?」
「ウヒッ、ヒヒヒ……! 単なる興味本位です。では改めまして、ウチはキメラクイーンのマッドドクトールです」
「キメラクイーン……! キメラの中でも上位種の存在か」
「そうですロース様。ウチはキメラクイーンにして、この医療エリアのボス。
美の追求を志し、我が身に数多の改造治療を施すも失敗した、魔王城一の名医です。当医院へようこそ」
白衣の中から瞬時に数本のメスを取り出し、自身の胸に添えながら浅いお辞儀をしてきたマッドドクトール。
失敗って、自身の体に医療ミスをするようなコイツが、本当に名医なのか……?




