17話 魔族増強5
プラントパウダーから逃れるため、俺はデュヴェルコードの手を取り、寝室から脱出を図った。
「行くぞデュヴェルコード。まずはこの寝室から離れる!」
俺はデュヴェルコードの手を引き、ドアを真っ直ぐ目指して走り出す。
その後ろを、デュヴェルコードも手を引かれながら慌ててついて来た。
「ロース様っ、急いで!」
「急げって、どう見てもお前が文字通り足を引っ張っているだろ」
催促されながらも俺は足を回し続け、寝室の出入り口から勢いよく外へ飛び出した。
「ドアを閉めるぞ! 早く外へ出るんだ!」
「そんな強引にっ……テ、テキチッ!」
クシャミなど構う事なく、俺はデュヴェルコードを外へ引っ張り出し、素早く寝室のドアを閉めた。
「もう大丈夫だろう……! 無事か、デュヴェルコード」
「全く大丈夫ではありません。事態が悪化しました」
「はっ!? 何で……」
デュヴェルコードの様子を見ると、なぜか気怠そうに腕をプランと垂らしていた。
「………………その腕どうした?」
「見て分からないのですか! 脱臼ですよ脱臼!
こんなか弱い美少女の腕が外れるまで、引っ張る必要ありました? パカです、本当にパカですロース様は!」
「いや、その……」
「せっかくのカッコいいエスコートチャンスでしたのに、胸キュンどころかDQNのやり口です! 腕が引きちぎれるかと思いましたよ!
女の子を連れ出すのでしたら、もっと優しく加減を考えっ……テキチ!」
「す、すまなかった。慌てて走り出したから、つい力が入った……。痛むか?」
「いいえ、それより鼻が痒いです」
脱臼を免れた片手で、これでもかと鼻を擦るデュヴェルコード。
プラントシンドロームとは、脱臼の痛みをも凌駕するほど、掻痒感を与えてくるのか……?
「その大病、タチが悪すぎないか?」
「ですから、決して外へ出なくて済むよう、事前にドラゴンを燃やしておいたのです。
こんな日に外出なんて、わたくしにとっては自殺行為ですから」
「そんな事情があったのか……。私もプラントパウダーには気をつけるとしよう」
「ロース様は大丈夫ですよっ……テキチッ!」
「なぜ私は大丈夫なのだ。まさか『可愛くないから』とか言わないよな? お前の理屈的に」
俺はデュヴェルコードの目線まで腰を落とし、疑いの眼差しを向ける。
「それ以前の問題です。だってパカは風邪を引かないと言いますし」
「………………どう見ても風邪じゃないだろ。アレルギーに知能指数は関係ない……って、風邪にも知能は関係ない。って言うか誰が風邪も引かないバカだ」
俺は呆れながら、ゆっくりと体勢を元に戻す。
「取り敢えずだ、まずはお前の腕を何とかしないとな。レアコードかコジルドの所へ連れて行こうか?」
「いいえ、ここはっ……テキチッ、テキチッ!」
依然として、ややこしいクシャミを連発するデュヴェルコード。
「ここは敵地ではなく、医療エリアへ向かいましょう」
「医療エリアだと? この魔王城に、医者が居るのか?」
「はい。正確には、居たですが。わたくしの哀れな腕を治せるであろう名医を、本日の蘇生1発目候補に進言致します」
デュヴェルコードは脱臼した腕をアピールするように、何度も指で差し示してきた。
「い、いいだろう。私にも多少の責任があるし、まずは医療エリアに向かうぞ」
「多少ではなく、『完全に』の間違いだと思いますが……。しかし今は責め立てている場合ではないので、急いで向かいましょう!」
「決まりだっ。それで、医療エリアはどこだ?」
「あちらです!」
デュヴェルコードは腕を垂らしたまま、顎でクイクイッと方向を指示してきた。
脱臼していない片手は使えるだろ、魔王を顎で使うな……!
「背負ってやるから、その顎使いは止めろ。背中の上からルートを普通に教えてくれ……!」
「も、申し訳ありません! では、大きなお背中に失礼致します」
俺が屈み込むなり、デュヴェルコードは背中に飛び乗ってきた。
「それではルート案内を開始致します!
目指すは名医『マッドドクトール』の眠る、医療エリアです! レディーッ、テ、テキチッ!」
「掛け声かクシャミか、どっちかにしろよ……!」
俺はデュヴェルコードを背負い、ハイテンションなナビの指示に従って、医療エリアへと歩き出した。




