16話 友力受諾7
俺はデストローガンを救うべく、デュヴェルコードに治癒魔法を掛けるよう指示を出した。
アンデット化していないのであれば、まだ助かる可能性は残されているはず。
「えっ! 治癒魔法ですか!?」
「そうだ、速攻で『ヒール』を頼む! 急いでくれ!」
「急げって、こんなドラゴンの死骸にですか?」
「死骸ではない、生きている! ちゃんと言葉も交わした!」
「またそれですか、その設定はもう結構です! いつまでイマジナリーフレンドごっこを続けるおつもりですか!
あと、ドラゴンの下半身にレア姉の猛毒液が流れ着いて、何だかこのドラゴンがお漏らしをしたように見えます!」
デストローガンの声が聞こえないデュヴェルコードは、信じられない様子でプイッと顔を逸らした。
こんな時に、何て酷い事を言いやがるんだ、この側近は……!
「何がお漏らし風景だ、今のは本当に余計な発言だぞ!」
「だってだって! 見るに堪えないほど、ばっちい光景が!
良くご覧になってください、どう見てもお漏らし直後ですよ!」
「不謹慎すぎるだろ! いいから私の指示を……」
『ロース様、もう良いのです』
死期を甘受したような穏やかな声で、デストローガンが俺の怒声を遮ってきた。
「どう言う、事だ……?」
『もう良いのです。余の体の事は、余が1番良く分かっております。
余はもう長くない。治癒魔法ではどうにもならない事など、分かっております……』
「デストローガン……」
俺は途端に、悔しさと遣る瀬無さで胸が一杯になり。
「無力で……すまないっ」
固く目を閉じ、グッと拳を握りしめた。
『ハハハッ……。どうしてロース様が、謝るのですか。余としては、最期に側で看取ってくださる御方が、ロース様で嬉しく思います。生涯で唯一、言葉を交わす事のできた御方と……』
俺は堪らず、ゆっくりとデストローガンに視線を向けてみた。
すると。
「………………本当に助からないようだな」
デストローガンの力なく閉じられた瞼から、うっすらと涙が滲んでいた。
そんな光景を前に、俺もこれ以上の救命を断念せざるを得なくなった。
きっとデストローガンも、ギスギスとした雰囲気で最期を迎えたくないはずだ……!
『直に朽ち果てる余の命……。ロース様、最後に余のワガママを聞いていただけませんか?』
「水臭いぞ。短い付き合いではあったが、互いに魔王軍じゃないか。それに、お前が生涯で唯一言葉の通じる、貴重な間柄だろ?
私に可能な事なら、遠慮せずに申してみろ。尽力すると約束しよう」
デストローガンは少しの間を置き、ゆっくりと口を薄く開いた。
『――穢れなきドラゴンである、余の血肉を……食ろうて欲しい……!』
「お前を、食らうだと?」
微かだが、自身を食してくれと願うデストローガンの口元が、微笑んでいるように見えた。




